第115話 食べないの?
モリスを急いで持ち帰った私たち。
出迎えてくれたアンドレさんに連れられて、ドラゴンの部屋まで戻る。
うずくまるドラゴンと、離れたところから見守るブリジットさん。
「ドラゴンの様子はどうですか?」
「あれから、全く動きません」
私の問いに、ブリジットさんが心配そうな顔をして答えた。
アンドレさんが私たちが採ってきたモリスのつまった袋を、できる限り、近くまで持っていき、地面の上にモリスをだして、すぐに離れた。
息をのんで様子をうかがう。
その時、ドラゴンがギーッという声で鳴いた。
「あ、今の鳴き声に、モリスの花が見えたわ!」
イーリンさんが、すぐさま見えたものを教えてくれた。
ドラゴンは首だけをあげて、匂いをかぐように鼻を動かしている。
ドキドキしながら見ていたが、待っても待ってもドラゴンはモリスを食べに動くことはない。
そして、また、ギーッと鳴いた。
体の奥底から振り絞るような声。苦しそうで悲しい気持ちになってくる。
「また、モリスの花のイメージが見えたわ!」
と、イーリンさんが言った。
あのドラゴン、モリスが食べたいのに食べられないのかしら?
「あのドラゴンは、なんで、モリスを食べに動かないんでしょうか?」
と、ブリジットさんに聞いてみた。
「傷ついているドラゴンは警戒心がとても強くなります。食べたいんでしょうが、私たちの持ってきたモリスが信用しきれないのかもしれません」
「もう少し近くにモリスを動かしてみます」
と、アンドレさん。
「いえ、上司として、それは許可できないわ。あれ以上近づくのは危険よ。力が弱ってるとはいえ、近づきすぎると、残った力をふりしぼって、火を吐くかもしれないし……」
ブリジットさんがアンドレさんを止めた。
でも、ドラゴンはだんだん弱ってきているように見える。
早くモリスを食べさせたい!
こうなったら、
「私が行きます!」
と、手をあげた。
「とんでもない! アデル王女様に、そんな危険なことをさせられません!」
ブリジットさんが驚いた顔で言った。
「そうだよ、アディー。危ないことはやめて」
と、デュラン王子も同調する。
「大丈夫よ。正確に言うと、私と火消し達人のユーリが行きますから!」
私はそう言うと、隣にいたユーリの腕をとった。
「ちょっとアデル、何、言ってるの? しかも、火消し達人って、なにそれ? 変なんだけど……」
ユーリが、あきれたように言った。
「だって、ユーリが一緒に来てくれたら、火を吐かれても絶対に消してくれるでしょ? 私、信頼してるもの。だから、お願い! 私と一緒に来て!」
腕にぶらさがるようにして、ユーリを見上げて必死に頼み込む。
ユーリの青い瞳が揺れた。
「はあ……。ずるいな、アデル。どこでそんなお願いの仕方、覚えたの? 断れないでしょ」
「今のは、ちびドラゴンなみに、あざとかったですね……」
ジリムさんがつぶやいたが、気にしない。
「やったー! ありがとう、ユーリ」
「こら、ユーリさんから離れろ!」
猛然とランディ王子が近づいてきた。
ん? 離れろとは?
嬉しさで浮かれてたけど、そういえば、私って、なにを持ってるのかしら?
改めて自分を見ると、……えっ?
ユーリの腕を自分の胸にかかえるようにして、がっしりと抱きしめていた。
私ってば、なんてことを! 恥ずかしい!
あわてて離れようとしたら、全身をふわりと包み込まれるように、優しく抱きすくめられた。
そして、耳元から声がふきこまれる。
「アデルのほうから、積極的にきてくれるなんて嬉しいよ」
とろけるように甘い声が響いた。
一気に顔が熱くなり、胸のアラームが鳴る。
さすが魔王。やっぱり、ドラゴンよりも危険よね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます