第5話 そして……

私があの子に話したことは、湊路そうじが生まれて一歳になる前の出来事。


「あの頃……アナタが生まれてから初めての実家に帰省する日、姉さんは事故に巻き込まれたの……」


「どんな……事故……だったの?」

「交差点で信号待ちしてた時に、車が歩道に突っ込んできたみたい……」

「……」

「他の人も巻き込まれたけど、アナタは奇跡的にチャイルドカーに乗せられていたから、助かったみたい……」

「……おかしい?……それが、本当なら助かる事なんてあり得ないよ!」

「無理もないわ、たぶんだけど……姉さん達が咄嗟にアナタを押して遠ざけたのだと思うわ……」


それは、親がなした愛の行動だったのだろう……迫りくる車から我が子を助けるため、チャイルドカーを押して遠ざけた行為は一種の賭けであり、並大抵では出来ない行為だったはずだ。


「私達が連絡を受けて病院に着いた時には、姉さん達は帰らぬ人となっていたわ……」

「それから、どうなったの?」

「姉さん達の葬儀や湊路そうじ、アナタの事で話し合いが行われたわ」


「それで、真由美さんが……?」

「そう、当時社会人一年目の私がアナタを引き取る事にしたの、以前から付き合っていた健士けんじさんとも一度は別れる事にしようと思ったけど……一緒に育てようと言ってくれたわ。

それで、健士けんじさんと結婚したのもその時ね!」


静かにお茶を飲み喉を潤す、二人にとってその沈黙は長いように感じられたが、一つの疑問の言葉を投げかけられた。

「どうして、真由美さん……母さんは、俺を引き取ってくれたの?」

「……!アナタが姉の忘れ形見なのはモチロンなんだけど、健士けんじさんは昔大病にかかってね……子供が出来ない身体だったの」

「……!」

泣きそうになるのを我慢した真由美の告白、この二人に子供が出来なかった事実に息をのむ事しか出来なかった。


「そして、私の我が儘でアナタを引き取る事にしたのよ」

「我が儘……?」

「えぇ!大好きだった姉の子供のアナタを私が育てたかったのよ!」

そして、お茶を一口飲み喉を潤す。

「だからアナタは、私の子……いいえ、私達の子供なのよ!」


その言葉を聞いて湊路そうじは涙を流すのであった───。


               (完)

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母のカタチ、子のカタチ 篝火 @ezweb

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