おねえちゃん だいすき!

幸まる

なつくまちゃんはお友達

今日は朝から雨です。

近所の公園にも遊びに行けません。


なっちゃんは、窓から外を眺めていました。

仲良しのお友達、くまのぬいぐるみも一緒です。

夏の空みたいな青色をしているので、『なつくまちゃん』という名前です。




 ピッチャン ピッチョン


雨粒が屋根から水たまりに落ちて、リズムよく音を立てます。

なっちゃんは鉛筆を持って来て、窓枠を同じリズムで叩いてみました。


 ピッチャン ピッチョン

 コッツリ コッツン


雨と一緒に演奏をしているみたいです。 

なつくまちゃんも、一緒に演奏してみましょう。

なっちゃんは、なつくまちゃんの手と一緒に鉛筆を握って、リズムに合わせます。


 ピッチャン ピッチョン

 コツ… …コッ…


上手に叩かせてあげられませんでした。

なっちゃんは鉛筆を置いて、なつくまちゃんに言いました。


「やっぱり一人じゃつまらないね」




庭で、緑色のアマガエルがピョンと跳ねたのが見えました。

なっちゃんは急いで玄関で長靴を履きます。

なつくまちゃんを抱えると、外へ走り出しました。

ピョンとカエルが跳ねるのを真似て、なっちゃんもピョンと飛んでみました。


 パシャン


足元で水しぶきが跳ねました。


 ピョン パシャン


一緒にカエルになったみたいです。


なつくまちゃんも一緒にジャンプしてみましょう。

なっちゃんは、なつくまちゃんをピョンと持ち上げてあげます。


 ピョン パシャン ……


なつくまちゃんを持ち上げても、足元から音はしませんでした。


カエルは、柵の間から裏の田んぼへ跳ねて行ってしまいました。

なっちゃんはもう少しなつくまちゃんと飛んでみたけれど、首を傾げます。


「やっぱり一人じゃつまらないね」




家に入ると、玄関でママが困ったように笑っていました。

なっちゃんもなつくまちゃんも、ポタポタ雫が落ちています。


「おじょうさん、雨の日は傘を差して下さいな」


そう言って、ママはふかふかのタオルでなっちゃんを拭いてくれました。

なっちゃんは、小さなタオルでなつくまちゃんを拭いてあげます。


 ゴシゴシゴシ


ママがなっちゃんを拭きながら尋ねます。


「なっちゃん、気持ちいいですか?」

「うん!」


 ゴシゴシゴシ


なつくまちゃんを拭きながら、なっちゃんが尋ねます。


「なつくまちゃん、きもちいいですか?」

「きっと気持ちいいわよ」


ママがそう答えたので、なっちゃんはプゥとほっぺたを膨らませました。




濡れた服を着替えたら、ママが温めたミルクとビスケットをおやつに出してくれました。

ビスケットはなっちゃんの大好きなおやつです。


「いただきまーす」


 サクサクサク


「なつくまちゃんにもあげましょうね」


なっちゃんはビスケットを一枚手に持って、なつくまちゃんの口元に持っていきます。


「なつくまちゃん、おいしい?」


なっちゃんは、なつくまちゃんの頭を、うん、と動かしました。


「……やっぱり一人じゃつまらない」


なっちゃんがそう呟いた時、玄関から元気な声がしました。


「ただいまぁ!」


なっちゃんはビスケットを皿に落として、急いで玄関に走ります。




「おねえちゃん! おかえり!」


お姉ちゃんは、通学用の黄色い傘を立て掛けています。


「あのね、さっきね、雨がピッチョン音楽会してね! お庭でカエルがピョーンってとんでね! それでね! 今なつくまちゃんとおやつを食べててね!」


急いで言って、なっちゃんはなつくまちゃんをお姉ちゃんの方へ持ち上げました。

お姉ちゃんはなつくまちゃんを受け取ると、なっちゃんに向けて揺らしながら、可愛らしく声を変えて言いました。


『なっちゃん早く続きを食べようよー。ボクおなかペコペコだよー』


なっちゃんはパッと顔を輝かせて、ピョンピョン跳ねました。




お姉ちゃんが手を洗うのを待って、一緒におやつを食べました。

なっちゃんは、もう一度なつくまちゃんにビスケットをあげます。


「はい、どうぞ、なつくまちゃん」


お姉ちゃんはビスケットを食べながら、なつくまちゃんの頭と手を揺らします。


「サクサクサク。『とってもおいしいよ。なっちゃんありがとう! だいすき!』」


なっちゃんはとっても楽しくて嬉しくて、にっこり笑ってなつくまちゃんをギュッと抱きしめました。

お姉ちゃんはいつも、こうやってなつくまちゃんを大切なお友達にしてくれます。



やっぱりお姉ちゃんじゃなきゃ!


「おねえちゃん、だいすき!」




《 おしまい 》

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