近所のお兄さんがオネェさんになって帰ってきた話
荒屋 猫音
第1話
近所のお兄さんがオネェさんになって帰ってきた
【登場人物】
雅輝 ♂︎ 20代後半 近所に住む少し年上のお兄さん 美容師
由香 ♀︎ 18~23歳 雅輝を兄と慕っていた
※男女サシ劇用台本
※セリフの大幅な改変は禁止
※語尾、一人称の変更、軽度な言い回しの変更可能
※当台本はフリー台本です
____
由香M
小さい頃、近所に住んでいた少し年上のお兄さん。
家に行って遊んでもらったり、
お菓子を買ってくれた、優しいお兄さん…
まさかそのお兄さんが、
オネェさんになって帰ってくるとは、思っていなかった…
_休日のお昼時、由香宅のインターホンが鳴る
雅輝「ゆーかーちゃん、お久しぶり」
由香「(引き攣りながら)……どちら様ですか…」
雅輝「やだ、アタシのこと、忘れたの?悲しいわぁ…」
由香「私の知り合いに、化粧した男の人はいないはず…ですが…?」
雅輝「…雅輝お兄さんよ」
由香「…?」
雅輝「雅輝お兄さん」
由香「…???」
雅輝「どーすれば信じてくれるかしら…一緒にお風呂に入って溺れかけた話でもする?」
由香「…!?」
由香「ほ、本当に、雅輝お兄さん……?」
雅輝「さっきからそう言ってるでしょう?」
雅輝「やっと信じてくれた?」
由香「だだだだって!お兄さんは県外に行って美容師になるって!」
雅輝「美容師になって、自分の店を持つために帰ってきたの」
由香「…なんで美容師になって、化粧までして…え、オネェ…」
雅輝「由香ちゃん?今どき男も化粧するの。そんなにビックリしないでよ」
由香「…私より綺麗なのが…なんかムカつく…」
雅輝「あら、それは褒め言葉?」
由香「と、とりあえず、玄関先で立ち話もなんだから…どうぞ…」
雅輝「お邪魔します」
_
由香「…なんでまた、そんなに綺麗になっちゃったの?」
雅輝「んー、女の子を綺麗にする前に、自分を綺麗にしよう…みたいな」
由香「みたいなって…」
雅輝「由香ちゃんなら、頭ボサボサで清潔感のない美容師に髪の毛触られたい?」
由香「…ちょっとヤダ。」
雅輝「そーゆー事よ。人を磨く前に、自分を磨いてたら、こうなったの」
雅輝「口調はついでに変えたらなんかしっくり来ちゃって」
由香「…」
雅輝「で、店だけど。実家をリフォームして家兼店にするって事になってるから」
由香「え?だからお兄さんの家、改装してたの?」
雅輝「そーよ?幸子(さちこ)から聞いてない?」
由香「自分のお母さんを名前で呼び捨てですか…」
雅輝「(笑い飛ばしながら)なんかもう吹っ切れちゃって!親にこうなってる事を説明したら、あんたの人生だから好きにしろって言われて!なら呼び方も好きにするって言ったらあっさり!」
由香「おばさん…」
雅輝「そんなわけだから、しばらく騒がしくしちゃうけどまたよろしくね」
由香「…うん」
雅輝「ところで、由香ちゃん」
由香「はい??」
雅輝「(にこやかに怒って)その枝毛、なに?」
由香「ぐっ!」
雅輝「まーさか、濡れた髪を放置してアウトバスも付けずに自然乾燥させてないわよねぇ…?」
由香「…なんのことですかァ…??よく分かりませんぇん…」
雅輝「ゆーかーちゃーん?」
由香「怖い!怖いよ!!」
雅輝「はぁ…昔は綺麗な髪だったのに…」
由香「切りに行くのも面倒で放ったらかしてたらこんな長さになっちゃって…乾かすのも面倒で…」
雅輝「どうせそこまで伸ばしたならキレイにケアしなきゃダメでしょう!勿体ない!」
由香「えぇ…」
雅輝「全く…ちょっと待ってなさい」
由香M
そう言ってお兄さんは家を出ていった。
5分ほど経ってお兄さんは戻ってきた。
カット一式セットを持って…
雅輝「由香ちゃん、ちょっといらっしゃい」
由香「…?」
由香「え、外出るの?」
雅輝「外、というか、アタシの店に」
由香「え、まだ改装してるんじゃ?」
雅輝「家の改装を後回しにしてもらったから、店はもう出来てるの。」
雅輝「正式なオープンは来月だけどねぇ。今はお金とるわけじゃないし…何より、その長さでそのボサボサが許せない…!」
由香「なんか、すみません…」
雅輝「てことで、店に行くからいらっしゃい」
由香「お店行くなら、カット道具持ってくることなかったんじゃ…?」
雅輝「この方が何かとやりやすいのよ」
由香「そーゆーもん?」
雅輝「そーなの。ほら」
由香M
言われるがまま、私はお兄さんのお店に向かった。
_
セット面は1台、
暖かみのある木造造り…
新しい匂い。
整頓された道具や、売り物のシャンプー…
由香「…キレイだね」
雅輝「当たり前でしょ」
由香「…」
雅輝「さ、座って」
由香「お願いします…」
雅輝「…放ったらかすにしても、これはさすがに酷いわ…」
