第6話 10歳(3)
座学が終わると、吾輩はこっそりと屋敷の中庭に向かった。
「確かここら辺で剣を振っていたな...」
吾輩の目的は奴らが振っていた木剣だった。辺りを見回しながら歩いていると、屋敷の物陰に数本の木剣が立てかけられているのが見えた。嬉々として木剣に近づく。
「本当は真剣が良かったのだが仕方あるまい」
1本を手に取り、構えてみる。懐かしい。まだ幼かった頃、このような木剣で剣技の練習をしたな。
体はまだ剣の振り方を覚えているようて、自然に体が動く。
ふと、背後から複数人の足音が近づいて来ることに気がついた。振り向くと、そこには吾輩よりも少し年上の男子が3人いた。
「おい、女のくせになにやってんだよ」
「勝手に僕達のものに触らないでよね」
「ちょ、ちょっと2人とも...」
吾輩は笑顔をつくると少し腰を折る。
「ごきげんよう、お兄様方」
この3人は現在の吾輩の兄にあたる存在だ。
黒髪の態度が大きい奴が長男のルキウス。
黒髪の気弱そうな方が次男のシリウス。
そして、我輩と同じ色素の薄い髪が三男のリオスだ。
「お兄様方の剣を振る姿が素敵で、どうしても私もやってみたくなったのです」
吾輩がそう言うと、ルキウスとリオスが腹を抱えて笑う。
「ははは、女のお前がかよ!そんなに気になるんだったら俺が直接相手をしてやろうか?」
「いいのですか!?」
吾輩は思わぬ提案に食い気味で答える。1人で振ってるだけでは味気ないので、ちょうど相手が欲しいと思っていたのだ。
「はぁ?何本気にしてるんだよ」
ルキウスはまさか吾輩が食いついてくるとは思わなかったようで、困惑の表情を浮かべていた。もう1本木剣を手に取ってルキウスに投げ渡す。
「本当はもっと強い方と戦いたいですが、しょうがないのでお兄様にお願いいたします」
相手を乗り気にさせるためにわざと挑発的な発言をする。ちらりと彼の表情を盗み見ると、目論見通りイラついているのが分かった。
プライドが高いこいつはすぐに煽りに食いついてくれた。
「女のくせに舐めやがって...」
「兄貴、こいつに痛い目見せてやってよ」
リオスが言うと同時にルキウスが木剣を構える。
「手加減は必要ありませんよ」
「お前が下だってわからせてやるよ」
吾輩も木剣を構えてルキウスに対峙する。彼の顔には血管が浮かび上がり、怒りの表情が浮かんでいた。
「や、やめなよ!アスティルも危ないよ」
「グズは引っ込んでなよ」
今までおどおどしていたシリウスが二人の間に入ろうとしたが、リオスに押さえつけられる。
剣を再び振るえる喜びで吾輩は思わず笑みを浮かべた。。
_____________________________
<キャラクター紹介>
▶️ルキウス・アルバーティン(14)
...アルバーティン家の長男。プライドが高く、キレやすい。父親と同じく、女性を下に見ている。武術に長けている。
▶️シリウス・アルバーティン(14)
...次男であり、ルキウスの双子の弟。兄と異なり、気弱な性格。温厚で優しい。運動が苦手だが、勉学と魔術に長けている。
▶️リオス・アルバーティン(12)
...三男。狡猾な性格。堂々としているルキウスを尊敬し、シリウスは馬鹿にしている。なんでもそこそこにこなすことができる。
魔王様は平和に暮らしたい 〜勇者に敗れた魔王が姫に転生!?今度こそ平穏な暮らしを手に入れてみせるそうです〜 物部ネロ @KIEN_MN
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