双子の姉妹はただくっつきたい~磁石姉妹は離れて引き合う~

れとると

1.うちわしかない田舎。

アオイ:双子の料理が得意な方。

アカイ:双子のキッチンを料理する方。


【アオイ視点】 



 田舎のばーちゃんちに連れて来といて。


 子どもはほっといて、親はどっかにお出かけ。


 ばーちゃんじーちゃんはヨリアイ?とかでいないし。



 ……蝉がとてもうるさい。何匹啼いてるんだろう。



「あっちぃ……」



 ダルそうな声出されると、気分悪い。


 妹のアオイと、二人きり。


 だけど。



 なーんもする気が起きない。



「あーぢー」


「変な声出すな妹。気色悪い」


「いもうとはあんたでしょー」



 いい年になっても、まだわたしらの「どちらが姉か論争」は決着がついてない。


 かーさんが、先に産まれた方を忘れたからだ。


 ……考えるのもダルくなってきた。



 私たちは双子だ。似てない、と思うのだけど。


 人にはよく、そっくりだと言われる。


 一卵性の双子って、もっとよく似るものなんじゃないの?



 好みも、性格も、何もかも違う。


 体型とか顔が、同じなだけ。


 

 ……そう、好み。



 私は、私があまり好きではないけど。


 によによしてるそいつは、そうでもないらしい。


 ……人のことは、言えないけれど。



 盛大にため息が出る。


 伸ばした足が、少し外に出て、なんか石に触れる。


 日陰にあるからかちょっとひやっとしたけど、砂でざらざらする。



 気持ち悪い。



「アカ、今日はいつにもましてだるそーねー?」


「アオイがいるから」


「なにそれもー」



 笑ってる肩を揺らすアオイの恰好が、とても無防備で。



「おっと」



 そのくせ妙に節度ありやがって、肩ひもはちゃんと直すし。



「見たの?」


「見損ねた」



 アオイは、何がおかしいのか笑いながら、どたーんと畳に寝転がる。


 ……良い感じに、何も見えない寝方してるし。それは高度なお誘いか?



