第113話 モリス

 モリスの花を採りに行くことにした私たち。


 ブリジットさんとアンドレさんも同行すると言ったけれど、ドラゴンの様子も心配なので残ってもらって、私たちだけで行くことにした。


(かあさん、ぼくも行く!)


 私の頭にひびく声。ようかんだ。


 私はブリジットさんに聞いてみた。


「ようかんが一緒に行くって言ってるんですが、外へ連れて行くことはできるのかしら?」


「ええ、大丈夫です。私たちが保護した時は、まだ、この半分もない大きさで、親とはぐれていたので、ドラゴンといえど危険だと思い保護しました。が、もうこれくらい大きくなれば、かなりの距離を飛ぶこともできるでしょうし、大丈夫だと思います。それに、アデル王女様を保護者のように思っているので、はぐれることもないでしょうし。もう少し体が大きくなったら、山へ帰そうと考えていたところですから、練習にもなりますし、ご迷惑でないのなら連れていってやってください」

と、ブリジットさんに頼まれた。


「わかりました! ようかんの保護者として、責任をもって連れて帰ってきます! 任せてください!」


 胸をはって答えると、デュラン王子がふきだした。

 失礼ね。私、変なことは言ってませんよ? 


 気をとりなおして、ようかんに呼びかける。


「じゃあ、一緒にモリスを採りに行こうね、ようかん!」


 すると、ようかんはキィーと楽しそうな声をあげ、私の頭の上を旋回した。


 ということで、また馬車に乗りこみ、モリスの咲く場所へむかっている私たち。

 行きと違うことは、窓の外を並走して小さなドラゴンが飛んでいるということ。


 最初、ようかんは私のあとをついて、馬車に一緒に乗ってこようとした。


「野生のドラゴンなら、外を飛べば?」

と、ユーリの魔力ではじかれた。


 ちょっと大きいけれど、私のひざの上にのせても良かったのに。残念!

 ほんと、ユーリはようかんに厳しいわよね!


 そして、馬車が止まったので降りた。


「うわあ、きれいね!」


 そこは、一面、紫色だった。


「ここは、王家の土地になります。昔の大飢饉の時、多くの人の命を救ったモリス。そのモリスが、一番最初に咲きはじめたのが、この場所だと言われています」

と、ジリムさんが説明してくれた。


 すでに、ようかんは、モリスの花の上に飛んで行き、食べている。


(かあさん、ここの花、強い! 傷があった、うろこがなおった!)

と、ようかんの声。


 え、そんなに即効性があるの?


「ようかんが、ここの花は強いと言ってるわ。もう、うろこの傷がなおったんだって!」


 驚いた私は、大きな声でみんなに伝えた。


「やっぱり、最初に咲きはじめた場所のモリスだから、特別なのかしら?」


 イーリンさんが興味深そうに言う。


「人間にもそんな効果があれば、王家印のモリスとして売り出せるのに。ドラゴンにしか効かないんじゃあ無理か……」


 悔しそうに、ジリムさんがつぶやいた。


「そんなことより、沢山採って、早くドラゴンに持って行ってあげましょう!」


「そうだね、アディー。モリスの採り方は、手取り足取り、僕が教えるからね」


 デュラン王子がモリスと同じ色の瞳をとろりとさせて、甘く微笑んでくる。


 その途端、一気に、ユーリの冷気が放たれた。

 急激な温度差に、ぶるぶるっと体が震える。


 寒いわ……。


「冷たくて、気持ちいい…」

と、嬉しそうにつぶやく、ランディ王子。


 怖いわ……。


 すぐさま、ジリムさんが、デュラン王子の首根っこをひっつかまえた。


「アデル王女様、モリスの採り方は、ただちぎるだけです。簡単に手でちぎれます。今日、咲いているモリスは今日しかもちません。なので、お好きなだけ採ってください。次期公爵様、こいつは俺が捕獲しておきますのでお許しを」


 そう言うと、デュラン王子を連行していった。

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