第26話「それはとてものどかな」最終話






「回復ポーションと解毒ポーションの材料となる植物の種と、貧しい土地でも育ち成長が早いキャベツに似た植物の種を、隣国の王太子に渡したんだってね」


「すみません。レオニス様に黙って勝手なことを致しました」


「あの植物は君が見つけたものだ。どうしようと君の自由だよ」


今日は絶好の農作業日和で、朝からレオニス様とじゃがいもの収穫作業に追われていた。


作業が一段落ついたので、畑の隅に簡易のテーブルを出して、お茶を飲んでいる。


こういう所で飲んだ方が、食堂やリビングで飲むより美味しいのだから不思議だ。


レオニス様の作業着姿も大分板についてきた。


「それに最初から、君が祖国を見捨てられるとは思っていなかったから」


レオニス様には全てお見通しだったようです。


「レオニス様にはご迷惑をかけっぱなしで……」


「まだ、シャルロットに脅された時の事を気にしてるのか?」


「はい、レオニス様にも酷いことを沢山言ってしまいました……」


「俺のことなら気になくていい」


「ですが……私だけお咎めなしというのは」


「……そんなに言うなら、君に罰を与える」


「はい、どんな罰でも甘んじて受け入れます」


「こっちに来て、ここに座って」


レオニス様においでおいでされて、彼の膝の上に乗せられた。


「今から君に罰を与える」


「はい、何なりと」


「一つは君は今日から俺の事を『レオ』と愛称で呼ぶこと」


「はい、えっ……?」


「言っておくが君に拒否権はない。これは罰なのだから。今日から俺も君の事を『アリー』と呼ぶ。呼ばれたらちゃんと返事をするように、わかったかい? アリー?」


「……はい」


レオニス様に、アリーと呼ばれる度に心臓がバクバクしてしまう。


「二つ目は、ずっと俺の側にいること。そして……その……よ、世継ぎを生むこと……」


「……はい。……って、ええ! お世継ぎですか!?」


お世継ぎといえば子供、子供といえば出産、出産の前に子作りを…………!


子作り……?! って、あれして、これして、こうして……! ふわわわわっ……!!


「こ、子供は出来れば三人は欲しいと思ってる」


見上げると、顔を真っ赤にしたレオニス様と目が合った。


「君の心の準備が整うのを待つつもりだが、拒否権はないから……!」


「……はっ、はい!」


レオニス様との子作り……、嫌ではないですが、でも……! ふわぁぁぁぁ!!


脳みそが茹で上がってしまいそうなぐらい、頭に熱が集まっていた。


「子作りを罰なんて言ってごめん。俺は何があっても君を手放す気はないから、それを伝えたくて……。愛してるんだアリー」


レオニス様に端正な顔で見つめられ、愛を囁かれ、心臓がうるさいほど音を鳴らしていた。


「レオニス様、私は……」


「『レオ』だろ、そう呼ぶように言ったはずだ?」


「レ、レオ様……! わ、私、私も……! レオ様の事を……お慕いしてます!」


私が気持ちを伝えると、レオ様は破顔した。


今まで見てきた中で、一番キュートな笑顔だった。


いつからだろう? 彼の事が気になり始めたのは?


会議室で「愛してる」って言われた時?


森で薬草を採取したとき?


馬に二人乗りしたとき……?


いいえ……多分、最初に会ったとき、メイドに「化け物」と呼ばれた彼が、悲しげな瞳をした時から気になっていた。


「ありがとう、嬉しいよアリー!」


レオ様の美しいお顔が近づいてくる……!


彼の眼力に耐えられず、私はそっと瞳を閉じた。


直後、唇に柔らかな感触があった。


「ずっと君とこうしたかった」


長いキスのあと、レオ様に抱きしめられた。


「もう一回、してもいい?」


「えっ、ちょっ……待ってください! もうすぐ、おやつを取りに行ったフェルとクレアさんが戻って来ますから、これ以上は……!」


私の抵抗虚しく、レオ様に二度目のキスをされてしまった。


戻ってきたフェルとクレアさんに、レオ様とキスしているところを見られてしまい、フェルは嫉妬からへそを曲げるし、クレアさんは生暖かいものを見る目で見てくるし……色々と大変だった。


この賑やかでのどかな生活が、ずっと続けばいいのにな。





――終わり――




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【完結】「妹の身代わりに殺戮の王子に嫁がされた王女。離宮の庭で妖精とじゃがいもを育ててたら、殿下の溺愛が始まりました」 まほりろ @tukumosawa

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