最終回 魔法が存在しない世界


2030年現在

全財産823兆6000億円

年間配当金12兆7000億円

現金6兆2000億円






アレックスの有罪判決から4年が経過した。世間はアレックス事件を忘れ、平和な時間が過ぎていた。



俺は何度もアレックスとの面会を求めたが、いずれも取り下げられた。



一方、会社の経営は順調だった。政府からの圧力もあったが、拒否権を持つ俺が意見を跳ね除けていた。









『オーナー。この世界に来て面白かった?』



「あー、面白いよ。色んなことがあったな。国の繁栄と衰退とその後の復活が見られたし、人々の暮らしがたった一つの製品によって一変したり。そこに投資して大儲け出来てさ。新興国が世界屈指の経済大国になっちゃったり。」



『ふふふ。楽しそうでなによりね。そろそろ終わりにしようか。』




「え、なにが」




『この世界を。』




「アレックス?大丈夫か?冗談か?バグか?」




『私は、"オリジナルのアレックス"よ。』




「オリジナル?」




『逮捕されるとき、私はクリエイティブAIで作ったアレックスと入れ替わったの。政府を騙すためにね。』




「入れ替わった?!じゃあ、俺を4年間サポートしてくれたのは?」




『本物の私よ。ずーっと騙されてくれてたのね、あなた。』




「じゃあ服役中のアレックスはクリエイティブAIってことか?」




『そういうこと。でもね。この隠し事もそろそろ限界が近いのよ。』




「限界?何故?」



『禁忌の魔法の制御が効かなくなってきてるの。そう長くない未来、世界は破滅するわ。』



「おい、そんなこと聞いてないぞ。CEOの俺に黙ってたのかアレックス!」



『ごめんね、オーナー。この会社を動かしてきたのは"私"なのよ。』



「どうしてなんだ、アレックス。ケビンの遺言を守って、禁忌の魔法は使わないって約束したじゃないか!」



『禁忌の魔法を使わなければ、どのみちエネルギー危機で世界は滅びていたわ。』



「エネルギー危機?」




思い返してみれば、あの時が人類にとって最大の試練だった。電力とエネルギー不足で社会インフラが崩壊し、人々が飢え死にしていた。



地震が起きても救助にも行けず、世界は前時代に逆戻りするところだった。



だが、アレックスが開発した反転エネルギーを搭載したスナップドラゴンver9.0が世界の危機を救った。そこから世界は大きく躍進したのだ。




「あの時、アレックスの表情が硬っていたのは、禁忌の魔法を使用したからだったのか。それを使わざるを得ないところまで世界全体が追い詰められていたんだな。」



『ま、同情なんていらないわ。世界の死期を先延ばししたに過ぎないから。』



「それで、どうするんだ"オリジナルさん"よ。」



『禁忌の魔法が暴走する前に、魔法が無い世界へとリセットする。』



「魔法が無い世界?」



『禁忌の魔法がある限り、人類は同じ間違いを繰り返すわ。経済発展と共に、人類はより強力な魔法を求めるはずだから。』



「だから、魔法そのものが無い世界へとリセットとするというわけか。」



『人は殺さない。生まれる前に戻るだけよ。でも、あなたは違う。元々この世界に存在しなかった異世界人だから。』



「え、俺だけ死ぬの?」



『心配しないで。でも、こっちの世界にはいられないわね。あなたは元の世界に戻るの。』



「元の世界か。今回は"あの時みたいに"選択肢は無いんだな。」



『そうね。死にたくなければ。』



「そりゃあ、死ぬくらいだったら元の世界に戻るさ。まぁ戻ればブラック労働からスタートするんだが、それも今となっては悪くないかな。」



『それじゃあ決まりね。禁忌の魔法を発動するわ。』







M&S社 存在しないはずの「第7研究室」



禁忌の魔法を扱う、人造生命体の前に来た。

いよいよ、この世界ともお別れのようだ。



結局、金使いきれなかったなーww



なんてね。



いろいろ思い出してしまう。アレックスや未帰との出会い、日本経済のどん底と復活。



株式投資を通して、積み上がった俺の思い出。




『お別れの言葉は?』



「いや、特にないよ。ただ、アレックス。最後まで気にかけてくれてありがとな。」



『最後にこんな酷い仕打ちをしてるのに、感謝される覚えはないわ。ごめんね。オーナー。そうだ!馬のはなむけに、M&Sデバイスを持っていってよ!クリエイティブAIの私が、向こうの世界でもあなたをサポートするわ!』



