第114話 そんな子じゃありません!

「じゃあ、急いで採って戻らないとね。あんな大きなドラゴンだから、沢山、食べるかな?」


 私が聞くと、イーリンさんがアンドレさんから渡された大きな布袋を差し出した。


「そうだね。少なくても、この袋にいっぱいになるくらいは採って持っていこう」


 イーリンさんの言葉に私はうなずいた。


 それから、私とイーリンさんとユーリとランディ王子の4人がひとかたまりになり、かなり離れた場所で、デュラン王子とジリムさんがモリスを収穫しはじめた。


 あっという間に、大きな袋、ふたつぶんのモリスが収穫できた。


「とりあえず、これくらいでいいでしょう。足りなければ、あとで王宮から人をだし収穫させて、保護センターに運ばせますから」


 ジリムさんがてきぱきと言った。


「ようかん! 帰るわよ!」


 私が呼ぶと、空高く、気持ちよさそうに飛んでいたようかんが、すぐに私のそばに舞い戻って来た。


(たのしかったよ、かあさん)


 ようかんの声が頭に響く。


「良かったわね! もう、山に帰りたくなったんじゃない?」


(うーん。山は広くて気持ちがいいけど、山に帰ったら、ぼくだけだからさみしい)


「えっ、ようかん……」


(かあさんが一緒ならいいのに。ダメ?)

と、さみしそうな声で聞いてくる。 


 ユーリの魔力にはじかれない距離、2メートル先で、うるうるとした瞳でこちらをみつめてくるようかん。


 なんて健気なの? 泣けてきそう……。

 と思ったとたん、またもや、涙がどばーっと流れ始めた。


「ようかん、あなたをひとりにはさせないわ!」


 泣きながら叫ぶ私。

 

「アデル、だまされないで。あれは、あざとくて、アデルの優しさにつけこんでるだけだからね?」


 ユーリはようかんをにらみながら、私に言った。


「ユーリ、なんてこと言うの? ようかんはひとりぼっちでさみしいのよ!」


「いや、でも、あのドラゴンの目。演技力がすごいですね……」

と、感心したように言うジリムさん。


「ジリムさんまで、演技力だなんてひどいわ! ほら、あの、つぶらな瞳! 嘘のつけない目を見て!」


が、誰も同意してくれない。


「あのね、アデルちゃん。あのドラゴンが何をアデルちゃんに言ってるかは私には聞こえない。でも、会話してる時にだす、オーラみたいなものだけ見えてるの。人間とは違うかもしれないけど、経験上、寂しい時は青っぽかったり、白っぽく見えたり、寒そうな色が見えるのよね。でも、さっきから見えるのは、赤いうごめく炎みたいなものばかりなのよね。あのドラゴン、たくましそうなイメージしかわかないんだけど」

と、イーリンさんが言った。


「ほらね。あれは腹黒いんだって。気をつけて、アデル」

と、だれよりも腹黒い魔王ユーリが言う。


 みんな、なんで、素直でかわいいようかんを、そんな風にいうのかしら?

 ようかんは、そんな子じゃありません!


「大丈夫よ、ようかん! 私がそばにいるわ! 私が、あなたのお母さんよ!」


「ちょっと、アデル。なに、意味のわからないこと言ってるの? アデルは、あんな奴の母親じゃないからね。 アデルは、僕とアデルに似た、天使みたいな子どもの母親になるんだからね?」


「いや、そうとは限らないよ。だって、まだ結婚まで2年もあるんだろ? ブルージュ国の王子妃になるかもね。ああ、そうなったら、そこのドラゴン。ずっと、アディーと一緒にいられるよ? ドラゴンも、アディーにこの国にいてほしいよね?」

と、にっこり微笑むデュラン王子。


 そこで、ようかんがキィーっと鳴き声をあげた。


「あっ、今、ドラゴンの鳴き声に、アデルちゃんがドラゴンに乗って、王宮の上を飛んでる映像が見えたわ! 多分、デュラン兄様の意見に賛成してるみたい!」


 イーリンさんが驚いたように叫んだ。


「は? そんなこと、させるわけないでしょ? あんまりふざけてると、この国を永久凍土にするよ? そこのドラゴンは氷漬けにして海に流すよ」


 ユーリがブルーの瞳を魔力で揺らしながら、冷気を放出する。


 ちょっと、やめなさい、ユーリ! 

 せっかく採ったばかりの新鮮なモリスを冷凍にしないで!

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