四話 連絡

「おぉそうか! 結構早くに見つかってよかったな!」


「僕……もう一回この人に会ってちゃんとお礼をしたい! そして入隊したい!」


「入隊……? 椛それは記憶を取り戻してからの方が良いんじゃないのか?」


「いや……! 待てない!」


「それは待った方が――」


「出かける準備だーー!!」


 僕は抑えきれない気持ちから、自分の部屋に向かって走りだした。


「椛……落ち着け……!」


「うおおおお!!」


 数分後――


「何をしたらいいんだ……」


 僕は自分の部屋で正座し、地面に両手を付き、地面を見て落ち込んでいると、部屋の扉が開いて母が僕に話しかけた。


「椛……今ダンジョン調査隊の方が来ているらしいけど……」


「えぇ!?」


 まさか……!? そうか……やっぱり病院で別れたきりもう会わないはないよな! 


 僕と父は玄関まで移動して僕が外に繋がる扉を開けた。すると見たことのある格好の男二人が目の前に立っていた……って小林と別の男の二人組だけかーーい!! 


「こんにちは。ダンジョン調査隊の小林と」


「橋本です」


 橋本もいるはどうでもいいーー!! ってこの人僕をおんぶしてくれた人だーー!! 


「おぉ……息子の椛を助けてくれた方々ですね」


「はい」


「すみません……うちのバカ息子が……」


 お父さんは小林と橋本にペコペコ頭を下げながら謝罪した。


「君の配信を見て僕達に連絡が来たんです」


「配信……?」


「配信だけにはい、死んでませんでしたってね!」


 小林ーー!! うぜーー!! 


「若者がダンジョンに突入して死んでいくのは多いのですが、君は配信をしていたのでそれを見ていた方が通報してくれたんですよ」


「正直君は死ななかっただけマシなんだ」


 まぁ……小林の言う通り僕は死ななかっただけマシだな……


「しかし椛は記憶を失ってしまいましたし……記憶を戻すリハビリをこれからさせていこうと思います」


 お父さん! リハビリはいいって! 


「あぁ……そのことなんですが……普通にリハビリをしても記憶は戻らない可能性があるんです……」


「えぇ!?」


 僕と父は同時に叫んでしまった。リハビリしても記憶は戻らないってどういうこと……? 


「病院で調べた結果、頭に衝撃はあったらしいのですが、記憶を喪失する程ではなかったらしいのです」


「ん……? どういうことですか?」


「つまりこれは……魔法による記憶喪失なんです!」


「魔法!?」


「ダンジョン内には魔法が存在します。息子さんはダンジョンに入っている時に受けた魔法による記憶喪失の可能性が高いのです」


「そうなのか……椛!?」


「あぁ……確かに僕は意識がはっきりしたまま記憶喪失になった気がするような……」


「じゃあ……どうしたら息子の記憶は戻るんですか?」


「それは恐らく……ダンジョンを攻略するしか……」


 はっ……! この流れはもしかしたら……! 


「ダンジョン攻略ってどれくらいかかるんですか……? 息子の記憶を取り戻す為にやってくれるんですよね……!」


「それは……」


 僕は右手を挙げた。


「あの……! 僕をダンジョン調査隊の一員に入れてくれないでしょうか!」


「なんだって……?」


 橋本は驚きの表情になりそう言う。まぁ……記憶を喪失したばかりの者がする頼みではないしな。


「君……本当?」


「僕は僕の手で記憶を取り戻したいんです!!」


「そう言われてもなぁ……」


 本当は記憶を取り戻すのはどうでもよくて、隊長にものすごく会いたいだけなんだけど! 


「駄目だ」


 うそぉっ……! 橋本厳しいなぁ……


「ダンジョン攻略はボスを倒すことだ。ダンジョンのボスは屈強な魔物やドラゴンなことが多い。そのボスを倒すには厳しい訓練を受けた者でなければならないのだ」


 僕は厳しい訓練には耐えられそうに無いってことかぁ……


「いや、橋本さん。ダンジョンにこいつを連れて行き、ダンジョンのボスに記憶を取り戻してくれるよう頼んだら、もしかしたらこいつがボスと戦わずに済むかもしれませんよ」


 え……! 小林ぃぃ!! 


