第3話 王との出会い
最初に召喚された部屋から廊下をウーゴさんと2人で数十分は歩いているだろうか。まったく、王宮というものは無駄に広い。そもそもすぐ隣の部屋にでも召喚してくれたら段取り良く物事も進んだんじゃあないか?そんなことを黙々と考えていると、
「いやあ、時間がかかってしまい申し訳ない。いかんせんこの王宮は複雑な構造でして、未だに私も王の間に行くまでの道を完璧に把握してないのですよ。ほっほっほ。」
やけに時間がかかると思ったがあんたが迷ってただけかよ!!と思わずツッコんでしまいそうになったが、“好々爺”を絵に描いたようなウーゴさんを見ると、なんだかもうツッコむ気も無くなってしまった。
「あー……そうだここだここだ。こちらが王の間となりますゆえ、ルーカス王に御無礼のないようお願いいたします。」
そう言ってウーゴさんが少し重そうな扉を力一杯に開けると、扉はギギギという音を立ててゆっくりと開いた。その扉が開くまでの間に、俺は急激に緊張していた。ウーゴさんは「この国の英雄になってほしい」と俺に言ってくれたが、ルーカス王が暴君で異世界から来た俺を異端とみなし処刑されたらそこで俺の異世界の人生はすぐさまおしまいだ。
くれぐれも粗相はしないようにしよう…。
ゆっくりと扉が開いた瞬間、俺の来訪を待ち構えていたであろう王の側近と思われる者たちが一斉に口を開き、
「これより、異世界より参られた英雄様へクリンべ王国へ無事参られたことを祝し、『祝福の儀』を行わせていただく。王立魔法団の者よ!『祝福の儀』の構え!」
そういうと、おそらく魔法使いであろう老若男女30人近くが俺の周りを取り囲み、
「ヤタヤラナヤツコロナマ、マナハママカホラタナ、ハリサケソウナタマワ、ツモイーペードラコウ…」
と一斉に念仏のような呪文を唱え始めた。懸命に『祝福の儀」を行っている王立魔法団の皆様には申し訳ないのだが、正直少し気味が悪いような気がした。なんだか祟られてしまうような、そんな嫌〜な感じがしたのだが、おそらくこれこそが英雄に対する祝福、祈念なのだと充分に俺も理解していたので、言い出すにも言い出せない状況だったのだ。
そんな『祝福の儀』が始まってから2時間と少しばかり経過した頃、ようやく魔法使いの念仏のような呪文が止まった。どうやら非常に負担の掛かる儀式だったのだろう。例外なく皆大粒の汗をかいて息を切らしながら水を一気に口へと流し込んでいた。
「いやー、祝福の儀さ、結構長かったでしょ。終わりの見えない物を見続けるってさ、結構しんどいですよね。ま、これも必要な儀式だってことで。許してくださいよ英雄様。」
と、奥に座っている男が軽い口調で口を開いた。20代後半から30代前半といったところだろうか。明るい少し長い茶髪をポニーテールにしているのがとても印象的で目を引く。口調自体はフランクで親しみやすさがあるが、その中にも威厳を感じるような男だ。
「あのー、もしかして、ルーカス王でございますか。俺……いや私、異世界よりこちらの世界へと召喚された戸井草太と申します。どうか今後ともよろしくお願い申し上げます。」
そう言うと俺は床に片膝を付き、言動においてルーカス王に対して最大限の敬意を表した。右も左もわからない異世界においてこのような権力者に嫌われるようなことだけは避けたい。
「あー、そういう堅苦しい姿勢しなくていいですよ。なんかこっちも色々話しにくいですし。ま、お互い対等に話しましょうよ。俺もトイさんに力を貸してほしいし、トイさんも俺に力を貸してほしいと思っているはずです。」
「わかりました。王への敬意を示すためこの姿勢は崩しませんが、あくまで私達は対等である、ということは覚えておきます。」
「では、早速ではあるんですが……本題へと入らせていただきます。今回なぜトイさんを呼んだか、それについて説明させていただきます。」
そう言うと同時に、ルーカス王は今までの穏やかな表情から少し険しい表情へと変わった。
