テーマパークの警備員という普段意識することのない裏方を描く作品。
お仕事ものと言うと、硬派な印象があるが、本作は全体的にゆるっとした雰囲気に包まれていて、すごく読み心地が良かった。
本作を唯一無二の空気感にしているのは、テーマパークにいるアクターやマスコットキャラクターたちが「現実と非現実の境界線が消えかかってる」点だと思う。
そのせいで、バックヤードなのに、みんなキャラクターの設定のまましゃべったりしている。
こういうテーマパークの裏方を描く作品は、マスコットと中の人のギャップを描きがちだが、本作は中の人なのにほとんどキャラクターそのまま。
テーマパークの裏側というリアルな設定にも関わらず、作中の人間模様がどこか現実離れした濃いフィクションになっていて、このギャップが独特の浮遊感みたいなものにつながっていると感じた。
さまざまなアトラクションと可愛いマスコットが名物のとある夢の国のテーマパーク。若き女性警備員・一関が勤務する警備部に新しく採用された青年・天童は元捜査一課のイケメン刑事。そんな天童さんをパークに馴染ませるため一関さんの指導の日々が始まります。
元刑事が夢の国で働くというギャップが可笑しいんですよ。警備員といえどもテーマパーク。お客様に威圧感を与えず、常に笑顔でなくてはなりません。しかし天童さんは無意識に殺気立って、迷子の子供を怖がらせてしまうから困ったものです。
そんな新しい警備員にパーク中のスタッフが興味津々。むくつけき海賊団に勧誘され、着ぐるみのマスコット組にはからかわれ、女王様と魔女からお茶会に誘われる。真面目な天童さんは戸惑うばかりですが、周囲から浮いている天童さんが早く馴染めるようにと歓迎しているんですよね。変わり者だけれど仲間思いなスタッフの優しさが心温まります。
そんな天童さんですが前職の経験を活かして不審者を見つけたり、酔っ払いを確保したりと活躍する姿がかっこいいんです。スタッフも働くことを楽しみながら、テーマパークを盛り上げるお仕事風景が素敵でした。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=愛咲優詩)