二話 ドラゴンへの抵抗

 ブラック林道

 逃げ道は無いのか! 


「見た感じ無い……部屋唯一の出入り口をドラゴンで塞がれている……」


 イスのローラー

 もう終わりじゃん……


 ブラック林道

 宝の中に武器とかはないか!?


「武器!?」


 裁ちバサミカッター

 宝剣とか探せ! 


「なるほど……! 分かった!」


 ブラック林道

 取り敢えずリスナーの言葉を聞いて動け


「リスナー?」


 裁ちバサミカッター

 ファンのことだよ


「……分かった。僕やるよ」


 僕はスマホの画面をドラゴンに向けた


 ブラック林道

 スマホ設置してる場合か


 裁ちバサミカッター

 記憶消えても配信者魂あるのかよ


 イスのローラー

 持ってるスマホの画面を下に向けて宝の山を上れる? 


 僕はスマホの画面を下に向けたドラゴンを見ながら宝の山を上って行った。


 ブラック林道

 とにかく怖い顔をして威嚇しながら後ろに下がれ


 裁ちバサミカッター

 ヒグマかよ


 イスのローラー

 ドラゴンの対処法知らないけどやってみるしかない


 ブラック林道

 武器あった! 


 裁ちバサミカッター

 しゃがんで掴め!


「これ……!?」


 僕はドラゴンを睨みながら地面にある装飾が豪華な剣を手にした。


 イスのローラー

 やった! 


「ゴルアァァ!!」


 今まで大人しくしていたドラゴンは僕が武器を持ったせいか瞬間に叫びを上げながら口をあけて鋭い牙を僕に向けて襲いかかってきた。 


「ひっ……!」


 ブラック林道

 逃げろーー!! 


 ドラゴンは僕に向かって噛みついて来たが、僕は勢い良く跳んでかわした。


「危ない……」


 ドラゴンは部屋の入口を塞ぐ位置に移動した。


 ブラック林道

 あいつ! 入口塞いでやがる! 


 裁ちバサミカッター

 タンしおが逃げないようにか。賢いドラゴンだ


 イスのローラー

 ドラゴンを倒すしかないの? 


「記憶喪失流剣術とかあれば……」


 裁ちバサミカッター

 ねぇよ! 


 イスのローラー

 記憶失ってもおもしろワード言いたくなるのすご


 ブラック林道

 本質は変わってないってことか


「僕がドラゴンを倒す所を見て欲しい」


 僕は宝箱にスマホの画面を外に向けて立てかけた。


 裁ちバサミカッター

 こんな時に真面目に配信しようとするな! 


「応援頼む。僕は……記憶を失っても絶対に命は失わない!!」


「ゴルアァァァ!!」


 再び僕の元にドラゴンが向かって来た。


「来る……!!」


 ブラック林道

 左にとべ! 


「うおぉぉぉ!!」


 僕はドラゴンの噛み付きを左にジャンプしてよけて剣でドラゴンを大きく斬った。


 ブラック林道

 やったか!? 


「オオォォォ……!!」


 斬られたドラゴンは倒れた。


「やった……」


 ブラック林道

 おおおおお


 イスのローラー

 おおおおお


 裁ちバサミカッター

 めっちゃ剣強!! 


「記憶喪失でもやれば出来るんだーー!!」


 ブラック林道

 まさかドラゴンに勝つとは……


 イスのローラー

 これはビッグニュースだ!! 


 裁ちバサミカッター

 ここでこのアプリのコメントが音声にかわることが役に立ったな! 


 ブラック林道

 なのに再生数がな


「再生数……?」


 イスのローラー

 見てる人だよ……ハッシュタグつけて無いせいでかなり少ない


 裁ちバサミカッター

 俺達が拡散させよう


 ブラック林道

 再生数は億いくぜ


「それって多いの?」


 裁ちバサミカッター

 多いに決まってるだろ!! 記憶喪失でも分かるだろ!! 


 ブラック林道

 裁ちバサミカッター、お前記憶失ったことあるのかよ


 裁ちバサミカッター

 そりゃねぇよ


 イスのローラー

 罪は犯して稼ぎは得られないかもしれないけどドラゴンを倒した功績はでかいと思う


「取りあえず……帰りたい……」


 裁ちバサミカッター

 小さい物でもお宝を持って帰れ。それだけでも大金手に入る


「分かった……」


 僕は部屋にある小さな金塊を服のポケットの中に入れた。


 ブラック林道

 後は帰るだけだが


 裁ちバサミカッター

 とりあえず外出ろ。外でりゃなんとかなる


「あぁ……」


 僕は不安な気持ちに苛まられながら、装飾が豪華な剣と共に宝の山がある部屋を出た。


「右か左どっち?」


 ブラック林道

 地面見て自分の足跡探せ


「なるほど……」


 僕は地面を見ると、足跡を発見した。


「これを辿れば出られる!」


 僕は気分が上がりながら地面の足跡を辿って歩き始めた。


「なんだ……」


 裁ちバサミカッター

 どした


「曲がり角あったんだけど……大量の足跡が……」


 ブラック林道

 は? 


 イスのローラー

 増えてるってことは他にもいるってこと? 


