第13話 色彩の指輪

 第十区外れ、食堂サン・フラワー。

 ムーンゴースツのメンバーはいつも通りカモフラージュ用に食堂を営業していた。

 ツバキの巧みな話術、カコの天然全開の接客、フレデリカの絶品料理。店内は彼女ら目当てに訪れる客でほぼ満席。


 しかし、和やかに流れる空気は長続きしなかった。


 新型兵器の「ピストル」を携えたギャングたちはサン・フラワーに入るや否や、迷わずにムーンゴースツのメンバーを撃ち殺そうとする。

 襲撃を最初に気づいたカコはピストルの存在を知らなかったが、持ち前の反射神経と直感でとんできた弾丸を避ける。そしてそのまま驚く隙も与えずに先頭のギャングを店外に蹴り飛ばした。

 

「じかんかせぎ、するから。あとはおねがい」


 カコは片手でエプロンを脱ぎながら、反対側の片手でそばにいるエイトを2階に繋がる階段の方に放り投げた。

 襲ってきた連中はエイトの指輪を狙っているかもしれない、そう判断したカコは直ちに少年を逃がすことにした。

 店内にいるツバキとフレデリカに軽くアイコンタクトすると、今度は素手のまま店から出て行った。


「みなさん、申し訳ないんだけど今日はお開きです。急遽団体様の予定が入ったので、フレデリカの指示に従って裏口から帰ってね」


 店内にいる客の避難作業をフレデリカに任せると、ツバキはエイトの腕を掴んで2階へ向かった。


「ちょっと待って! カコさんを独りにするのはマズイ! みんなで逃げましょ!」


「逆だよ、キミがいるとむしろ邪魔で戦えないから。安心して、エイトくんにはお願いしたいことがあるんだ」


 ツバキは慌てるエイトに色彩の指輪を握らせた。

 彼がこれ以上動揺しないように屈んで目線を合わせてあげた。


「お客さんと一緒に裏口から出て行って、ホロアを探してくれる? メリアの暴行は見たよね、あの躊躇いのなさは素人じゃない。だから襲ってきた連中は彼女の手下の可能性があるんだ。違ったとしてもおそらくはキミの指輪を狙った悪党だと思う。だからエイトくんは何としてもここから離れてほしい」


「ゆ、指輪……僕が持っていいんですか?」


「エイトくんの持ち物でしょ? 使いこなせるよ、キミなら」








 第六区、ヨルム孤児院。


 陽が沈んであたりは暗闇と大通りの陰に包まれた。

 月明かりにだけ照らされるヨルム孤児院の中庭は熱と狂気に支配されていた。


「はぁ……はぁ……次!」


 そう叫ぶホロアは全身傷だらけで、今にも疲労と痛みに押しつぶされそうだ。

 彼女の周囲には数十人ものギャングが倒れている。


 外付け式のパワーギアは交戦中に破壊されて、全身のあちこちで打撲傷と火傷を負った、折れた骨が十本を超えたあたりからもう数えてない。

 一人の少女にしては充分な戦績だが、孤児院をかこむ包囲網は少しも薄れてない。


 戦況的に全く勝ててないにも関わらず狂犬の如く独りぼっちで戦い続けるホロア、彼女から漂う狂気はギャングたちの士気を少しずつ下げている。


「……どうしたんだよ……孤児院、壊してぇんだろ! だったら殺しに来いよ!」


「いい加減、くたばれぇ!」


 口で強がっているがホロアは確実に消耗して弱っている。

 普段なら何のこともないチンピラのスイングを避けられず、腹部に直撃してしまう。


「お、お前ら! あのクソガキをちゃんと抑えろ。頭に一発入れて気絶させっから」


 悶えるホロアを4人の成人男性で抑え込み、鉄棒を持つギャングはゴルフでもするかのようにホロアの頭に標準を合わせる。


「うぅ……は……なせよ」


「散々手こずらせやがって……安心しろ、殺しはダメだから手加減してやるよ」


 男は鉄棒を大きく上げて、狙いを外さないように注意深く振り下ろす。

 鉄棒がホロアの後頭部に当たる直前の瞬間、空は晴天なのに落雷が発生した。


 落下地点はホロアの目前。

 雷は眩い輝きを放って周囲を一瞬照らして、ホロアを抑えるギャングは衝撃で吹き飛ばされる。


 そして閃光の中から現れたのは見知りの少年。


「ホロア、助けに来た」



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Moon Ghosts しおん @Shion1350

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