第五話「おばあちゃんっ子」


 冷たい風が海岸に座っている私の頬を撫でました。


 昼間の陽の光に照らされ、水面はキラキラと輝いています。

 私は冬の寂れた空気の中長い長いため息を吐きました。同時に……


  ぐぅううぅうぅ


 私のお腹がため息に重なるように大きくなります。

 思い返せばこの海にたどり着くまで思いの外距離がありました。マントで長距離飛行するだけでは足りず、途中から歩いていたので私はもうヘトヘトです。もう歩けそうにありません。


 しかし私はお腹を満たすためにも、とりあえず托卵の家族の家にお邪魔して昼ごはんを食べさせてもらわないといけません。私は重たい腰を上げ、後ろを振り返ります。


「……。」私は目の前に広がる景色を見て固まりました。


 そこには家はおろか建物一つありません。私の目前に広がるのは葉が全て落ちきった木々ばかり。

 困りましたね。これでは人が住む場所へとまたしても歩かなければなりません。せめて空腹を満たしたいところですが、それも叶いそうにありませんね。


 私はとぼとぼと海岸沿いを歩いていると、私の前方30メートルほど先から何やら美味しそうな香りが漂ってきました。私はその香りに引き寄せられるように歩きます。


 『からあげ』


 そこには一つだけポツリと建っているからあげの屋台がありました。私はまるで宝石のように輝いている美味しそうなからあげとご対面。私はジュルリとよだれを垂らしました。


「おいお嬢ちゃん。欲しけりゃ買いな。」


 屋台のおじさんは怪訝そうに私のことを睨んでいました。買わない奴には用は無い、そう言わんばかりの雰囲気です。


 買いたいのは山々なんですけど、私は今一円も持ち合わせていません。というのもつい最近、とある人物に不服にも奢らされる羽目になったので、そのときに私はお金を全て溶かしてしまいました。

 本当に困りました。ここにいると余計にお腹が空くばかりです。


「買わないんだったらさっさと帰んな。しっし」


 落ち込む私にとどめを刺す非情な屋台のおじさん。私は涙をぐっとこらえながら、泣く泣くその場から去ろうとした、その時です。


「うわぁー美味しそー♡見ておばあちゃん。」

「あらー美味しそうねー。」

 

 悔しがる私の隣に、肥えた女の子とおばあちゃんがやって来ました。


「ねぇおばあちゃん買ってー♡」


「もちろん良いわよ。すみません、からあげ10個ください。」10個!?


「まいどありー♪」


 屋台のおじさんは急にごきげんになって、とびっきりの営業スマイルを見せながら女の子にからあげ10個を手渡します。

 女の子はそのからあげをまるで飲み物かのように口に流し込みました。


「うーん美味しー♡」


「良かったわねペリー。」


「うん!ありがとうおばあちゃん。」


 私は美味しそうにからあげを頬張る彼女の姿を羨ましそうに見つめました。そして次に視線をそらすと、今度は屋台のおじさんと目が合いました。

 するとおじさんは急に真顔になって「帰れ」とだけ言いました。


 悔しいです。私もあのおばあちゃんの孫だったら同じようにおねだりをしていたのに……


「……。」


 ……そうか、そうですよ。


 私にはコレがありました。私はおのずと懐から托卵の帽子を取り出し、そして被りました。


 そして私はもう一度、おじさんのとびっきりの営業スマイルを拝ませてもらうのでした。



   ○


 彼女のおばあちゃんはとても優しく、私が托卵の家族になった後も自分の孫であるペリーさんがほしがっているのを何度も買ってあげていました。

 彼女はそんなおばあちゃんの優しさに甘えて、何度も何度もわがままばかり言っていました。


 彼女はおばあちゃんに対する甘え方を完全にマスターしているようです。その証拠におばあちゃんは彼女の要求を嫌な顔ひとつせず笑顔で応えていました。


 あんなにわがままばかり言われたら少しばかりは嫌な気分になると思うですが、おばあちゃんは一瞬たりとも嫌そうにしません。むしろとても幸せそうです。きっと孫の喜ぶ顔を見れるのが嬉しいのでしょうね。


 彼女のおばあちゃんは誰もが羨むぐらい、とても良いおばあちゃんです。


 私のおばあちゃんも同じくらい優しかったら好きになったのかもしれませんね……。



___私のおばあちゃんはとても厳格で短気な人でした。


 おばあちゃんは私のやることなすこと全てにケチを付けてきました。私がテレビを見ていたら、目が悪くなるから観るなとリモコンを取り上げられたり。近くの図書館に自転車で行こうとしたら、危ないから歩いていけと怒鳴られたり。一番酷いと思ったのは私の夢を全否定された時でした。



「お母さん、私漫画家になりたいな。」


「あら、良いじゃない。」


「見て!これ私が描いた漫画。なかなか上手く描けてるでしょ。」


「うんうん。とっても上手。これなら漫画家も夢じゃないかもね〜」


 大きくなって子供の頃の漫画を見返すととても下手くそで目を覆いたくなりました。同時にあの時のお母さんは私にお世辞を言っていたんだと思って少し恥ずかしくなりました。しかし、あの時の私にはたとえお世辞でもとても褒められたことが嬉しかったです。しかし……


「何?この下手くそな漫画は。こんなので漫画家になりたいだなんて何の冗談なの?」


 おばあちゃんは私の漫画をくだらないと言ってけなしてきました。そしておばあちゃんは私の夢を馬鹿にし「諦めろ」と言って吐き捨てました。

 その時私は幼いながらに激しい怒りを覚えました。

 

 それから私は、おばあちゃんのことが大嫌いになりました。



 口が悪くて、頑固で、ひねくれてて、冷たくて、おばあちゃんは私だけではなく近所の人からも嫌われていました。

 そんなおばあちゃんは私が小学生のある日、突然亡くなりました。私は最期までおばあちゃんのことを好きになれませんでした。



 私はペリーさんのことがとても羨ましいです。私のおばあちゃんは厳しすぎて甘えることなんて出来やしませんでしたし、こんなに優しいおばあちゃんがこの世にいるなんて私は初めて知りました。

 彼女のおばあちゃんは私のおばあちゃんと比べ物にならないくらい優しいです。


 今、私は彼女と同じおばあちゃんの孫という状態。少しぐらい、甘えさせてもらっても構いません……よね?