「確かに小林の言う通りこいつが戦わなくとも記憶が戻る可能性はあるな……」


 ひょっとしていける!? ありがとう小林! もう小林さんって呼ぼう! 


「やはり危険だ。まだ例のダンジョンのボスの情報は無いからな」


 くそぉ〜橋本ぉ……いやまだだ! 僕は一人でドラゴンを倒したことがあるんだった! 


「……僕、ダンジョンにいたドラゴンを記憶喪失状態でも倒したんです! それでも駄目ですか……!?」


「ドラゴンを……!? しかも記憶喪失状態で……!?」


 橋本が僕を疑いの目で見始めた……そりゃそうだ。だが、配信をしていたから証拠はあるんだ! 


「それは本当か……? うちの隊でドラゴンを一人で倒したことあるのは隊長ぐらいしかいないが……」


「僕はその様子を配信していたんですよ……!」


「……あ、そう言えば橋本さん。僕その配信を確認しましたよ。ダンジョン内を歩いている様子だけでしたが」


 おぉ! また小林さんが来たー! 


「通報内容聞いてその配信を探したんすよ。まぁ……僕が確認した数分後に動画は削除されてましたけど」


 小林さんマジ神! 


「ネットを漁れば配信の切り抜きが出回ってるかもしれませんよ」


「う〜む……ドラゴンを一人で倒したことが本当なら凄いことだが……」


 揺らいでる! 良いぞ! 


「あのぉ……」


 母が扉を開けてその場に顔を出した。


「お話は中でしませんか?」


「あっ……すみません……」


「みなさん。母さんへ説明を込めてみんな中で話をしましょう」 


 ダンジョン調査隊は家の茶の間に入り、交わされた会話の内容を母に伝えた。


「母としては……挑戦してみても良いかと思います」


「挑戦ですか……」


「お願いします! 面接だけでも……!!」


「う〜む……」


 かなり悩んでいるなぁ……橋本……


「分かった……面接をしてもいいか隊長に連絡してみます」


 いよっしゃー!! 


「一応連絡してみるが……隊長は僕より厳しいから許可が出るかどうか……」


 橋本はスマホの様な物を取り出した。


「それはスマホですか!?」


「あぁスマホだ。今から隊長と話す」


 橋本はスマホを持ったまま立ち上がり、なぜか茶の間を出た。


「もしもし」


 橋本が隣の部屋に行ったから隊長の声が聞こえねぇ……! 


「あのですね……はい……昨日ダンジョンで一人の男を救ったじゃないですか」


 う〜ん……橋本の声が聞こえるだけで隊長のお声は全く聞けそうにない……


「今その男が住む家にいるのですが……」


 喋ってる声が丸聞こえだからここでしろよ! 


「そいつがダンジョン調査隊に入りたいって言うんですよ」


 あぁ……心臓の音が聞こえ始めた……僕は今ドキドキしている……面接良いのか……駄目なのか……! 


「え!?」


 え!? 


「……分かりました」 


 橋本が『分かりました』と言ってまもなく、橋本が茶の間に戻って来た。


「面接なら受けに来て良いと……」


 やったーー!! 


「やったなお前!」


「やりましたよ小林さ〜ん!」


「まぁ……隊長が良いって言ったから良いのだろう……」


「僕、絶対受かります!」


「じゃあ……今からこいつを連れて行く感じですか?」


 小林が橋本にそう質問すると、橋本は数十秒間僕の両親の表情を伺った。


「今から……連れて行って良いですか?」


「あぁ、椛が行きたがってるからな」


「お願いします……」


「親御さんの許可も得たし……行くか?」


「はい! 行きます!」


 僕は橋本の問いに元気良く返事をした。



 午前9時頃、僕はダンジョン調査隊の本部があるという場所へ行くため、荷物を何も持たずに家の外に出た。


「とりあえず近くの駐車場に駐めてある車に向かいます」


「よろしくお願いします……」


 父と母は橋本にそう言ってお辞儀をした。


「行ってきまーす!」


「椛……危険な目に遭うかもしれないけど……記憶を取り戻す為に頑張ってきてね!」


「お母さん分かった! 僕は必ず記憶を取り戻すよ!」


「頑張れよ椛!」


「頑張るよお父さん!」


 僕は両親の二人に向かって手を振り、ダンジョン調査隊の二人と共に歩き始めた。

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