神無月
10月31日と言われてみんなは何を思いつく?天才の日?日本茶の日?はたまた出雲ぜんざいの日かもしれない。そんなことよりも遥かに大事なものが僕にはある。
どんな人よりも大切な、可愛い、可愛い、僕の天使がこの世に生まれてくれた日。
「言い過ぎだと思うぞクロ?」
「いいんだよシロ。僕にとってシロは何よりも大切な人だから。」
少しムッとした顔をして口をとがらせるシロも可愛いけど、やっぱり笑った顔が見たいなぁなんて思ってるとシロが顔を溶けてしまうんじゃないかってくらい真っ赤にして少し早口で饒舌に喋り始める。
「そういえば、今日のクロの衣装かっこいいな。天狗か?」
「おしい!もう一声!」
「もう一声ってなんだよw…ヒント。」
「鳥が入る日本の妖怪です。」
「あー。妖怪なのはわかるわ。鳥、天狗、妖怪、
「ほんとに惜しいな〜。漢字はあってるから及第点にするか。」
「漢字はあってんのか。答えは?」
「鳥ってカラスとも読むだろ?」
「
「正解!」
黒と赤を基調とした袈裟を着て、いかにも天狗っぽい衣装になっている僕には家で見つけた口元がくちばしの形になっているお面と目元には赤いアイライナーを入れることで和風を意識している。
「そういうシロは雪女だな?」
「そう。母さんがこれ着ていきなさいって。」
シロはいつもの編み込みとおろしている髪型に白と青のグラデーションが掛かった着物に身を包み、青を基調とした帯で締めている。黄色い口紅とうっすりと入ったアイシャドウが黄金色の瞳を強調して、人外味を感じさせる衣装になっている。
「綺麗だな。」
「よせよ。照れるだろ。」
「いや本当に。満月の月と相まって消えてしまいそう。」
「はい、はい、ところでどこに向かっているんだ?」
「近くの公園。真っ先に家に向かおうと思ったんだが、お前気分良くないだろ?」
「げっ、ばれてら。」
「大人しくついてくる。逃げたら捕まえるからな。」
「それもばれてら。」
公園についてベンチに座らせて、自販機で飲み物を買って帰って手渡して、隣に座り込む。
「ん」
「さんきゅ。」
少し肌寒い風がお互いの間を這うように通って消える。明日から11月。期末テストへ述べ鏡をし始めなきゃだし、忙しくなるなんておもう。
するとふと思いついたいたずらをやってみようといたずらごころが芽生え腰を上げ、シロからは背中しか見えないような位置に移動する。
「うん?くろ?」
「これはこれは。雪女のお嬢さんが丑三つ時の夜の街へなんの御用で?」
くるりと身を翻し、軽く目を細めて白を見る。
「どうも烏天狗さん。こんな時間に雪女が出ていちゃいけませんこと?」
「そんな、とんでもない。」
袖を口に当て、冷ややかな目線を落とすシロにゆっくりと歩み寄る。やっぱノリいいなシロ。
「ただ、こんな人気のないところで彷徨っていては…」
ベンチの背もたれに押し倒す勢いで近づき、顎に手を添え目を合わせる。
「悪い烏天狗にさらわれてしまうぞ?」
腹の中に力を入れて、唸るように声を出す。眼の前の雪女は溶けてしまうほど赤くなており、少々やりすぎたかと思う。僕もなれないことをしたせいか、耳のほうが赤くなっている気もしなくもない。でも、シロの珍しい表情が見れたなら安いもんだ。
「そ、そろそろ、家に向かうか、いつまでもまたせておくわけにも行かないし。」
恥ずかしそうに未だに赤い顔をそらしながら差し出された提案にうなずき、公園を出る。
今年のハロウィンも忘れられないものになったなと記憶に刻み一緒に街の喧騒に戻っていった。
クロとシロの幸福 あめんぼ @the-wolf
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