半殺し屋
雨宮踏葉
おとなしそうな小柄な女
街の一角のビルの中にある小さな事務所。そこにはお茶を飲んで本を読み、のんびりと過ごしている男が一人いた。彼は背が高く、少し顔が整っていて、彼の
殺し屋がくつろいでいるとノックの音が聞こえたので事務所のドアを開けると、そこには30歳はいかないくらいのおとなしそうな雰囲気の小柄な女がいた。殺し屋はその女を事務所に入れ、話を聞いた。女の話によると、数年前、彼女が高校生であったくらいの頃までは、彼女の両親は小さな会社を経営していたので、少々裕福な家庭で暮らしていたらしい。が、何者かが彼女の両親を
「私がお金だけ受け取って殺さない、そしてあなたの側からはキャンセルできないのでずっとお金を取られたままあなたはターゲットが殺されないのに待ち続けなければいけない…というご心配ですか?」
と彼女の内心を察した殺し屋が言う。そして殺し屋はこう続けた。
「ご安心下さい。私はこれまでにこのようなご依頼を引き受けて、私の側からキャンセルを申し上げたことは一度もありませんし、依頼の成功率は百パーセントです。もちろん、警察にバレて捕まるなどというヘマをしたこともございません。たしかに前払いでキャンセル禁止のルールはありますが、もし私がご依頼をキャンセルしたり達成できず失敗に終わったりしたらいただいたお金は全額お返し
「ルール?さっきの前払いとキャンセル禁止以外のですか?」
彼女は先程説明されたルール以外にまだ何かあるのかと言いたげな様子である。殺し屋は丁寧に説明し始めた。
「先程お伝えしたルールはご依頼をお引き受けするまでの確認事項です。ここからはご依頼をお引き受けしてからのルールとなります。まず、私とあなたの連絡はメールと電話でとります。これで私はお仕事の進み具合を共有致します。何か事態が動いた時は
殺し屋は少し間を空けたあと、ご納得いただけますか、と彼女に尋ねた。彼女は納得したのか、分かりました、と言ってから何も尋ねてこなかった。殺し屋にたくさんの札束が入った
十日ほどで殺し屋はターゲットを特定できた。彼はこのことを彼女にメールで送るとすぐに読んだのか彼女から電話がかかってきた。彼はターゲットのデータをパソコンに打ち込みながら彼女からの電話をとった。もしもしと彼が言い終わらないうちに彼女が話しはじめた。こんなに早く特定できるなんてすごいです、ありがとうございます、などと早口で
「いやぁ、いつもなら少しくらい教えてもいいかと思うものなのだが、これは本当に教えられないなぁ…」
それから殺し屋はターゲットに近づいて接触することができた。そこから二ヶ月ほどかけてターゲットと親しくなり、電話で互いに飲みに誘い合うような仲となった。殺し屋はターゲットの殺害を実行するための計画を立てはじめた。まずは決行日。依頼者である彼女がトドメを刺すには彼女の予定が空いている日を設定しなければいけない。ただ彼女の予定は彼女と常に共有しているから殺し屋は把握済みであり問題ない。次に決行場所。殺し屋はあるマンションの一室を借りており、中のインテリアを状況によって変えることでターゲットにそこを自宅だと言ったり、仕事場だと言ったりしていつもそこを彼の殺しの仕事現場にしている。血が飛び散っても片付けがしやすく
「ありがとうございます。その日はちょうど彼も男友達の家に飲みに行くと言っていましたので、私も彼に
文面だけで彼女の
決行日当日。殺し屋はターゲットが来る前に彼女に決行場所に来てもらい、彼女を殺害決行予定現場の隣室に入れた。殺し屋は彼女に自分が次にドアを開けるまでは決してドアを開けず、物音もできるだけたてないようにと念を押す。およそ一時間の後にターゲットが決行場所へやって来た。殺し屋はターゲットに次々に酒をすすめ、自分は飲んだフリだけして一切口に入れず、ターゲットがまともに歩けないくらいまで酔わせることに成功した。殺し屋はついにターゲットに襲いかかった。ターゲットは当然上手く動いてかわすことなどできるわけもなく、殺し屋に殴られ、蹴られて、何ヶ所も骨を折られた状態で、縄に縛られた。ターゲットは全身の痛みと縄のせいで弱り、まともに身動き一つできなかった。それを確認した殺し屋は隣室で待っている彼女をこちらへ呼び
「やりたくないって…。困りますよ。たしかにあなたの愛する人を殺したくない気持ちは分かります。でもあなたが依頼なさったのでしょう?何年も前から怨み続け
しかし相変わらず喚き散らして発狂している彼女には殺し屋の言葉など届いてはいないようだった。殺し屋はため息をつきながらポケットから
「はあ……、話が全く通じない…。こりゃダメですかね…?」
ターゲットは拳銃の引き金を引いた殺し屋に
殺し屋は真っ赤な鮮血がドクドク流れる二つの倒れた
「………もうあなたには聞こえていないのだろうが………。こういうことがあるからどれだけ頼まれてもトドメを刺す直前になるまでターゲットを教えることはできないのだよ。先程も言った通り今回のようなことははじめてではない。ごく
殺し屋は
「しかしこういう後始末にかかる時間は倍になってしまうから結局面倒だな。私の本音としては今回みたいなことは
殺し屋は文句を言いながらも一時間ほどで片付けを
___あのカップルを殺してから一週間が経ち、殺し屋は事務所でだらんと座りながらコーヒーを飲み、テレビのニュース番組を見ていた。アナウンサーがあるニュース原稿を読み上げた。
「おととい山のふもとで発見された男女の死体の遺棄事件ですが、現在警察が捜査を進めているものの、
すると事務所にノックの音が
「おや、来客か?
と言ってドアを開けると、そこには
「こんにちは。今日はどのようなご用件ですかな。」
半殺し屋 雨宮踏葉 @Amamiya_Touha
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