「我がクリンべ王国は小国ながら潤沢な金やダイヤモンドといった鉱物資源があり、その資源を産出することにより発展してきたいわば“資源国”なのです。その我が国の潤沢な鉱物資源に約100年前より目をつけたのが隣接する大国イダンゲ帝国でした。イダンゲ王国は100年前我がクリンべ王国に対し突如宣戦布告もなく侵攻を開始し、民間人を大量に魔法によって虐殺したり、街を平気で焼き、子供を平気で人体実験するような極悪非道な行いを約100年間において繰り広げており、未だに決着を見せず闘いが続いていると言う状況下にあるのです。そこで、異世界から参られたトイさんに我がクリンべ王国に助太刀していただき、長年続くこの闘いに終止符を打ってもらいたいと思い、異世界より召喚させてもらったという次第です。」
思わず声を失ってしまった。俺がさっきまで“みんなを苦しめている魔王を討伐しよう”なんてお気楽な目標じゃあない。この国は長い間、そして今もなお圧倒的な力を持つ悪によって苦しめられている。そして目の前に堂々と座っているルーカス王の双肩には民を守るための重大な責務がかかっているのだ。
「いや…助太刀と言っても私はただの普通の人間ですし、魔法の心得もないどころか剣術や武術の心得もない私が魔法大戦において役に立つとは到底思えません。」
ルーカス王の言葉を聞いた俺は、しばらく経ってから重い口を開き、自分の率直な気持ちをそのまま遠慮なしにぶつけた。そのイダンゲ帝国の極悪非道な行いを聞き、怒りの炎がメラメラと俺の中で燃え盛った……のだが俺は異世界から来た以上魔法なんて当然使えないし、万年帰宅部だった俺が戦場へ行ったとしても足手まといとして直ぐに死んでしまうのがオチだ。悪が正義をも飲み込んでしまう光景を己の無力さ故にただ傍観するしかないことを激しく自己嫌悪した。ああ、自分の無力さを呪うのはこれで何回目だろう――。
「ああ、それなら、我が側近であり魔法大臣でもあるウーゴからこう説明を受けませんでしたか?『異世界の人間を召喚しようとしたのは確かに意図的だったが、誰を召喚するかどうかは完全に神の思し召しである』と。そう、つまりトイさんは2つの世界を繋ぐ神によって選ばれこの世界に召喚された男なので、我が王国建立時の言い伝えが間違ってさえいなければ英雄に相応しいほどの魔力や剣術、武術を身につけた“神の加護”を受けているはずですが。」
色々ルーカス王が話してたけど、とりあえずウーゴさん、魔法大臣だったのかよ……ただの好々爺だと思っていた自分の見る目のなさが少し恥ずかしいと思ったのと同時に、あんな穏やかな人が大臣なんて務まるのか?といらない心配をしてしまった。
とはいえ、“神の加護”だと?この話が本当ならば、俺はこの王を、いや、この国を救えるかもしれない!
「その“神の加護”はどのようにして確かめれば良いのですか?」
「魔法によって確かめましょう。頭の中で炎が出るイメージをしてください。そして『燃え盛れ炎よ』と詠唱すると、指先から炎魔法が出ます。異世界の人間が魔法を使えるかどうかは不明ですが、とにかくチャレンジしてみてください。」
そう言うと、近くで休んでいた王立魔法団の女性が、魔法によって盾を作りだした。どうやらこれで俺の魔法を受け止めようという魂胆らしい。
「ふぅー……」
息を大きく吐いて、なるべく轟々と大きく燃える炎をイメージする。そして大きく息を吸い、
「燃え盛れ!炎よ!!」
指先から直径7mほどの非常に大きな炎が目にも止まらぬ速さで魔法の盾に向かって飛んでいく。王立魔法団の女性は最初に作った盾を10倍以上の大きさに拡大し、最終的には彼女の元へと駆けつけた同じ王立魔法団が4人がかりでどうにか食い止めるほどの凄まじい威力の火球であった。
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