三話 北海道のダンジョン調査隊

「記憶喪失だと……?」


 助けてくれた女の方は僕にそう言って詰め寄って来た。


「名前も分からないのか?」


「なっ……名前は……タンしおですぅ……」


 鼻水垂らしながら僕は救世主に名乗った。


「タ……タンしお……?」


 不思議そうな表情になっていた救世主がさらに不思議そうな表情になった。


「……冗談では無いのか?」


「はい……記憶がございませぇ〜ん……」


「本当……なのか……?」


 救世主が僕に疑いの視線を向けた時、救世主と同じ柄の服を着ている複数の者がその場にやって来た。


「隊長……そいつが……」


「この者を連れて外に出るぞ」


「了解!」


 救世主は後からやってきた人達にそう指示し、周りのやってきた人達全員返事をした。僕はその指示を受けた人達に囲まれた。


「ダンジョンは危険なのに何故飛び込むんだ……お前立て……」


 僕を囲った人達は僕の腕を引っ張って僕を立たせようとしている様だったが、僕は足が震えて立てなかった。


「す……すみません……足が震えて……」


 僕は立ち上がろうにも、足に力が入らなかった。


「しょうがないな……おんぶしてやるよ……」


 その後、僕は救世主の仲間におんぶされながらダンジョン内を移動していた。他の救世主とその仲間達は真っ暗な洞窟に明かりを灯しながら洞窟の出口があるという方向に向かって歩いていた。


「あの……助けてくれてありがとうございます」


 おんぶされながら僕は救世主に向かってそうお礼を言うと、救世主は足を止めて振り向いた。


「……記憶を失くしても礼は言える様だな」


 僕は僕に疑問をぶつけた時の救世主の顔は美しく思えた。


「え!? 記憶が失くなったの!?」


 救世主以外の人は驚きの表情になった。


「はい……」


「え〜? 本当か〜?」


 一人の者が僕に疑いの目を向けてそう言って来た。


 僕が記憶が失くなったってこと本当なのにな……それよりこのまま僕はここから出た瞬間に強くて美しくて優しい救世主の名前も聞かずに一生会えなくなるのだとしたらそれは絶対に嫌だ……! 今すぐに名前を聞こう!! 


 僕は勇気を振り絞って隊長と呼ばれる救世主に話しかけようと息を吸った。


「隊長って……名前でなんですか?」


 僕は……どんな手を使っても覚悟でもあの人の名前を知りたいんだ!! どうか答えてくれー!! 


「……今は自己紹介をしてる暇はない」


「え……」


 救世主は自身の名前を教えてくれなかった。


「えぇ〜隊長恥ずかしいんですか〜?」


 恥ずかしい……? 


「ちなみに俺の名前は小林で、俺達はダンジョン調査隊だ」


 右向いてすぐ見える位置にいる男はそう名乗った。


 あんたの名前は別にいいよーー!! 


「まぁ……記憶喪失が本当だとしたら、取り戻す為のリハビリ頑張れよ!」


 小林に言われてもなぁ……なんとしてもあの人の名前が聞きたい……! どうしたら……どう話せば……


「記憶喪失なのにペラペラ喋るな……」


 僕をおんぶしている男がそう言った。


「今言ったのがクールな性格が売りの相澤だ」


 ってだからその他はどうでもいいってーー!! 


 その後数分間、僕はおんぶされながらどうやったらあの人の名前が聞けるか思考を巡らしていると、意識が薄れていくのを感じた。



「はっ……!!」


 僕は目が覚めるとどこかの部屋のベッドの上だった。


「ここはどこ……?」


「おぉー! 目覚めたか!」


 横を見ると椅子に座っていたおじさんがいて、そのおじさんは嬉しそうな表情になって立ち上がった。


「記憶喪失になったのか? もみじ?」


「もみじ……? タンしおじゃなくて……?」


「タンしお……?」


 不思議そうな表情になったおじさん……何者なんだ……


「あの……あなたは……」


「記憶喪失になったということは本当なのか……俺はお父さんだぞ……」


 お父さん……この人がそうなのか……! 