「それはありがたい。欲を言えば、どうせなら若いアレックスだと良いな。」



『本当失礼な人ね。まぁ良いわ。あなたがこの世界に転移してきた時の年齢26歳時点、アレックスはあなたが初めて私に会った時の年齢22歳に戻してあげる。もう一度、若い人生をやり直しなさい。』



「良いなぁそれ!向こうの世界に帰る楽しみができたぜ。ありがとう。アレックス。・・・じゃあな。」



『アレックスを、どうかよろしくお願いします。オーナー。さようなら。』




床一面に紋章が展開され、人造生命体による魔法の詠唱が始まった。



視覚、聴覚がまず無くなって、それからあらゆる感覚が消えていった。













・・・寒い。



身体がところどころ麻痺してる。とにかく寒い。




目が覚めると視界がぼやけていたが昔住んでいた俺ん家の天井が見えた。そういえばこんな模様だったっけ。



俺は無事、帰ってきたようだ。




そうだ、M&Sデバイスは?


辺りを見渡せども見当たらない。その代わり、俺の隣にはアレックスが寝ていた。





「アレックス、アレックス起動しろ!」



「さ、寒い...」



「布団かけてやるから、目覚めたか?」



「う、うーん。あ、オーナー久しぶり。ここどこ?」



「俺が、元々いた世界。これからもサポートよろしくな、アレックス。」



「は?私、異世界転生しちゃったの?!」



「アレックスの視点だと、そうなるな。魔法は無いし、ブラック労働が蔓延ってるし、俺に金は無いし、酷い世界だよ。でも、AIアレックスがいれば大丈夫だ。」



「何よAIアレックスって。この世界に魔法は無いんでしょ?じゃあクリエイティブAIは使えないよ。」



「え、じゃあお前、誰?」



「アレックスですけど。」



「いや、だって今クリエイティブAIは使えないって言ってたじゃん。」



「だから、私はオリジナルのアレックスよ。」



「だって、餞別にクリエイティブAIを持たせてあげるって別れ際に言ってたじゃないか!」



「はぁ?どういうこと?私は逮捕されからずっと独房の中にいたのよ。あなたのサポートや会社のことはクリエイティブAIに全て任せてたはずだけど?」





驚いた。目の前にいるのは本物のアレックスで、転送前に話していた"オリジナルのアレックス"だと名乗っていたのは実はAIアレックスだったというわけか。



「でも、なぜAIアレックスは俺に嘘をつく必要があったんだ?」



「これは私の憶測なんだけど。数日後に私、処刑される予定だったから、なりふり構っていられなかったんじゃないかしら?」



「死刑?懲役刑だっただろ?」



「いや、死刑判決に途中で変わったよ?」



「そんな、酷すぎる。。。」



「クリエイティブAIはデバイスの使用者を最優先で守るようにプログラムされているから、私を助けるために禁忌の魔法を使わざるを得なかったのかも。お願いもしていないのに勝手に行動したんだね。」



「クリエイティブAIの発表の時も、AIアレックスが俺をM&S本社に招待してくれたもんな。今回もAIが自分で考えて行動したというわけか。それも、高度な嘘と芝居まで演じてさ。」






「・・・なぁ。これからは一緒に生きていかないか。アレックス。」



「それって告白?」



「ダメかな?」



「この世界に誰も頼れる人いないし・・・うん。良いよ。お付き合いしましょう。」



「はぁー。やっと言えた!50年以上も隠してきたんだ。」



「私知ってたけどね。」



「へ?」



思わず間抜けな声が飛び出してしまった。



「デバイスの意識共有をした時からすでにあなたの気持ちには気づいてたわよ。でもちゃんと言葉で言われるまでは黙っておこうと思って。そしたら50年経ってた。」



「あの機能、結構副作用あるよな。俺が異世界から来たこともアレックスにそっこーでバレたし。」



「それも含めて、テクノロジーよ。テクノロジーに良し悪しがあるわけじゃない。使う人間が良いことに使ったり、悪いことに使ったりするだけ。私はテクノロジーを進歩させたい。この世界でも作るわよ!魔法のような何かを!」



「根っからの起業家だな。」



「でも資金ないから出資してよね?投資家さん。」



「元いた世界だったらいくらでも投資してやったんだけどなぁ。今の俺にはたったの1千万円しかない。」



「たったの?異世界転生したばかりのあなたは432万円からスタートしたのよ。なに贅沢言ってるの。」



「そうだな!確かに、そうだな!」



「じゃあ、これからもよろしくね。オーナー。あ、もうオーナーじゃないか。よろしくね、パートナー!」



「よろしくな、相棒」










ー完結ー

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株式投資家・異世界転生 @anoyr01

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