揺らめく欠片

 目指す夢焔神社はここから500km程のところにある。正直そんな距離を歩ける気はしないがお金も殆どないので地道に歩いていくしかないだろう。日に焼けた肌がヒリヒリとする。少し歩くだけでも汗をかいてしまう。数時間ほど歩いて道に横たわっていると1人の男性に声をかけられた。


「大丈夫ですか?」


魔界の人なのではないかと身構えてしまう。


「よかったら車で送って行きましょうか?」


心配は杞憂でとても優しい人らしい。僕達は目を輝かせながら彼の車に乗った。


「今、夢焔神社を目指しているんですけど」


「そうなんですか。すごい遠いところですね。流石にそこまで送る事は出来ませんが、なるべく運びたいと思います。あと、これ」


そう言って彼はバックの中から何枚かのお金を差し出した。


「少ないですが、これを旅の手立てにしてください」

「すいません。ありがとうございます」


本当に優しい人だと思う。そういえば、青いペンダントについての事消した方がいいのかな。僕の命が狙われるのは嫌だけど、他の人への被害が増えるのはもっと嫌だ。自分で終わらせたい。そう僕は決心した。車を少し走らせると渋滞に差し掛かった。車の列は遥か先まで続いていて動きそうにない。僕も、元魔界の彼も歩き続けてきた疲れから夢現のようになっている。でも、そんな感覚も一瞬で覚めた。


「ドカーン!」


音のなった方向を見ると建物が崩れていくのが見える。そして近未来的なロボットがこちらを目掛けて照準を定めているようにも見える。


「覚悟しろ!」


ロボットから聞こえる大きな声。


「アクアが戦闘能力を持っています。早く逃げましょう」


車に向かって強烈なビームが放たれた。


僕は彼の手を反射的に握った。信頼していた通り僕を転移してくれた。でもそこに彼の姿はなかった。心身ともに疲れていて1人分くらいの力しか残っていなかったのだろう。目から涙が溢れ出てくる。でも、彼が繋いでくれたバトンをここで絶つ訳にはいかない。少しでも早く神社に向かうために足を踏み出した。



「無事、神社まで辿り着いてくといいな」

疲れ果てた体でそう呟く。


「なんでお前がここにいるんだ」


魔界の人に見つかってしまった。

協力していたのがバレると本当に殺されてもおかしくは無い。


「少し来い」


足が動かない。


「お前を魔王さまに会いに行かせてやる。どうなるかは知らんが」


「少しでも時間稼ぎをしないと」


「なんか言ったか?」


僕は残っている体力を振り絞って逆方向に走る。


「おい、逃げるな!」


直ぐに追いかけてくる。疲れきったこの体では逃れる事は出来なかった。


「全く、手間をかけさせやがって」


手足を鎖で繋がれて引きずられる。そして魔界への扉が開いて送り込まれる。


「魔王さま」


「なんだ。お前か。どうした」


「例の少年の近くにこいつがいました」


「なるほど。お前は下がって良い」


仕事を終わらせ戻っていくのが見えた。


「言い訳なんて聞きたくない。だから1つチャンスをやろう」


「今更何ですか」


「あの少年をここに連れてこい。そうしたらまた魔界にいることを許そう。いいか、分かったな」


体に巻きついた鎖を外して暗い道を歩き出す。キャンバス台の中心にある炎に手を翳す。


 割れたペンダントの欠片を触る。角が少し痛みを感じさせる。必死に歩き続けて、神社までもう少しとなったところで声が聞こえた。


「ようやく会えたな」


頭に強くのしかかってくる様な声だ。


「運よく逃げられて良かったな。お前を捕らえるために人を送ったのだが何をしているのだか。まあいい。ペンダントの秘密を知られたからには魔界の王として必ず殺さなければならない。覚悟しろ」


もう無理だ。僕はここで殺されるんだ。覚悟を受け入れながら目を瞑る。


「ドカーン!」


大きな爆発音に思わず目を開けてしまう。そこには、僕を今まで沢山救ってくれた彼がいた。


「離れて!」


彼に言われたように危険が来ない場所まで走る。遠くから痛みを堪えながらも必死に抗うその姿に見入ってしまう。こんな時に大切にしてくれた彼を救えない、何も出来ないなんてちっぽけな存在なのだと思案する。彼の手から光がこちらに飛んでくる。急いで掴むと、綺麗で透明なペンダントだった。目を閉じて手の中に握って想いを込める。周りの音が全て消えたような気がする。目を開けると空から光の雨が降り注いだ。そこには、ボロボロで赤く染った彼が倒れ込んでい ただけで、他には何も無かった。名前も知らない彼の手を握る。今までの記憶が溢れて、涙が溢れてくる。あれから、どれくらいの時が経ったのだろう。彼の身体が起き上がったのに僕は気づく。僕は彼と共にキャンバス台の中心へ歩き、点っている焔を消した。

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