「扇風機もないとは、イナカ舐めてたわー」


「ないわけないでしょ。ぶっ壊れたって、来た時すぐ言ってた」


「そうだっけー?」


「だからとーさんかーさんは、どっか涼みに行ったんでしょ」


「むすめ二人置いてとか、やらしー」



 おい笑いごとじゃないだろそれ。


 変な想像させるなあほ。バカイめ。



「お、うちわはっけーん!しかも二枚あるよ?」



 あるよ?とは。なんのつもりさ。



「わたし扇ぐからー。アカも扇いでよ」



 子どもか。



「ねーねーやろうよー。田舎だし、昔はやったじゃん」


「童心に帰りたい歳でも、ないでしょうに」



 アオイが、すぐ近くまで来て。


 ……耳元に、顔を寄せて、囁く。



「ちっちゃい頃のアカを、思い出したいんだよ。


 何をするにも、ずっと一緒だったころの」



 なにそれ。



 そう言って私にも一枚、無理やり手に握らせて。


 ……アオイ、手汗までかいてるし。


 …………額、首や、鎖骨、にも。



 どう考えても、ちっちゃい頃は思い出せないでしょ。


 お互い、育ちすぎてる。目に毒なのもほどがある。



 目を閉じて、適当に扇ぐ。



「アカやるきなーい!ほれ、こんくらいに!!」



 めっちゃ風が来た。


 私は薄目を開けた。


 ……とても揺れている。



「へへーん。やるき、出た?」



 わざとですかそーですか。


 駄賃代わりに、ちゃんと扇いでやる。



「おー、すずしー……くない!空気がぬるい!かえって暑い!!」


「そ?私は涼しかった。もっと扇げ」



 アオイが暑いのは、どう考えても動いて叫んだからでしょうに。


 少し強めに扇ぐ。


 何か、妹がじっと私を見ている。



 手首を掴まれた。



「すいぶんほきゅー」



 鎖骨に吸い付かれた。



「こら。痕がつく」


「んっ。つけてんだよー」



 ふざけんな、そこ隠せないだろ。


 どけようとしたら……反対の手も、押さえつけられた。



 抗議の目を、向けると。


 濡れた目で、見返された。



「アカイちゃんは無防備すぎ。紐、ずれて見えてる」


「見るな」


「見せてんでしょ?」



 肩ひものあったところを、丁寧に、唇でなぞられる。


 ……くちびる、だけじゃなく。



「あせ舐めるな」


「しょっぱい。えんぶんほきゅー」



 唾液、におうから……やめてほしいんだけど。


 これもう、あとでシャワー浴びよう。



 アオイの頭が、私の左肩から、右肩にゆっくりと移動していく。



 体が、擦れ合って。


 ……アオイの肩紐も、ずれて、いく。


 目が、吸い寄せられる。



「……わざとか」


「やーらかかろー?」


「張っていたい。やめて」



 アオイが離れて、うつ伏せに倒れてじたばたする。



「んあーーーーー!!!!つまらん!たまらん!!欲求不満!!!」



 暴れるな。


 ……欲求不満がうつる。



「田舎なんだからさー」


「ん」


「ほかにすることないじゃん?」


「スマホでも見ろ」


「わたし、アカがいるときはスマホ見ない」



 知ってる。



「はぁーーーーーーっ。なのに、わたしの次はアカとか。休み終わっちゃう」


「かもねぇ」


「せっかく、会えたのに」


「そうだねぇ」


「あんまり一緒にいると、疑われちゃうし」


「だろうねぇ」



 かーさんは知ってるけどね。



「アカやるきなーい」


「だるいって言ってんでしょ」


「知ってた」



 また笑う。なんでもないことで、楽しそうに。



「何で笑うのよ」


「アカが楽しそうだからだよ?」


「私、怠いんだけど」


「ずっと笑顔だけど」



 そうだっけね……。



「アオがいるからだよ」


「知ってた。よゆー」



 アオイは、がばっと起き上がって。


 また、覆いかぶさってきて。



 ……そこは張って痛いって言ってんだろ吸い付くな。



「こら」


「ねぇアカ」



 少し顔を上げた、妹が。


 真っ直ぐ瞳を、覗き込んで来る。


 目で、キスができそうなほど、近い。



「いっしょにすもう?」



 目を閉じると。


 少し、まつげが触れあった。



「いいよ」


「だよねぇド―考えてもばれちゃうしうええええええええええ!!!???」



 近くで叫ばないでくれるかな。



 すごい響く。


 私の好きな声が。


 胸の奥に、染み入るように。



 たぶん私は、笑顔になってる。



「ええぇぇぇええぇぇっっぇぇぇええ??」



 えが多い。



「かーさん知ってるし、いいってよ」



 二人とも、まだ若いし。


 跡継ぎが要るような、家でもないけど。


 私らのことを見越して、笑いごとじゃないアレに、なるかもなぁ。



「え、ぇ。いい?いていいの?」


「いいよ」


「わた、わたし家事できないよ?」


「知ってる。私が一通りできる」


「おか、おかね!お金いっぱい、稼いでくるから」


「適当でいいから」



 押さえつけられていた手が、外れたので。


 今度は私が、掴む。



「そばにいて」



 私と同じ顔が。



 息を。


 私の吐く息を。


 吞んでいく。



 そうして、同じような、顔になって。



「へへ、えへっへっへっへ。そうだよねぇ。


 双子なんだから、そばにいなくっちゃ」



 そういうルールは、ないと思うんだけど。


 もう、それでいいや。



 痛いし怠いというのに、また覆いかぶさられて。



 アオの、体温が高い。


 触れると、暑すぎる。


 正直、耐えられない。



 がまん、できない。



「アオ」


「なに」



 たぶん、私も濡れた目をしている。



「唇にして」



 重なると。




 熱すぎて。



 朦朧として。



 別の音が、うるさくて。




 蝉の声すら、聞こえない。

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