レシピ 10 平和の訪れ
ミシェル王子と共にお城に戻った私はベリアルと話をした。
その結果わかったことは、この世界の災厄の原因である瘴気の汚染は決して魔族国だけの問題ではないという事だった。
「最初はトラス火山から始まった大気汚染だった」
ベリアルは語った。
そのトラス火山に魔族の宿敵でもあった邪悪龍の死体が沈んだことが始まりだったと。
それ以降その火山の火口からは黒い毒ガスみたいな瘴気がとめどなく溢れ続けているという事だった。
「おそらくまだ、火口の底で邪悪龍の死体が燃え尽きていないんだ。 それがいつになったら燃え尽きるのか? それまではこの瘴気は止まらない」
「その邪悪龍って死んだの何年前なんですか?」
「記録ではだいたい100年くらいだ」
「100年⋯⋯」
それでもまだ燃え尽きないのか。
「我々の調査では、完全に燃え尽きるまでにはあと100年はかかるという目測だ」
「そんなにかかるのか!」
「そうだ。 だから我ら魔族はお前たちの国への移住を進めるしかなかったのだ」
「戦争になってでも?」
「お前たちなら諦めるのか? このままだと国民が死ぬしかない状況で「侵略はやめよう」なんて民に言えるのか?」
「そうね」
王族であるレイシア様はわりとベリアルに同意らしい。
「もちろん魔族とて侵略したかったわけではない。 こんなマナの薄い土地などな」
どうも魔族国は人間国よりもマナが濃い場所らしい。
そのせいで人間と魔族は進化が違っているんだろう、適応というやつか?
「しかし、ここにきて俺は希望に出会った」
「私?」
「そうだ! お前の火だ! アレを使えば邪悪龍の亡骸を何とかできるかもしれん!」
私は考えるが答えは出ない。
「どう思いますか、レイシア様?」
「うーん? 可能性はあるわね」
「そうだ! だから頼むセイカ! 我と共にきて、あの火を使ってみてくれ!」
そうするしかないのか?
「だめだ! セイカをお前と一緒に行かせるなんて出来ない!」
ミシェル王子は私の事を心配してくれているんだろう。
⋯⋯だけど。
「ミシェル王子、私は行こうと思います」
「どうして!」
「そうしないといずれこの国も瘴気の汚染が迫るからです」
「そのとおりね。 年々瘴気の進行の境界線は、わが国に浸食してきていたわ」
レイシア様も同じ分析のようだった。
「なら僕も一緒に!」
「ダメに決まっているでしょミシェル」
「姉様!」
「この国を継ぐミシェルを行かせられない。 行くのは私よ。 ⋯⋯私がセイカを必ず守って連れ帰るからまってなさいミシェル」
「⋯⋯そうだね。 おねがい姉様、セイカを守ってね」
「そうそう、こういうのは姉様にまかせなさい」
こうして私はレイシア様とベリアルと共に魔族の国へと向かう事になったのでした。
しかし心配していたようなことは起らなかった。
レイシア様とベリアルが指揮する魔族軍が私の事を最優先で守りつつ、トラス火山へと案内してくれたからだった。
「ここがトラス火山の火口か⋯⋯」
「すごい瘴気ね!」
「この我々が開発した防瘴気マスクが無ければあっという間に肺をやられる。 セイカ、早くやってくれ!」
「わかりました」
こうして私は火口に向かって聖なる火を飛ばす。
「セイントファイア!」
毒々しい噴煙が立ち込める火口。
そこに私の聖火が着火した!
すると変化が現れる!
蒼黒い煙が白く変わる。
「おお! これなら!」
喜ぶベリアルの期待通りにやがて火口からは、瘴気の発生が収まっていくのだった。
「⋯⋯成功した?」
「ああそうだ! お前のおかげだ、セイカよ!」
ベリアルは私の手を取り感激していた。
「はいはい、そこまでよベリアル。 セイカは私の弟の彼女なんだから」
「む⋯⋯そうなのか?」
「ええ! そんな! 私なんかがミシェル王子とお付き合いなんて!?」
「何言ってんのよセイカ? 予言の聖女であるあなたとミシェルなら、誰も文句は言わないわよ」
えーそうなの?
「でもミシェル王子は年下だし⋯⋯まだまだ可愛い弟みたいな子なんだけど?」
「なら俺はどうだセイカよ! 吾輩はセイカより年上だし問題ない!」
「問題あるわ!」
「ええい! 黙れレイシア! お前に俺様の恋を邪魔する権利があるのか!」
「ないけど! 弟の恋路を守る義務はあるのよ!」
⋯⋯えーと、これどうしたらいいのでしょう?
やがてヒートアップしたレイシア様とベリアルの決闘が始まったが⋯⋯誰も止めることは無かった。
ここに集まった人間の軍も魔族の軍も。
収まりつつある瘴気を見て、もうこれ以上の戦いは嫌になったのだろう。
結局2人の決闘も1時間ほどでしらけて終わったし。
これで争いはもう終わりなのだ。
これが私がこの世界に転生してきた使命だったのですね、神様?
「こうなったら俺様は直接ミシェルと決着をつけ、セイカと結婚するのだ!」
「させるか! バカベリアル!」
⋯⋯せっかく戦いが終わったはずなのに私のせいで新しい争いになりそう。
どうしたらいいのかな?
この後私は、魔族国から感謝されつつ人間国に帰還したのだった。
そしてあわただしい日々に追われる事になる。
まだ完全に魔族国の瘴気の汚染が収まったわけではないのだから。
私たちは知恵と力を合わせてこの問題に取り組み始めたのだ⋯⋯。
そして気がつくと、あれから3年の月日が経った──
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