第2話 追っ手

 日が陰った頃

 赤く染まる大地を、またこれ紅いフードとローブを身にまとった女が、少女を抱きかかえて走っていた。

 その後ろを複数の黒いフードを被った男たちが追いかける。


「逃がすな!! 追え!!」


 女は背後から迫る追手に対して、的確に燃え盛る炎の弾丸を放つ。

 炎を受けた追手は全身が燃え上がり、その場で倒れた。その光景を見てもなお、他の追手が足を緩める事はなかった。

 この場にいる全ての追手から逃れるべく、あるいは殲滅するべく、女は走り続ける。


「おっと、逃さないぜ」


 暗がりに隠れている追手の一人はナイフを手に近づいてくる女を狙っていた。そして、女にナイフを突き出す。

 だが、女は少女を片手に抱きかかえたまま、もう片方の手で男のナイフを掴み取る。男は驚愕の表情を浮かべた瞬間、女の蹴りで吹き飛ばされた。

 女はさらに燃え盛る炎弾を放つ。直撃した追手は絶叫を上げながら、転げまわった。

 その様子を見て、他の追手たちは怯むことなく襲いかかる。迫りくる敵をなぎ倒し、時に躱し、森の中へと逃げ込む。木々の間を縫うように走り抜け、時折振り返りつつ牽制しながら走る。


 女は少女を抱えたまま、周囲を見渡す。

 そこは、深い森の奥地であった。周囲に人の気配はなく、しんと静まり返っている。どうやら撒く事に成功したようだ。

 日は完全に落ち、辺り一面に広がる闇の中で、月明かりだけが二人の姿を照らし出している。

 女は抱いていた少女を下ろし、声をかけた。


「もう大丈夫だ。よく頑張ったな」


 そう言って少女の頭を優しく撫でる。


 女は再び抱え上げ歩き始めた。




 やがて女は町にたどり着く。子供を抱えたまま町外れのレンガ作り建物に入っていく。


「只今戻りました」


 女が言うと、奥から老齢の男性がゆっくりとでてきた。


「おかえりフレア先生。その子が例の子かい?」

「はい、院長。今日からこの子もここでお世話になります」

「お世話と言っても、世話しているのは君たち先生だからね。私は何もしていないさ」


 そう言って院長は微笑んだ。



 院長は改めて少女を見る。少女はフレアの腕の中ですやすやと寝息を立てている。年の頃は十歳前後だろうか? 赤茶色髪と瞳を持つ少女だった。

 彼はこの少女を一目見てすぐに気がついた。

 彼女は特別な存在だと。

 その直感は間違っていない。彼女の持つ魔力の質は明らかに普通ではなかったからだ。

 彼女はいずれ帝国にとって貴重な戦力となるだろう。

 帝国兵士として育成する帝国孤児院。特別な力を持つ少女もいずれは帝国の兵士として扱われることになるのだろう。


「フレア先生、彼女のことは任せましたよ」


 院長はそう言うと建物の外にでて夜空を見上げた。




「とはいえ、子供達が戦うことのない平和な世になればよいのですが」


 ふぅっとため息をつく。

 そして視線を戻し、再び建物の中に戻っていった。

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赤霧の少女 ~勝手気ままな少女の冒険譚~ 星ノ夢 @yumeryu

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