 ブラック林道

 だがまぁ、助けを呼べるな


 裁ちバサミカッター

 待て、助けを求めるな


「え?」


 ブラック林道

 どうした


 裁ちバサミカッター

 宝盗られる


 イスのローラー

 確かに、タンしおと同じくお宝を狙っているとしたらだけど


 ブラック林道

 だが宝より命だ。宝は山分けで一緒に外に出よう


 イスのローラー

 それが良いよ


「いやぁみんなありがとう」


 ブラック林道

 お礼を言うのはまだ早いぜ


 裁ちバサミカッター

 タンしお後ろ!! 


「……え? 後ろ?」


 僕はリスナーの言葉を見て後ろを振り返ろうとしたが、振り向く前に頭に衝撃が走った。


「うっ……」


 ブラック林道

 タンしお!? 


 イスのローラー

 またスマホを落としたよ! 


 裁ちバサミカッター

 まさか襲われたのか! 


「なんだ……こいつ配信してやがったのか……」


 イスのローラー

 ちょっと待って


 ブラック林道

 起きろタンしお!! 


「リーダー、こいつどうします?」


 裁ちバサミカッター

 おい! タンしおを倒してんじゃねーよ! 


「ま、邪魔なドラゴンを倒したから命は助けてやるよ! 置き去りだがな!!」


「さすがリーダー!」


 裁ちバサミカッター

 起きろよタンしお! 


「こいつの動画……こんな苦労して再生数一桁かよ!! そんな動画は要らないな。僕の顔も映ったし、削除だこんなもん」


 イスのローラー

 止めろ! 


 裁ちバサミカッター

 止めてくれーー


 ブラック林道

 お前それでも人間かよ! 


「あぁ、人間だぜ。あばよ」


 *


 数時間後、僕は意識を取り戻した。まぶたを閉じてないのに周りの景色は真っ暗だった。


「うっ……」


 僕は……どうしたんだ……頭痛い……これはひょっとして記憶喪失……


「……違う。はっきり覚えている。記憶喪失になりながらお宝がある部屋でドラゴンを倒した……」


 僕は真っ暗な洞窟の地面に手を向けて、手探りでスマホを探し始めた。


「スマホ……スマホ……配信しないと……」


 僕は数分間地面に落ちているだろうスマホを探したが、一向に見つからない。真っ暗だから探しにくいだろうけども。それでも見つからない。


「スマホどころか僕の持っていた荷物が……スマホが無い……」


 考えたくはないが……僕は多分……曲がり角に隠れていた人がいて、そいつに気絶させられたんだろう……


「そうだ宝は……」


 僕はお宝があった部屋に入った。


「……通りで真っ暗なはずだ」


 お宝が沢山あった部屋には、何一つお宝はなかった。


「なんで……」


 僕は……どれくらい眠らされていたんだろうか……あんなに沢山あった宝が何一つないなんて……


「なんでだよ……」


 ポケットに手を突っ込んでも、小さな金塊は取られてなかった。


「くそおぉぉぉ!!」


 余りにも悔しさに僕は叫んでしまった。


「ゴルアァァァ!!」


「うっ……! ドラゴンの鳴き声……? 僕が倒した奴とは別の……?」


 ドラゴンの足音がだんだん大きくなるのを感じた。


「止めろ……来るな……」


 僕が倒したドラゴンの血の臭いで仲間のドラゴンがかけつけて来たのか……僕の声で来てしまったのか……いずれにしてもなんて運がないんだ僕は……


「ゴルアァァァ!!」


 目と鼻の先にドラゴンが来た様な気がした。僕は真っ暗のせいでドラゴンが全く見えなかった。


「なんなんだよ……」


 僕は悔しさのあまり涙を流してしまった。


「ゴルアァァァ!!」


 ドラゴンは僕に同情してくれる訳でもなく、足音を立てるたびに大きくなるのを感じた。


「うわぁーー!! やめてくれーー!!」


「……アギャ!?」


 突然、ドラゴンが僕に噛みつこうとするのを止めて変な声が出た。その時、部屋全体に複数の人が持つ機械のライトによる明かりが広がった。


「危なかったな」


 ドラゴンの背中の方からそう言ったのは、黒髪のショートボブで探検帽を被る女の人だった。僕はドラゴン背中を見るとその女の人がドラゴンの尻尾を掴んでいた。


「ゴルアッッッ!!」


 ドラゴンは後ろを向いて、尻尾を掴んでいる人に向かって襲いかかった。


「遅い……」


 尻尾を掴んだ人は持っている武器でドラゴンの体全体を斬った。


「ゴルアァァ……」


 斬られたドラゴンは叫びながら倒れた。


「凄い……」


 顔に付いた涙を手で拭って、僕は立ち上がった。


「あの……ありがとうございます……」


 僕は救世主の女性にそう感謝の言葉を伝えて救世主の女性に近付いた。すると救世主の女性は僕のおでこを一回デコピンした。


「ダンジョンは危険だから立入禁止だとなぜ理解出来ない! 馬鹿者!」


「ごめんなさい……あの……」


「なんだ」


「僕……ダンジョン配信中に記憶が無くなりました……!!」

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