第58話 黒江の真実

「一つ教えてくれないか?……なぜ学修会潰し、あるいは吸収をやろうと思った?」

「それは……」

 口ごもってから、黒江は意を決したように話し出した。

「鈴木君のお母さんが、学修会に洗脳されてるって知った時、全部が繋がった気がしたの……。鈴木君はお母さんを取り戻すために、学修会と戦える組織を作ろうとしてたんじゃないかって……」

「……やっぱり、バレてたか。……そうだよ、僕は最初から黒江を利用するつもりで近付いたんだ。……腹立たしいだろ?」

「……全然。怒ってない」

「えっ」

「……嘘、やっぱり怒ってたんだと思う」

「……だよな」

 一郎が心残りであった謝罪の言葉を続けようとした時だ。

 黒江が言う。

「でも、怒ったのは利用していたことに対してじゃない」

「えっ」

「その本当の気持ちを、隠されてたことに、怒ってた」

「は?」

「それを話して貰えるような関係を鈴木君と築けなかった、私自身も腹立たしかった」

「はあ……?」

「悔しくて、いっぱい泣いた……。最初からそう頼んでくれたらよかったのにって……。私はお母さん死んじゃったけど、鈴木君は違うから、まだ取り戻せるから……。だからずっと、力になりたかった……」

「……」

 そんな簡単な話だったのかよ……。

 変貌していく黒江が、理解不能に思えていたが、なんてことはない。

 何も変わってなんていなかったのだ。

 理解の不足が曲解を生み、単純では無い状況を生み出してしまっていた。

 優しい奴なのだ。

 黒江は不器用ながら、その言葉に感情を乗せて続ける。

「だからもう、私だけでやろうとした。学修会と戦おうって……。それに、気づいたの。このまま鈴木君が関わらない方が、罪も作らなくていいって……。だから……」

「……はあ?」

 本当に全部、僕のために?

 あれだけ利用してきたのに、自分が警察に捕まるかもしれないのに、いじめから救った事実に恩を感じて?

 ――いや、違う。

 それだけじゃない――。

 一郎ももう、気付いていた。

 黒江の想いが、今ようやく全て理解できた。

 黒江は強い意思のこもった目を向け、何度でも言う。

「……友達に、なろう」

「……」

 あの逮捕されたバイト先の馬鹿な先輩、鏡原と話していた時、一郎はとても楽しかった。

 今まで話したことのない考えを、話せる相手に初めて出会えた。

 自分のメインで生活する場から離れた、コンビニの事務所という空間であることも、一郎を素直にさせた要因の一つかもしれない。

 だが結局、彼はすぐに居なくなってしまった。

 復讐と奪還に取り憑かれ、本来それができた相手である根尾との関係も変わってしまった一郎がずっと、自身でも気付かない内に封じ込めながらも、求めていた存在。

 ……そうだ。

 僕はきっと『友達』と、なんの利害も躊躇もなく呼べる存在が欲しかったのかもしれない。

 ――いや、なんでも話し合える友達が欲しかったんだ。

 もうずっと、欲しかった。

 年相応に、普通に、楽しい日々を送りたかった。

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