終わり

 ようやく泌尿器科への予約を済ませた。目星をつけた診療所は評判が悪くてやめようかと思ったが、ネットの評判は病院や診療所に関しては当てにならないとネットの書き込みで見たので、予定通り電話をかけることにした。先に睾丸のしこりについて話したほうがよかっただろうか、と思ったがタイミングを逃してしまった。

 翌日、泌尿器科へ向かった。

 思ったより気持ちは楽だった。もうどうにでもなれという感情が大きい。アンケートに答えて少し待つと、診療所内に緊張が少し広がっているような気がした。やはり癌の可能性があるともなると、こういった雰囲気になるのだろうか。奇しくもその日は4月1日だった。もし本当に癌であるのなら両親に電話を掛けるとき「これはエイプリルフールではない」ということをわざわざ言わなければならないと考えると億劫に感じた。

 名前を呼ばれたので、部屋に入ると少し無愛想な医師がいた――私はかなり無愛想だっただろうが。言われたとおりに下半身裸になり、エコー検査を受ける。ぬるぬるとして気持ち悪かった。


「んー、これは、水が溜まってますね」

「水が……」

「正確には精液が溜まっています。精液溜と言いまして。手術で取り除くこともできますが、現状放置していても問題はありません。どうしますか」

「いや、いいです……つまり癌ではない?」

「はい、そうです。では大きくなって困る、ということになったらまたいらしてください」


 肩の力が一気に抜ける。安心感が体中を駆け巡った。これまで通りの一日が続くということになる。

 そのあとのやり取りはとても簡素だった。医師は病状を告げたので患者に用はなく、私は癌じゃないとわかったのでここには用はなかった。そのことがはっきりと空気に表れていた。

 外に出ると、空は晴れわたっていた。足取りは軽い。

 とりあえずはおいしいものを食べたいと思った。

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いかなる痛みも伴わない去勢 五三六P・二四三・渡 @doubutugawa

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