第12話 悪人と悪魔
「私たちは孤児院で別れてませんし、一週間前のアレも「久しぶりの再会」ではありませんよ」
焦りで大汗をかくホロアと違って、メリアはその薄気味の悪い笑顔を崩さない。そして大袈裟に腕を上げて指パッチンをしてみせた。
孤児院の校舎は「コ」のような形をしており、不審者を確認できるように正門に面する壁はガラス貼りの構造になっている。
そのおかげでホロアは瞬く間に指パッチンの意図を理解できた。
孤児院の正門から武器を携えた大量の傭兵とギャングが侵入してきた。
「あ、アイツらはまさか」
「ええ、私が束ねる組織の子たちです。この一週間、ホロアが邪魔な残党を処理してくれたおかげで散っていた半グレどもをまとめられました」
騒ぎに気づいた職員と理事長たちが一斉に教室から廊下に飛び出てきたが、包囲してるギャングの数に畏れてほとんど者が再び教室に隠れてしまう。
その中で、偶然メリアたちの近くにいた理事長は二人に気づくと腰抜けて倒れてしまう。
「め、めメリア、さん!?」
「お久しぶりです、理事長先生。指、全治して良かったですね」
「指? メリア、お前理事長先生になんかしたんか?」
「……ホロアが孤児院から出たあと、私は必死にあなたの行方を探したのですが……「個人情報」とかいう意味のない概念をほざいて、教師陣は誰も取り合ってくれませんでした。どうしようもないので、理事長を軽く尋問してあげたのです」
理事長はメリアを悪魔の子と大声で罵倒しながら全力で逃げ出した。
その表情は恐怖のせいで歪みきって涙まで浮かべていた。
「尋問って、何をした?」
「拘束して質問しただけですよ。なかなか答えてくれないので、嘘つく度に指を一本折ってあげました。指は神経が集中していたので理事長先生はすぐに話してくれましたね」
目の前にいる親友が悪魔に見える。
痛みを与えることで恐怖を教えるそのやり方、もはや尋問ではなく拷問である。生きていれば拷問を執行しなければいけない場面に出会すかもしれないが、メリアは違う。
彼女は自ら進んで恩義のある人物に拷問を行っていた。
メリアは人間の形をしているだけで、その中身は決して人間と呼べる代物ではない。
「何でそんな酷いことをする? メリアはそんな……そんな極悪な人間じゃなかったでしょ!」
「あなたが孤児院を抜けた翌日から今日まで、毎日監視してましたが……ホロアはいつだって私を見ているようで視てませんよね。私はホロアの思うほどな善良さを持ち合わせてなければ、表で生きていけるほどキレイな人間でもありません。ほしいものがあれば暴力を振るって手に入れます……今みたいにね」
「ほしい、もの?」
「ホロア、あなたですよ。私しか見ない私だけのホロアが欲しいです。だから、今から私以外のしがらみを消しますね」
メリアが外で待機してるギャングたちに指示を出すように親指で教室を軽く指差した。すると、ギャングたちは雄叫びを上げながらゾロゾロと動き出す。
投石、火炎魔術、工事用のゴーレム。
その場にいる悪人は誰もが孤児院とその中にいる者たちを消し炭にしようとした。
「全員そこで止まれッ! 孤児院に手を出すなら私を殺してからにしろ!!」
そして、ただ一人白狼の名を冠した少女がそれを止めようとする。
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