レシピ 11 幸福の魔法のレシピ
ポケットを叩くと中に入れたクッキーが増えるという、そんな歌があったなあ⋯⋯
私はあんなのはただ割れただけなのに⋯⋯と、前世では思っていた。
魔族国の問題を解決してもう3年が経った。
むしろ問題はその後に起きたと言ってもいい。
私はその後、魔族国の各地に赴いていろんな土地の浄化を行った。
ある時は沼を湖に。
ある時は魔の森を大森林に戻した。
そして瘴気に侵された魔族の人々を治すのに私の作ったクッキーが大活躍となった。
クッキーは良い、保存が効くから遠くの場所まで届けることが可能だ。
といっても湿気とかで駄目になるから乾燥剤とか必要だと思ったので、前世の知識を頼りに『シリカゲル』を提案したが⋯⋯その詳しい製法など私は知らなかったのでこの世界の研究者に丸投げである。
しかし昔、ある研究者が発明した『シニカケル・スライム』を使う事で問題は解決したのだった。
死ぬ寸前まで乾燥させた食用スライムが周囲の湿気を吸収する、この世界の乾燥剤なのである。
この乾燥スライム、こまかく刻んで水で戻して食べると意外と美味しいのだった。
試しに黄粉をまぶして食べるとよく合う、わらび餅かな?
この世界⋯⋯私以外にも転生者が居たんじゃないか?
そう思った。
瘴気の問題は解決する一方で別の問題が発生する。
そう⋯⋯私を巡ってのミシェル王子とベリアル皇子の戦いだった。
ミシェル王子は姉であるレイシア様を救われたと思っているから。
ベリアル皇子は死にかけたのを私に救われたと思っているから。
なので純粋な恋心じゃないんだろうと⋯⋯思ってたのになあ⋯⋯
この恋の争いは意外な形で幕を引くことになったのだが、それは後で語ろう。
結局もろもろの問題解決に実に3年という月日が流れたのだった。
もう私は18歳になった。
そして今は⋯⋯
「『駄菓子屋セイカ』の出前に来ましたよー」
「わーい!」
「お姉ちゃんのクッキー楽しみ!」
「いつもありがとう、おねえちゃん!」
「ふふ、どういたしまして」
今の私はシミットさんのパン屋の隣で、お菓子屋を開いている。
お城の生活から抜け出した私は初めのうちはシミットさんのパン屋でまた働き始めたのだった。
しかし⋯⋯私は有名になりすぎた。
パン屋に迷惑がかかるようになったためお隣で独立開業したのだった。
とはいっても毎日のようにシミットさん一家とはご飯も一緒に食べる間柄だったけどね。
そんな私のお菓子屋は大繁盛で、その常連の一つがここの私が暮らしていた孤児院だ。
孤児院の子供たちに毎日お菓子を食べさせる。
そんな夢が叶った。
「いつもありがとうございます、セイカ様」
「もう『セイカ様』はやめてよ『リーサ様』」
今の孤児院を運営しているのはリーサだった。
この3年の間に前のシスターは中央へ栄転したらしい。
どうも私という聖女を育てた実績だとかで⋯⋯
でも中央協会では下っ端の雑用係になってストレスな日々らしい。
こんな小さな街の教会でふんぞり返っていた方がよっぽど楽だと思うのだけど⋯⋯まあ人それぞれの人生だ。
「だってセイカはいずれ結婚しちゃうし⋯⋯友達付き合いもそのうち無くなるよ」
「たとえ私が誰と結婚しようとしても、リーサと親友なのは変わらないわ」
「そっか⋯⋯」
「そうよ」
同じ孤児院出身の私とリーサ。
時が経ち立場も変わったが、それでも親友なのは変わらない。
「とうとう来週が結婚式か⋯⋯」
「長かったような短かったような」
「でもこれでやっと本当の平和が来る」
「そうだね」
私とリーサが見上げる空はどこまでも澄んでいた。
もう瘴気の拡大におびえる日々は終わったのだ。
1週間後、私は久々に王都にやってきていた。
なぜなら今日は結婚式だからだ。
「そのドレスよく似合ってるよ」
「ありがとう、ミシェルの贈り物だもん」
そう私は隣に立つミシェルを見上げる。
この3年間でミシェルはずいぶん背が伸びた。
私のちっとも伸びない身長が抜かれたのはいつだったのか?
男の子って急に大人っぽくなるよね。
そんな事を私は思っていた。
「それではお手を⋯⋯セイカ」
「ありがとう、ミシェル」
私はミシェルをパートナーに今日、結婚式に出席する。
そう今日はレイシア姉様と⋯⋯ベリアル君の結婚式なのだ。
どうしてこうなったのかな?
最初はベリアル君も私狙いだったはずだったんだけど⋯⋯
なんだかいつの間にかレイシア姉様と仲良くなっていた。
たぶんいつも魔法の決闘していたせいだと思うけど⋯⋯
『俺とここまで戦える女はお前だけだ』
『あんたとの決着は人生をかけてでも付ける!』
戦闘民族かなこの2人は?
まあ2人の意志は関係なくこの結婚は人間国と魔族国の同盟の象徴となる平和への一歩なのだ。
⋯⋯だからずっと仲良くケンカしていてほしいです。
長かった結婚式もなんとか無事に終わり最後のイベントの花嫁のブーケトスが行われる。
「行こうセイカ」
「うん」
このブーケを受け取った人が次に結婚する。
そんな言い伝えがこの世界にもある。
やっぱり転生者居るよね!?
「そーれっ!」
元気よく投げられたレイシア姉様のブーケ。
それは私に向かって投げられた⋯⋯ように見えた。
しかし私よりも背の高い貴族令嬢が先に触れる!
あ⋯⋯届かない。
そう思った時、そのブーケが弾けてばらけてしまった!?
これって縁起悪いんじゃ?
しかしそんな事を思うのは私くらいみたいで、集まった淑女たちは気にせずに散らばった花を受け取った。
そして私の手にも──
一輪の花を持つ私の手にミシェルの手が添えられる。
見つめ合い笑う私達。
しかしそんな光景は私達だけではない。
あたりの淑女たちみんなが同じように愛する人と見つめ合っていた。
そんな私達をレイシア姉様とベリアル君が暖かく見つめていた。
幸せは分け合っても減らない。
むしろ増えるのだ。
ポケットを叩いてもクッキーは増えないが、それを食べて笑顔になる人は増えるのだ。
それこそが『幸せの魔法』⋯⋯
私がクッキーを作り続ける理由。
それを食べるみんなに幸福を分け合う『セイカの奇跡』だ。
「セイカ、僕と結婚してください」
「はい、ミシェル」
この幸せは、これからもずっと増えていく。
おかしな聖女の笑顔の魔法~セイカの作る奇跡のレシピ~ 🎩鮎咲亜沙 @Adelheid1211
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