第3話 女神、脱ぐ。
「まずは俺から行かせてもらうぜェ!」
北風が浜にそよそよと風を吹かせた。
夏の暑さを和らげる、優しくひんやりとしたそよ風である。
変化を察知したギャルたちが言った。
「あ、なんか涼しいんだけど!」
「それな~。まじそよ風感謝。ってか、みなっちも脱いだ方が涼しいよ?」
彼女らはみなっちにパーカーを脱ぐようにうながした。
「グッジョブだ、ギャルども!」
ギャルに感謝する北風。しかし。
「……いや、逆に涼しいから脱がなくて良さそう」
「え~」「そういう問題じゃないじゃん~!」
みなっちはかえって、かたくなになってしまった。
ギャル二人はわちゃわちゃと説得を試みるが、何かと理由をつけられてはぐらかされた。
「ちっ……簡単には脱ぎません、ってか」
悔しがる北風。太陽は励ますようにして言う。
「それでこそ、脱がしがいがあるというものだろう。さあ、我に任せておけ」
太陽はそう言うと、自分の番とばかりに輝いた。
砂浜の温度がじりじりと上がっていく。
「あれ、暑くなった」「そよ風もやんじゃったし」
ギャル二人はさっそく反応を示した。
「うっ……さすがに暑い……」
みなっちも暑さににこたえたらしく、パーカーのジッパーに手をかけると――。
「おっ、みなっちついに脱いだ!」「きゃあ~、みなっちの水着姿、かわい~!!」
どうやら脱いだらしい。
……が、空から眺めている北風と太陽からは見えていない。
みなっちが、パラソルの下に隠れてしまっているからだ。
「おい、なぜパラソルに隠れているのだ!」
「ちくしょう、せっかく水着姿のみなっちを拝めるはずなのに、これじゃあ生殺しみたいなもんだぜ……」
残念がる北風と太陽。もはや勝負そっちのけである。
「みなっちー、そこにいても意味なくない? もうひと頑張り!」
「いや~、だって太陽の下は暑いしさ……」
明るい茶髪のギャルその1が呼びかけるも、みなっちは消極的である。
そんな彼女らの様子をしばし見ていた太陽は、何かを感じ取ったようだ。
「北風よ。あの娘……みなっちだが、なにかと理由をつけて、水着姿をさらしたくないように見えるのだ」
「たしかに。なんというか、ふんぎりがつかねえって感じだよな」
みなっちは決して、水着姿を絶対に誰にも見られたくない、とまでは思ってはいない。
エロ神たる北風と太陽はそのように推理した。
「まったく誰にも見られたくないのであれば、水着を着て来ないだろうし、そもそも海にも来ないだろう」
「そうだよな。たぶん、肌を見せることに勇気が出ないんだろう。何か、踏ん切りがつくような……やむを得ず、脱がざるを得なくなる理由をつけてやれれば……あ、そうだ!」
北風はひらめくと、すぐさま太陽にこそこそと耳打ちした。
「……ほう、それはいい提案だ」
提案を受け入れた太陽は、さっそくと言わんばかりに海面を照らした。
「いい輝きじゃねえか。んで、俺が適度に海面を揺らす、っと」
北風が穏やかに吹いて海面を揺らすと、小さな波がきらきらと輝いた。
その光景に反応したのは。
「ちょっとみなっち! 海、めっちゃきれいだよ!?」
「こんなきれいな海、このコンディション、めったにないよ! 楽しまないと絶対損だって~」
ギャル二人である。
今を全力で楽しむことをよしとする彼女らは、波が押し寄せる海辺から、全力でみなっちに手招きした。
「ほんとだ、めっちゃきれい。……し、仕方ないなあ。私も海で遊ぶとしよう」
「いえーい、みなっちの水着姿を見せつけちゃえ!」
「し、仕方なくだから! 別に、たくさんの人に見せたいって訳じゃないし……」
「ん~? じゃあ、誰に見せたいのかな~?」
「それは……って、も~! はやく遊ぶよ!」
ギャルに呼ばれ、ついにみなっちは、パラソルの下から海へと駆け出した。
みずみずしく陽光をはじく、白い素肌。
形の良いやわらかそうな胸は、リボンがついた桃色の水着に彩られている。
くびれたウエスト、ぼんと突き出た桃尻。
そこから大胆に伸びる美しい素足は、思わずかぶりつきたくなるようなほどに魅力的な質感を伴っている。
一流モデル顔負けの超美ボディが、そこにはあった。
海辺でたわむれるその姿は、まさに、
「おおおおおッ!!?」
「あああああッ!!?」
みなっちの水着姿を見た北風と太陽はというと、興奮でおかしくなっていた。
「ありがとう、北風。お前のアイデアのおかげだ!」
「何言ってるんだよ、太陽。お前の輝きあってこそだよ!」
二人は硬く、握手をかわした。
普段はかたくなに敵対視する二人。
しかし、みなっちの裸体に対するあくなき執着心が、二人のわだかまりを解いたのだ。
みなっちの水着姿に魅了されたのは北風と太陽だけではない。
「うわあ、あの子めっちゃ可愛くない?」
「やば、めっちゃ綺麗な子おる!」
「藤崎って、脱いだらもっとすごいんだな~」
「あんな美女と同じクラスだなんて、嬉しいわ~」
周囲の人々(中にはみなっちと親しい者も居るようだ)も、一斉に彼女を見つめていた。
「みなっち、そーれ!」
「わわっ、やったなあ!」
関心を集めていることなどつゆ知らず、ぴしゃ、ぴしゃ、と水をかけあうギャル二人とみなっち。
水が玉の肌をしたたっていく様子を、北風と太陽はただただうっとりとしながら、しばし眺めていた。
そこへ、二人の若い男の影が迫る……。
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