第一章・第三話「escape」

「ここは。どこかしら...わたくしは一体」ヴェルデは、自らの体が運ばれていることに気が付いた。


周囲は見慣れない機材で溢れており、窓の外は何やら新鮮な光景が広がっていた。


やがて、担架は小さな診察室のような場所に進んでいく。そこに、1人の医師が現れる。


「目覚めましたかヴェルデ様…。ここは国家情報局NIAが追ってくるため危険です。共に逃げましょう。」その医師は、ヴェルデのもとに駆け寄った。


彼の目は恐怖に満ちており、何らかの大きな脅威に直面してるようだった。


「ここは私にお任せください。ヴェルデ様は裏の非常口からお逃げください。」ヴェルデは目覚めてから数時間が経過していたため、なんとか歩くことができた。


「あ…!」医師がヴェルデに警告を伝えたその瞬間、不穏な空気が診察室を包み込む。その瞬間、ドアが蹴破られ、何人もの男たちが一斉に部屋へと入り込んできた。


「我々はエルマール共和国国家情報局NIAだ。国家反逆罪で逮捕する!大人しくしろ。」彼らは冷酷な目をしたまま、医師に向けて銃を構え近づく。


「国家情報局...?」意識がもうろうとしながらも、混乱し始めるヴェルデ。


医師が「見つかった…。ヴェルデ様、早くお逃げくださ…!」と言ったその瞬間


「撃て…!」と一人が声高く言い放つと、何人もの国家情報客員が医師に向けて銃口を突きつける。


「なぜ、あなたはわたくしにそこまで…」

ヴェルデは心の中では複雑な気持ちが交差していた。銃口を向けられた医師は、驚きと恐怖で目を見開く。


そして、ヴェルデに向けて逃げるようにという目配せをした。


ヴェルデは咄嗟に逃げる。


恐怖から声も出ず、ただひたすらに震えながら走り続けた。それは、彼女がこれまでに経験したどの恐怖よりも直接的で現実的なものだった。


彼女は彼の決死の判断によってその場から脱出に成功し、迫り来る命運から流れたのだ。こうして、ヴェルデはNIAに追われながらも、なんとか近くの街までたどり着く。


エルマール連邦中部・ベッフェルタワー通り

「きっと大丈夫よ…。」ヴェルデは自問自答した。そして、訪れた街は、彼女にとってはどこかが広がっていた。


「そこのあなた。ここはどこなのかしら...」偶然遭遇した旅人に、純粋な表情で質問するヴェルデ。


「お嬢さん迷子?ここはエルマール連邦の古都ベッフェルだ。旅人なら案内するよ」いかにも優しそうな旅人は、そう答える。


「エルマール連邦...?ここが王都ベッフェル...」

ベッフェルは彼女が暮らしたエルデンブルクの王都。王宮のあった付近を眺めるヴェルデ


「っ…!!」ヴェルデは同時に声を失い絶望した。


かつての建物は取り壊され、付近には見慣れない色の国旗と見知らぬ鉄筋コンクリート造りの建造物が立ち並んでいたのだ。


「まさか…!そんな訳ないわ」現実を受け止めきれないヴェルデ。


その瞬間。


再びあのと共に声が聞こえてきた。


「待ちなさい!国家情報局からは逃れることはできない!」


「教えてくれてありがとう!わたくしはもう行かなければなりません」旅人にそう伝え、勢いよく走り出すヴェルデ。


国家情報局NIAの黒服に追われながらもとうとう港の端まで来たヴェルデ。


完全に逃げ場を失ったが、そこで小さな観光船を見つける。多くの旅人が船に乗り込んでいるようだ。出口方面であったため、チケット確認も無いまま乗り込んでしまった。


「ここまで来れば大丈夫かしら...」ヴェルデは呼吸を荒くしながら、身を固くする。


しばらくしても黒服がおって来なかったため、彼女は一安心した。その時、突然アナウンスがかかり、船が発車する。


「あら、どこに向かってしまうのかしら...」ヴェルデなそう言いながらも、観光船の甲板に立ち、遠くの海を見つめ始める。


「...長い度になりそうね。」しかし、彼女の心の中ではどこか生きた気持ちがしていた。追手の存在は常に彼女を脅かしていたため!桜国への逃避行は、彼女にとって未知の旅行のスタートだった。


「この船は、桜国の北陰道へと向かいます。」アナウンスが響く度、ヴェルデは自問自答を繰り返す。数日の航海を経て、船は静かに桜国の北部、北陰道に到着した。


「...。」

ヴェルデは人目を避けるように船を降りる。辿り着いたのは、桜国の北陰道にある小さな港町。穏やかな海と温かい風がヴェルデを迎え入れる。


「お腹が空いたわ…」ヴェルデはもう1日飲食をしていなかった。彼女は近くのコンビニに入店する。


「いらっしゃいませー」2人のアルバイトの店員がヴェルデに話しかける。


「食べ物が欲しいの。50王政ベルクでどうかしら?」ヴェルデは店員にそう問いかける。


「電子マネーも使えますがー...。」店員は明らかに旧紙幣であることを感じながらも、そう対応した。


「ベルクは世界一の通貨のはずよ...。誰も知らないなんておかしいわ!」ヴェルデは素直に疑問を問いかけたが、周りの客や店員は明らかに見かけぬ紙幣を見せるヴェルデに同様している。


その時、一人の老人が彼女の前に現れる。「おや、君の持っているのはエルデンブルク時代の紙幣じゃないか、懐かしいものだ...」ヴェルデは老人を見て、一瞬で記憶が蘇る。


「まさか貴方の名は…アレイン…?」

そう、その老人はミハイル・アレインだった。彼はヴェルデの幼馴染で、恋人だった青年だ。


ヴェルデは老人の衰えた姿に言葉を失うが、彼は優しく微笑んだ。


「姿が変わっていない...?なんだ、私の幻想か」ヴェルデが当時のままの姿であることに気付き、幻想だと思い込んだアレイン。

〈第四話につつく〉

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桜国憂世記 桜国作者 @sakurakoku

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