雅輝「とりあえず枝毛カットして整えるだけにしとくから、明日からちゃんとケアしてね」
由香「してねって言うけど、ここまで伸びちゃったら乾かすのも大変で…トリートメントも何つければいいか分からないし…」
雅輝「由香ちゃんの髪ねぇ。シャンプーとトリートメントはしっとり系を使って、アウトバス…洗い流さないトリートメントはミルクで広がりを抑えてあげれば今よりはマシになるわ」
由香「乾かすの…面倒くさい…」
雅輝「ならバッサリ切ってあげましょうか?」
由香「え!?やだ!」
雅輝「なら文句言わない」
由香「うぅ…」
雅輝「女の子はみんな、磨けば宝石になれるんだから、自分から石ころのままである事に慣れちゃダメよ」
由香「…うん」
由香M
お兄さんの手は優しい。
こんなボサボサな髪でさえ丁寧に扱ってくれる…
ハサミの開閉する音が心地いい。
髪を切るなんて、いつぶりだろう。
私は、座ったまま眠りについてしまった…
_
雅輝「…由香ちゃん?由香ちゃん。」
由香「ん…あ、ごめんなさい、寝ちゃってた…」
雅輝「文句言わずにいてくれたから楽だったわァ」
雅輝「シャンプーしてあげるから、こっちいらっしゃい」
由香「え、悪いよ」
雅輝「枝毛だらけの髪を切っただけで帰すなんて、アタシのプライドが許さない」
由香「わぁ、職人魂だ…」
雅輝「ついでに乾かし方も教えるから」
由香「…はぁい」
_
雅輝「濡れた髪は雑に扱わないこと。乾かす前は必ず洗い流さないトリートメントを付けること。つけすぎるとベタベタしたり、余計に乾く時間がかかるから、つけすぎ注意ね。乾かす時は根元から毛先に向かって風を通すこと。」
由香「…出来るかなぁ」
雅輝「毎晩アタシが乾かしに来いって?」
由香「いやいや、それはない!」
雅輝「アシスタントでも雇ってシャンプーの練習台になるなら話は別だけど、自分の髪なんだから丁寧に扱ってあげなさい」
雅輝「あと、タオルドライしたら乾かす前に櫛を通してね。ボサボサのまま乾かすとダメージの元よ」
由香「…頑張る」
雅輝「よろしい。」
雅輝「…ほら、出来た」
由香「…うわ」
雅輝「やればこんなにツヤツなのに…ほんともぉこの子は…」
由香「お兄さん、やっぱり毎晩乾かして!」
雅輝「嫌よ!アタシだって自分のケアで忙しいの!」
由香「乾かすだけだからぁ!!」
由香「自分でこんなにキレイにできる気がしない!」
雅輝「それを出来るようにするために、今やり方教えてあげたでしょう!」
由香「お兄さーん…!」
雅輝「……はぁ。」
雅輝「さっきから思ってたんだけど、その【お兄さん】って呼び方、どうにかならないの?」
由香「え?」
雅輝「昔は雅輝お兄ちゃんとか、まさ兄とか呼んでくれてたのに…」
由香「なんか、恥ずかしくて…?」
雅輝「なんで疑問系なのよ」
由香「…なんでだろうねぇ?」
由香「(言えない…なんて呼べばいいか分からないなんて、言えない…!)」
雅輝「…まぁいいわ、そのうちその【お兄さん】って呼び方も変わるでしょ」
由香「う、うん、そうだよ、今だけ…!」
雅輝「【今だけ】なら、今から呼び方を変えても問題わいわよねぇ?」
由香「(あぁぁ!やられた……)」
雅輝「ん?」
由香「…」
由香「雅輝さん…?」
雅輝「だめ、可愛くない」
由香「可愛いとかそう言う問題なの!?」
雅輝「どうせ呼ばれるなら可愛い方がいいに決まってるでしょ!」
由香「お兄さん男でしょ!?」
雅輝「あーら…それ言っちゃうの…」
由香「あ、ごめん……じゃなくてぇ!」
雅輝「さて由香ちゃん?お兄さんの事、なんて呼んでくれるのかしら?」
由香「…」
由香「雅輝くん!」
雅輝「そんな他人行儀な…」
由香「じゃあ、なんて呼べばいいんだよぉ…」
雅輝「雅輝でいいじゃん」
由香「…!?」
雅輝「ふふっ、さぁて、ちゃんと呼んでくれるかしら、これから楽しみだわァ!」
由香「……(声にならない声)」
由香M
オネェさんになって帰ってきた近所のお兄さん…
美容師としての腕がどうかはわからないけど、
整えてもらった髪はツヤツヤだったので、
定期的に手入れをしてもらおう…とは思う。
さすがにビックリしたけれど、
笑った顔が昔のままで安心したことは、内緒にしておこう。
雅輝「由香ちゃん?アタシが整えた髪、ちゃんとキレイにケアして頂戴ね?じゃないとその長い髪、バッサリ切っちゃうからね」
由香「…頑張ります」
由香M
こうして私は、お兄さんにお手入れをされて
少しづつ綺麗になっていくのです。
でもそれは、また別のお話…。
え!?つづくの!?
____
近所のお兄さんがオネェさんになって帰ってきた話 荒屋 猫音 @Araya_Neo
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