「いつもならお前に……なんでダンジョンに入ったのかと叱りたい所だが……記憶が無くなっちまったんだからな……」


 そう言う僕のお父さんだと名乗った人の顔は寂しそうな顔になった。


「椛!!」


 そう言いながら勢い良く部屋におばさんが一人入って来た。恐らくお母さんだろう……


「警察の方から椛がダンジョンに行ったって言われて慌てて来たのよ……!!」


「……ごめんなさい」


「ねぇ……私のこと分かる……? 母よ……!」


「う〜ん……母と言われても覚えてない……」


「椛は本当に記憶喪失かもしれんな……雰囲気が違う」


「そうね……記憶戻るまで頑張りましょう」


 僕の母の女性はそう言って優しく僕の両手を握った。


「分かった……」


 僕はそう返事したが……そんなことより気になるのは……僕を助けたあの方にはもう会えないのかってことなんだぁーー!! 


「どうした椛? 変な顔をして……なにか思い出したのか?」


「お父さん……ダンジョン調査隊の人に会わなかった……?」


「ダンジョン調査隊……? 俺が椛と再会した時病院だったからな……」


「びょ……病院……!?」


「ちなみにここは家族で住んでいる家よ」


「そうなんだ……」


「お礼をいいたいのか?」


「はい……ちゃんと言いたいんです……!!」


 僕は父に向かって精一杯の頼み顔をした。


「すまん……ダンジョン調査隊の名前は分からない……俺が椛がいる病院に着いた時にはダンジョン調査隊の方はいなかったからな……」


「まじで……?」


「ダンジョン調査隊は北海道だけでもいくつかあるからな……」


 まじか……もう強くて美しくて優しい隊長に会えないのか……


「病院の人に聞いてみるか」


 僕の父はそう言うと、身に付けているカバンの中からスマホと紙を取り出した。


「あれは……」


 僕がドラゴンと戦っている時に使った物……スマホ……そう言えばあの三人は……


 数分後、父は病院の先生と電話で話を始めて僕を病院に連れてきたダンジョン調査隊の人達について聞いてしばらく話しをした。


「……はい。ありがとうございました」


 そう言ってお父さんは病院の人との通話を終えた。


「病院の方もどこの隊か伝えられなかったそうだ……」


「お父さん……ダンジョンっていくつかあるの?」


「あぁ……北海道だけでも何千と出現しているらしいと聞いたが……」


 今日……何回悔しがればいいんだ……記憶なくなる……見つけたお宝を取られる……僕を助けてくれた強くて美しくて優しい隊長とさよならしちゃう……



 その日の夜、ベッドで横になっている僕は眠れずにいた。


 駄目だ……全然寝れない……


 僕は頭の中で、隊長の姿を何度もイメージした。忘れないように。


 明日になったら忘れるってことはないよな……



 次の日の朝、なんとか眠りについていた僕は目を覚ました。


「あの時の隊長〜〜!!」


 そう言いながら僕はベッドから起き上がった。


「椛〜? 起きたの〜?」


 母のそう言う声が別の場所から聞こえてきた。


 今の聞かれてた……? としたらなんか恥ずかしいな……


 僕はパジャマから着替えて茶の間に来た後、テーブルで家族三人で朝ごはんを食べ終えた。その時に父は僕に近付いた。


「椛、元気か?」


「う〜ん……やっぱりまずその調査隊の方にちゃんとお礼を言いたい……」


「その椛を助けた調査隊をか……分かった。調べてみるか」


「お願いします……」


「その調査隊のメンバーの名前とか聞いてないか?」


「確か部下の名前は聞いた……えっと……あれだよ……えっと……」


「忘れたのか?」


 駄目だ……隊長の姿を覚えることに必死で他があまりにもどうでもよすぎて部下の顔も出てこない……! 


「隊長の姿とかも思い出せないか?」


「そ……それは……!!」


 うっ……なんか……急に恥ずかしくなって来たな……でも……恥ずかしがってる場合じゃない! 一刻も早く強くて美しくて優しい隊長に会うんだ……!! うおーー!! 


「た……確か……隊長は女の人で……特徴はショートの黒髪に探検帽被ってて美しかった……」


「女の隊長か……何人もいると思うが……一応北海道のダンジョン調査隊の女隊長って調べてみるか……」


 父はスマホを触り始めた。


「北海道のダンジョン調査隊の女性隊長……」


「女性隊長……この人か?」


 数十分後、スマホを触ってた父は一人の探検帽を被る女性が映っているスマホの画面を僕に見せた。


「こここ……この人だぁぁーー!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る