第26話 後日譚と宣戦布告
その後、シェンが捕まえた人さらいの証言で、ボルギア家の当主が裏で糸を引いていたことが分かったらしい。
私を消すことで、娘のベル嬢を彼の婚約者に据えようとしていたらしい。
何でそこまでするんだろうと思ってしまうが、商人上がりのボルギア家は爵位に固執していたんだとかなんとか。
そのためフリード家の侯爵位がどうしても欲しかったらしい。
正直、ただの平民だった私には分からない話ばかりだった。
ともあれ問題は解決したのだ。
「エリィ様、そろそろ参りましょう」
「はい」
ソニアに呼ばれ、私は深呼吸をひとつ。
部屋から出ると彼女と、そしてシェンが廊下で待っていた。
「行こう」
シェンはやさしく手を差し出してくる。
「ええ」
私は彼に手を引かれ、今や歩き慣れたフリード家の廊下を歩いた。
今日は、あの日の騒動で結局中止になってしまったパーティーのやり直し。
私たちがパーティーホールに入ると、そこにいた誰もがこちらに視線を注いだ。
そこに含まれるのは好奇、羨望、嫉妬、様々な感情に晒され、少しお腹に力が入る。
その時、ほんの少しだけ彼は手に力を込めて私を勇気づけた。
私は足に力を入れて、彼に遅れないようにホールの中央へ歩を進める。
「本日は私たちのためにお集まりいただきありがとうございます」
シェンが人々に向けて堂々と挨拶をしているのを、私は隣で静かに聞いている。
「……」
きっとボルギア家の一件は氷山の一角に過ぎないのだろう。
私には想像もつかないような苦難がこの先も待ち受けているに違いない。
それでももう私は自分から彼の手を離したりしない。
そうすれば彼はこの手をちゃんと話さないでいてくれると知っているから。
「エリィ」
シェンに小さく名前を呼ばれ、私は一歩前に出る。
しっかりと覚えた所作で皆様にお辞儀してから、私はこちらを見る人たちに向けて微笑を浮かべた。
この幸せからもう逃げない。
そのために彼とともに戦うと、そう宣戦布告するように。
「エリィと申します。皆様どうかこれからよろしくお願いいたします」
10年前に孤児院を巣立った彼が英雄になって戻ってきて私に求婚してきた話 べにたまご @Kanzetsu
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