第2話 そして私は地上へ降り立つ

「今までお世話になりました。とてもいい部屋とは言えなかった……こともないわね。では、いきましょうか。」


そういって私はこれまで自分で拡大させていった穴に入る。


「暗っ……地上じゃないのね……」


地上だと思っていた穴の先にはトンネルのようなものが続いていた。


「穴はバレないように毛布をかけてきたから牢の近くの電灯は使えないわね。まぁ牢の中にもあまり光は入ってこなかったのだけど。」


私は、片手を壁につけながら前へ進む。トンネルはただ地下を掘っただけのようで、舗装されておらず土が剥き出しになっていた。


しばらく歩くと少し明るくなっている場所があった。そこは少しひらけていて、端の方に人影があった。


「あの、このトンネルはあなたが……っ!」


その人影は寝ているのでもなく何か作業しているわけでもなかった。


——死んでいた。


薄暗く、光源からも離れていたため気づかなかったがその遺体はすでに骨となっていてぼろぼろの服、錆びた鉄のつるはしを抱きかかえていた。私は遺体に触らないようにつるはしを抜き取り、光源の近くに行った。


「これは……出られるんじゃないかしら。このつるはしさえあれば。」


ここでつるはしを手に入れられたのは好都合だった。危うく手で土を掘って地上に登るところだった。


「この隙間につるはしを入れて……よし!掘れる!」


そうしているうちに光源はどんどん大きくなっていき、ついには月が見え始めた。


「あっ、月」


そう言いながらどんどん掘っていくとついに一人程度が通れる脱出路が出来上がった。


「さてさてつるはしちゃんとはここでおさらばかなっと。」


トンネル内の遺体の近くにつるはしを戻し私はトンネルを脱出した。


「『あぁ!シャバの空気はいいわねぇ〜』そう!これ言ってみたかったわ。」


どうやらここは誰かの家の庭だったようだ。しかし、家には蔦が巻きつき庭も整備されていないようなのでどうやら廃屋のようだった。


「とりあえず今夜はここの家を借りましょうかね。」


——次の日——


私は証拠を探した。


私の部屋にはすでに家宅捜索が入っていて概ね回収されていた。しかし、私のクローゼットと固定されていたキッチンは回収されていなかった。当然クローゼットの中身は回収されていたが。


「あった……!」


クローゼットには私しか知らない上底ならぬ増し壁のようなものがあった。クローゼットの後ろの板と引き出しとの間には少しの空洞があった。この空洞には私がポケットカメラで撮り溜めた証拠の映像が残っている。そのデータには、私が逮捕されるきっかけとなった事件の日のアリバイが残っていた。


「これを提出すれば……!」


「やめた方がいいわね。」


「…!だ、誰ですかあなた!」


「なに、通りすがりの弁護士よ。弁護士歴12年にして無敗記録更新中の、だけどね。」


軽くウィンクしながら話す弁護士。そのスーツには確かにバッジがついていた。


「じゃあ!どうすれば私は助かるんですか!」


「私に任せなさい。まず——」


こうして私は無罪を勝ち取るために動き出そうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私の脱獄日記 能依 小豆 @azukiman

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