第11話 帰省

 メリアのボディーガードとして勤める最終日。

 今日は今までと違ってなぜか夕方に合流するように指示された。


 ホロアは言われた通り待ち合わせ場所で数分待つと、メリアは人混みを掻き分けて現れた。

 周りに他の部下も後輩も居なく、メリアはたった一人で来たらしい。


「お待たせしました! どうですか、私の格好?」


 そう言いながらメリアは小悪魔のような笑みを浮かべて、ホロアの両手を優しく握る。

 過去一週間は毎度ビジネス用にスーツを着込んでいたが、今日のメリアはデートでもするかのような可愛らしい格好に着替えている。

 紅潮した頬と瑞々しい唇、まっすぐ見つめてくる可愛らしいつり目。同性のホロアですら思わずにときめいてしまった。


「すげぇ似合ってて可愛いと思うよ! てか、そのカッコーどうしたの? 他の部下は?」


「他の方は先に現場へ向かってもらいました……少し、時間に余裕あります。私とデートしませんか? ホロア」


「別にいいけど……デートってさ、好きな人とするもんじゃねぇの?」


「ホロアは私のこと、好きですよね。私も好きです。ほら、好き同士で何の問題もありませんよ」


「まぁ〜 そうだな。私もメリアに話したかったことがあるから丁度いいや」


 親友に手を引かれたままホロアは歩き出す。

 人の話し声が飛び交う第六区の繁華街。数々の商社が放つ明かりは街道を照らして、夕方であろうと昼間と変わらない明るさを持つ。


 一方で、光が眩しいほど影は濃くなる。

 活気に満ちて整備された大通りから一歩外れた裏通り、そこには脱法魔術や改造パワーギアを扱う店で溢れている。


「懐かしいですね、ホロア」


「あぁ……メリア、なんのつもり?」


 二人ともこの裏通りをよく知っている。

 そして、裏通りの終着点もよく知っている。


「ヨルム……孤児院」


「ええ。懐かしい気持ちになったから見に来たかったです……さぁホロア、入りましょう」


 ホロアにとってヨルム孤児院は実家のような存在なのだが、それと同時に彼女の自由を縛る場所でもあった。


「い、いや……メリアだけで行って来なよ。私はいいや」


「一緒に来てください。業務命令ですよ」


 強制連行に近い形だが、ホロア数年ぶりに生まれ育った孤児院に足を踏み入れた。正門から入る二人を見かけた受付の警備担当は声を掛けてきた。


「すみません! お嬢さんたち、ヨルム孤児院にどういったご用件で?」


「見学、していきますね」


 友好的な会話を交わした次の瞬間、メリアはポケットから小さな金属機器を取り出して警備担当を撃ち殺して見せた。

 ホロアが驚いている隙にメリアはその血塗れの金属機器を見せてあげた。


「最近、大砲を個人単位までに小型化した武器が開発されたんですよね。コレ、組織で横流ししてもらったのですが、「ピストル」という名前らしいですよ……小型の魔物と人間を簡単にかつ効率よくヤレますよ」


「……は?」


「好きですよね、殺し。お揃いのピストルあげますね」


「そんなのいらねぇし、どうでもいい! それよりなんで警備員のおっさんを殺した!?」


「デート中なのに私の贈り物を拒むのですか?」


「何言ってんだ? 自分のしたことわかってんの? これは殺人なんだよ、メリアは私みたいなどうしようもないクズとは違って真っ当な人間だろ、こんな犯罪に手を染めてどうすんの!?」


 ホロアの怒号に構わず、メリアは孤児たちのいる校舎に入っていく。

 メリアはピストルとかいう危険な武器を携えたまま、そんな彼女を放っておけるはずがない。ホロアも共に校舎に入ってメリアの肩を掴んで止める。


「何のつもりメリア? ボディーガードの仕事はどうしたの!? ここは私たちの実家で故郷なんだよ!」


「フッ……故郷だから、稼いだ給料を寄付してるんですもんね。コードネーム・白狼ウルフさん」


「え……なんでそれを?」


「窃盗団ムーンゴースツでウルフとしての活動、楽しかったですか?」


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