コスモスが見えるあの場所で、約束のコーヒーを飲みましょう。
夢月みつき
第1話「前世の記憶」
私は、あの人と約束したの。もし再会出来たら、あのコスモスが見える場所でコーヒーを飲みましょう、って。あの人は、まだ覚えていてくれるかしら?
白いレースとフリルの付いたワンピース。
席に座る男性客達が、ちらちらと遠目で見ている。
彼女の名は、
毎日、このカフェに訪れては、コーヒーを頼んで誰かを待っている。
しかし、閉店ギリギリまで待ち悲しそうな表情をして去っていく。
それを連日、繰り返している。もう、店員に顔を覚えられてしまうほどに。
彼女は、実は前世の記憶の持ち主で、転生する前に彼と、約束したこの場所でずっと、待ち続けているのだ。
「普通の人は、記憶なんて持っていないわよね。」
そう、少女のようなあどけなさの残る声でつぶやく。
かれんは、
待っても無駄だと言う事は、彼女も充分に理解しているのだろう。
しかし、あの前世の約束の光景が、脳裏に焼き付いて離れないのだ。
この場所にコスモスは、もう咲いていない。とっくの昔に無くなってしまった。
しかし、奇跡的にカフェだけは、同じ場所で新しくオープンしていた。
前世のかれんと想い人の彼の二人は、その頃の家のしきたりで、結ばれることは決してなかった。
世を儚んだかれん達は、若くして、共に海に身を投げて心中した。
「ねえ、逢いたいよ。
かれんの瞳から、はらはらと悲しみの涙がこぼれる。
どうして、自分だけ、記憶を持って生まれ変わってしまったのだろう。
一度は、嘆き諦めようとした。
しかし、前世の記憶が、彼女の持ち前の負けん気と粘り強さが。それを許さなかった。
その日も、かれんはカフェに現れて一人、コーヒーを飲んでいた。
彼女は時折り、溜め息を吐かずにはいられなかった。
その時、一人の髪を金髪に染めた、感じの悪い男性がかれんに声を掛けて来た。
「彼女~、今一人~?」
男は、にやにや薄ら笑いを浮かべながら、かれんを嫌らしい目で見つめる。
(何この人。怖い)
彼女は、男に嫌悪感を抱いた。
「私には彼がいますので!」
強い口調で言うと、男は引くかと思いきや。かれんの目の前の席にどっかと乱暴に座って来た。
☆++☆++☆
かれんが、嫌がって懸命に目をそらしていると、黒髪の男性がかれんに向かって歩いて来た。
その男性は、一言。
「俺の彼女なんだけど。何か用?」
と男をぎろりと睨んだ。
「チッ、本当に男連れだったのか!つまんねえ」
男は、心底面白くなさそうに舌打ちをして、捨て台詞を吐くと店を出て行った。
「あの…助けてくれてありがとう。もう大丈夫です」
ほっとしたかれんは、男性に微笑を向けて頭を下げる。
黒髪の男性は、少し照れながら、困ったようにぽりぽりと頭をかいた。
片手に下げたレジ袋から、たくさんのコスモスを取り出し、かれんに手渡しながら熱っぽい視線で見つめる。
「ごめん。待たせたね。美紅(みく)。記憶が戻るのに時間が掛った」
彼の口から出た美紅の名は、かれんの前世の名前だった。
かれんは、はっとして勢いよく席から立ちあがる。亜麻色の髪が、さらりとなびいた。
「
もう、二人の間にそれ以上の言葉はいらなかった。
かれんと春明は、人目をはばからず抱きしめ合った。
ふたりは、輪廻を越えて、再び巡り合うことが出来た。
春明もまた、前世の記憶をある日、突然取り戻し。その日から毎日、コスモスを持ちながら美紅が待つであろう。この店を探していたのだった。
“コスモスが見えるあの場所で、約束のコーヒーを飲みましょう”
その二人だけの合言葉で、ようやく繋がったかれんと春明は今度こそ、離れないだろう。
もはや二人の間に、束縛などないのだから。
夕陽に映し出された、二人のシルエットが、幸せそうに重なった。
その後、かれんと春明の現在の名である
もちろん、コスモスを愛でながら。
-終わり-
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最後までお読みいただきありがとうございます。
コスモスが見えるあの場所で、約束のコーヒーを飲みましょう。 夢月みつき @ca8000k
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