第116話 ひっつきすぎ

「アディー、僕も一緒にいくよ。近づけば、ドラゴンの悪いところをもっとはっきり見られるし」

と、デュラン王子。


「それなら私も行く! ドラゴンの伝えたいイメージが見えるかもしれないから!」

と、イーリンさん。


「俺も行く! 俺はユーリさん専属のホースだからな!」


 ランディ王子が負けじと言う。

 専属のホースってなに……?


 ブリジットさんがあせったように言った。


「皆様、一緒に行くのはおやめください! ドラゴンがますます警戒します!」


 ごもっともね。


「じゃあ、まず私とユーリが行くわ。ユーリは少し後ろからついてきて。それと、ようかん! ようかんは私たちのとってきたモリスが安全なことをドラゴンに訴え続けて」


(やってみる、かあさん)


「アデル。僕が前を行くから」


 ユーリが真剣な顔で私に言った。


「ううん。それだとドラゴンが警戒するでしょ? ユーリは私の少し後ろからついてきて。そして、もし火を吐いたら、すぐに消してね。ユーリなら、私のことを絶対守ってくれるから安心だもの」


「ずるいな、アデル。そう言われたら何も言えない」


 ユーリは一気に私をひきよせ、ぐっと力強く抱きしめてきた。


 ちょっと、ユーリ……!?


 あわてふためく私をユーリはそっと離すと、私の両肩を優しくおさえた。

 そして、目線をあわせる。


 ユーリのブルーの瞳がゆらゆらと動きだし、魔力がもれだしてくる。

 少しひんやりした、気持ちのいい風がユーリから放たれはじめた。


 その風がふわふわと私の全身をつつみこむように動いていく。


 え……? なに、この感じ……!? 

 さっき、ユーリに抱きしめられた時と同じような感じなんだけど……。


 よくわからないけれど、自分の心臓が異常なほどドキドキしてきた。 

 火照った顔を手であおぐ私を見て、ユーリが妖艶に微笑んだ。


「念のため、僕の魔力でアデルの全身をくまなく包んでおいたよ。あのドラゴンがたとえ火を吐こうが、アデルの髪の毛一本たりとも傷つけさせないから安心して」


 ユーリってそんなことができるの!? さすが、魔王ね!


「粘着質な魔力でアディーを囲い込んで、すごい独占欲だな……」


 不満げにつぶやく、デュラン王子。


「ユーリさんが出している渦がアデルちゃんを取り込んで、ふたりのまわりには誰も近づけないようにしているように見えるわ!」


 イーリンさんは驚いたように声をあげた。


「俺はユーリさんの弟子なのにアデルだけずるい。よしっ、俺も!」


 そう言って、ランディ王子が私に突撃してきた。

 が、すぐさま、はじきとばされ、地面に転がった。


「ランディ、ありがと。僕の魔力が作動してることが証明できてよかったよ。じゃあ、行こう。アデル」


 ユーリが私に向かって、嬉しそうに声をかけてきた。

 起き上がったランディ王子の恨めしそうな視線を受けながら、私たちは歩き出した。


 少し離れてついてきてもらおうと思ったのに、ユーリが嫌がって、私の前か隣を歩こうとする。

 ドラゴンが警戒するからとしつこく言って、なんとか、私の背後にまわってもらった。


「あの、ユーリ、歩きにくいんだけど……。もう少し離れてくれるかしら?」


「嫌だね。これが限界。これ以上は離れられない。魔力でひっついてるから、あきらめてね」


 何故か嬉しそうなユーリの声。


 そう、ユーリは私の背中にぴったりと張り付いて歩いている。

 歩きにくいし、なにより恥ずかしい……。


「ひっつきすぎだわ!」


 思わず抗議しながら振り向くと、目の前に甘く微笑む美しい顔が……。

 ちょっと、顔まで寄せてきてるの?


「結婚したら、こんなもんじゃないから。覚悟して?」

と、ささやいた。


「ちょっと、やめてよ!」


 私が真っ赤になって怒ると、ユーリは楽しそうに笑った。


 魔王に振り回されながら歩いているうちに、アンドレさんが置いたモリスのところまでたどり着いた。


 そこから、ドラゴンを見る。

 うずくまったままのドラゴンが燃えるような真っ赤な瞳でこっちをじっと見ていた。

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天使かと思ったら魔王でした。怖すぎるので、婚約解消がんばります! 水無月 あん @minazuki8

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