第4話 戦の前の宴

自分がいかにとんでもない魔法を使ったか、というのは周囲の王立魔法団が、


「あり得ない…これほどまでの魔法とは……」

 

 と思わず漏らしてしまったのを耳にしてすぐに理解した。国を代表する魔法のエキスパートというプライドを持っている彼らが目を丸くするのを見て、思わず鼻高々になってしまった。


「素晴らしい!こんな威力の魔法…我が王国、いや全世界においても1人…いや2人使える者がようやくいるレベルなんじゃあないか!これほどまでの高度な魔法を異世界の人間が使うとはやはり君は“神の加護”を得た英雄になるべき人物だ!」


 ルーカス王が俺の肩をポン、と叩いたあと、ハグをするほどの興奮っぷりだった。

 続いて剣術や武術などの能力もチェックされたが、両方全く経験がないにもかかわらず、俺が面白いように相手の攻撃をひらひらと躱し、鋭い一撃を相手の騎士にお見舞いする光景を見ると、王どころかこの光景を見ていた全ての大臣や王宮の人間が立ち上がり俺に向け拍手を送っている。


「異世界より参られた“神の加護”を受けた英雄、トイ・ソウタ様が我がクリンべ王国に参られたことを祝し、今日は宴を行う!料理人は今すぐに準備にかかれ!」


 王の号令と共に料理人や使用人が慌ただしく動き出す。予定には全くなかったのだろう。料理長と思われる人間が必死に考え込んでいる。

 人生初のスタンディング・オベーションに俺は困惑しながらも、自分の能力を認めてくれる人間がこれほどいることに小さく拳を握った。


 豪勢な酒宴はその日の夜のうちに王宮内の大部屋で開催された。王や王妃、側近はもちろんのこと、多くの屈強そうな傷だらけの男たちといった軍事関係者と思わしき人物も多くいたので、恐らく侵攻へ立ち向かうための士気を上げることを目的とした決起集会の意味合いも兼ねているのだろう。それにしてもあの料理長、宴をすると聞いた時は顔を真っ青にさせたにも関わらず、ここまでの料理と酒を用意できるとは、流石プロだな――。

 俺の周囲には多くの人が集まっている。ルーカス王が言うには、異常なパフォーマンスを見せた異世界から来た俺を一目見てお話ししたいと思う人間は非常に多いらしい。


「トイ様、今日見せていただいた“神の加護”のお力、大変感激いたしました!あのような高度な魔法と武力を兼ね備えた者は数百年に一人の逸材です。トイ様のような人がいればイダンゲ帝国なんて目じゃないですよ!」


 グラスに入った葡萄酒を一気に流し込みながら俺に向かってまず話しかけてきたのは、エドガーと名乗る俺と同い年くらいの若い兵士だった。彼が言うには、現在の戦況は相当苦しいので、俺が召喚されたのはありがたいらしい。


「悔しいですけど、やっぱり領土や民を含め国力に大きな差がありますからねー。それにここ最近この国の主要産業である鉱石の輸出もイダンゲ帝国が周囲の国に圧力をかけて取引をさせないようにしてるって噂でますます苦しいって噂もありますし……。」


そんなジリ貧の状況だったのか……ルーカス王もこんな状況ではかなり頭を悩ませていたに違いない。藁にもすがるような思いで俺を召喚したのだろう。


「そんな事情なんでこんな豪華な酒宴が催されるのも随分久方ぶりで、俺が産まれてから2,3回あるかないかくらいなんですよねー。22時には自動的にはお開きになっちゃうだろうし、出来るだけ早くいろんな料理を食べておかなきゃ。」


「22時?なんでそんな時間にお開きになるってわかるんだ?こんな豪勢な酒宴が終わるには随分と早い時間だが、何か事情があったりするのか。」

 

「あー、そういやあトイ様は知らないで当然ですよね、申し訳ないです。ルーカス王はたとえいかなることがあっても絶対22時には民の前から姿を消しお休みになられるのです。このクリンべ王国の国民の中では知らない人はいない常識みたいなもんですよ。なんでも、王に即位する前の戦場においての古傷が影響してるらしいです。」


「ルーカス王もかつては戦場に出ていたのか?確かに言われてみたらかなり筋肉質だな、あの人。」


「僕が子供の頃はそれはもう獅子奮迅の活躍ぶりでしたよ、特に武術と剣術に非常に長けていたとか…私の父親も軍人だったのですが、父が言うにはこの国の歴代二番目の強さがルーカス様で、一番がその父親の武神と呼ばれた先代の王であったとか…ルーカス王が戦場に出てくるとこちらもありがたいのですが、いかんせん立場もありますから。」


 なるほど、俺の魔法や剣術を見てあれだけ目を輝かせていたのは自らもかつて戦場で活躍していて血が騒いだからだったのか、その王に認められたと思うと、さっきまで浮かれていたのに身が引き締まる思いがした。


「おーい、エドガー!」


 50代辺りで鼻の下にちょび髭を蓄えた軍服を着た男がエドガーを呼んでいる声が少し離れたテーブルからはっきりと聞こえた。


「ああ、すみませんトイ様。どうやら直属の上官からの呼び出しみたいです。貴重なお話出来て楽しかったです。ありがとうございました!」


 エドガーは深く俺に対して敬礼すると、上官の男の所に向かって駆けて行った。エドガーが俺の元を去ると、痺れを切らした多くの人たちが今が唯一のチャンスだと言わんばかりに一気に押し寄せ、同時に喋るものだから、失礼のない様に対応に追われた。それにしても、これほどまでに大勢の人々に熱烈に歓迎されたのは人生で初めてだ!ああ、異世界転移最高!クリンべ王国、万歳!

 一段落付いた時には、既に時計の針は21時50分を指していた。もうそろそろお開きか、と1人考えていると、


「トイ様、トイ・ソウタ様、少しお話させてもらってもよろしいですか?」


 白衣を着た金髪碧眼の女性が話しかけてきた。身長は170cmくらいと女性にしては長身で、ミディアムヘアのローレイヤーというヘアスタイルが良く似合う美女だ。ん、この女性、今日どこかで会ったな…あ、今日俺が魔法で火球を撃った時に盾で受け止めたうちの1人だ。恐らく王立魔法団の人だろう。


「私、王立魔法団団長のソフィア・マーティンと申します。以後恐らくトイ様とは長いお付き合いとなると思うのでお見知りおきを…」


 個人的な勝手なイメージとして、魔法使いを束ねるような団長は皺だらけの歩く知恵袋のようなジジイだと思っていたので、このような女性が団長と名乗ったのに申し訳ないが少し驚いた。まさか団長だったとは……


「様々な質問をしたいのですが時間が時間ですので1つだけ質問をします。トイ様、貴方がその“神の加護”で得た強大な力で為したいことや就きたい地位を教えていただきたい。」


 何か非常に簡単そうに見えて深い質問をされたような気がするが…昔から上手いことを言うようなことを考えるのは苦手だ。自分の思いを率直にぶつけよう。


「俺は、自分のこの力を使って、クリンべ王国も、イダンゲ帝国もお互い手を取り合えるような平和な世界を作ってみたい、ってウーゴさんとか、ルーカス王とか、エドガーとか色んな人と話してみて思いました。こうやって毎日宴が出来たら良いなあって…それさえできたら地位とかはあんまり気にしないです。」


 そう言うと、ソフィアは少し目を見開いた後、俺に向かって会釈をし、その場を去って行った。そしてすぐに22時の鐘が鳴り、俺もすぐさま宴会場を去った。

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いつかきっと異端な俺が異世界で英雄に キタイシアキラ @kitaishi

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