第2話 ウエハース
僕たちのマンションから徒歩15分もかからないところに図書館がある。靴を履いて玄関を開けて一歩踏み出した途端家の中と外との温度差に身震いした。ウエハースのため…ウエハースのため…と思いながら、携帯・財布と少ない荷物にはもったいないくらい大きなトートバックを肩から提げ、僕は「猛暑」という名の地獄を歩いて行った。
15分間地獄を歩いた僕は「早く涼まなきゃ」と命の危機を感じ横断歩道を使わず正面のコンビニへと向かった。
コンビニの中は文字通り、天国で冷房が効いていた。行きつけのコンビニと言ってもいいほど何回も来ているコンビニの店内をくるくると何度も回った。何かを探しているようにみせて、ただコンビニに長居して涼んでいるという事実を周りの人に悟られないようにする。店内の時計を見ると10時47分を指していた。僕はまだ時間があるから涼もうと思っていたが店内は、ほぼ店員2人と僕3人だけの空間で気まずい無言の空気に耐えられずドキ署ウエハースを5つ手に取りコンビニを出た。
ドキ署とは最近流行っているドキドキ署内恋愛という警察コメディ・恋愛アニメだ。コロナウイルスに感染した遠藤さんからのおすすめでバイトの休憩中何故かアニメを1話見せられた僕は見事にドキ署にハマってしまった。主人公の姉、勇気ちゃんという子が推しである。32歳とは思えない幼稚な性格に綺麗な金髪、パッチリ二重で綺麗な黒い目、好きな食べ物はお好み焼きで苦手な食べ物は人参と可愛いところ。けど妹の元気ちゃんが泣いていたら泣かせた人をボロボロにしちゃうくらいの重い愛…。好きなところを挙げていったら僕が窒息死しちゃいそうなくらい魅力たっぷりの女の子。
そんな勇気ちゃんを推し始めて2ヵ月たった先月給料日の前日。
ドキ署一番くじが販売開始されて、財布の中がほぼ空に等しかった僕は咲楽から一万円を借りてくじを引きに行った。一番くじ以外に雑誌・有料配信ライブなどたくさんのことにお金を費やしていることを知っている咲楽に僕は「少し控えたら」と叱られた。
「なんでお前に怒られなきゃいけないんだよ」と言いたいところだったがルームシェア、悪く行ったら居候の僕にはいう権利などないよなと反省し、それからウエハースなどは大人買いしないと決めた…のだがやっぱりウエハース5個という数字は寂しい。10個や20個…店にあるだけすべて買いたい。という叶わぬことを考えながら道路を渡り反対側にある図書館へと歩いた。
ミーンミンミン
蝉が鳴いている。あと少しで図書館だ。早く涼みたい…が目の前に推しに似た子がいる。
僕はどうすればいいんだ。
夏 (仮) 乎笹木 梨 @kssk2604080
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