 まあ托卵の家族は帽子の魔力が切れれば私が家族であった記憶をすべて忘れてしまいますし、甘えても問題ありませんでしょう。私には知ったこっちゃありません。



 私は彼女たちと共に商店街を歩き回った後、おばあちゃんの車で家に帰ることになりました。


 結局甘え慣れていない私はペリーさんのように上手に甘えることが出来ず、なにもおねだりすることが出来ませんでした。私は少しの後悔を感じながら窓の外を眺めていました。雨がポツポツと振り始めています。空には真っ黒な雲が広がり、これは土砂降りになりそうな予感です。


 ボリボリ


 私の隣からペリーさんがおかしを食べる音が聞こえてきます。私はあれからからあげしか食べておらず、少しお腹が空いていました。少し羨ましそうに私は彼女のことを横目に見ます。


「ん?あ、もしかして食べたい?」


「え、あ、まあ……」


「はいコレ、あげる」


 ペリーさんは食べかけの煎餅をくれました。


「ど、どうも。」


「あら、ペリーは優しいわね。私の分のお菓子もあげる。」


「わーいありがとー」


 ペリーさんはおばあちゃんから、私が貰った量の倍以上のお菓子を受け取りました。


「あ、おばあちゃん。あれ!」


「あら、こんなところにケーキ屋さん。新しくオープンしたのかしら?」


「おばあちゃん!ケーキ買ってよケーキ!」


「良いわよ。ちょっと待っててね。」


「やったー!」


 おばあちゃんは車を停めて、ケーキを買いに行きます。


「今日誕生日なんですか?」


「え?ううん。私の誕生日はずっと先だよ。」


「えぇ……。」

 

 特別な日でもないのにケーキを買ってもらうんですか?ケーキは特別な日に食べるから良いのではないんですか?私は少し困惑していました。


「買ってきたよ〜」


「やったーケーキ♪ケーキ♪」


「……。」


 私は最初はとても優しいおばあちゃんで羨ましいなと思っていましたが、今は少し違ったことを思い始めていました。


 彼女のおばあちゃんは、少し彼女のことを甘やかし過ぎだと思います。甘やかすことが決して悪いことだとは思いませんけど、甘やかしすぎるとあんまり良くない気がします。

 まあ、私の知ったこっちゃありませんけど。


 私達はさっきの海岸を通り過ぎ、山の奥へと続く道へと入っていきました。



   ○


 おばあちゃんの家は山の中にある一軒家でした。

 周りには他に家はなく、こじんまりとしています。


 もうすっかり日は落ちて、家に入った頃にはもうすっかり暗くなっていました。おばあちゃんは私達のためにストーブを点けてくれました。玄関の中央に鎮座する灯油ストーブに手を伸ばしながら、私とペリーさんは温まりました。ストーブの上には金色のやかんが置いてありました。


「2人共、みかんでも食べるかい?」


 おばあちゃんがみかんを持ってきてくれました。彼女は本当に細かいところまで気を利かせてくれるのでとてもありがたいです。甘やかし過ぎでは良くないとは思いましたけど、まあ厳しいよりはマシですよね……。


 私は手渡されたみかんの皮を剥きます。


『アンタもククースにもっと厳しくしなさい。』


『私はアンタのために厳しくしてるのよ。』


「……」


「……ねえ、く―。」


「……え、あ、はい?」


 みかんの皮を剥く途中でボーっとしていた私にペリーさんは声をかけていました。ペリーさんはみかんをバクバクと食べながらこちらを見ていました。


「何ですか?」


「いや〜やっぱりおばあちゃんの家に来て良かったよね。ねえ、今日泊まらせてもらおうよ。」


「私は別に良いですけど。」当然そのつもりですし。


「よっしゃ。じゃあおばあちゃんにそう言ってくるね〜。」


 ペリーさんはスキップをしながらおばあちゃんのいる台所へと行きました。古い家なのでペリーさんが飛ぶために家がギシギシと悲鳴をあげました。


 そしてしばらくすると、うきうきのペリーさんとたくさんのお菓子を抱えたおばあちゃんがやって来ました。


「くー。アンタも泊まるんだね。ばあちゃん嬉しいよ。」


「ど、どうも。」


「ありがとうおばあちゃん。」


「良いんだよ。私も久しぶりに孫と一緒に過ごせるなんて幸せだよ。これ、ペリーが好きなお菓子。好きなだけお食べ。」


「わーい!おばあちゃん大好き♡」


 ペリーさんはおばあちゃんに抱きつきました。そしてお菓子を受け取りバクバクと食べ始めました。

 私はとてもご飯前だからお菓子を食べない方が良いといえる雰囲気じゃないので黙っていました。


 どおりでペリーさんは肥えた体型をしているわけです。子供の頃からこんなにお菓子ばかり食べていたら、虫歯や肥満になるし健康にもよくありません。おばあちゃんはそこらへん分かってらっしゃるのでしょうか?


 まあ私の知ったこっちゃありませんけど。


 私は再びストーブの前に戻り、みかんを一口食べました。

 しばらくペリーさんがお菓子を食べる姿を眺めながらのんびり待っていると、晩御飯の時間になりました。私達はおばあちゃんに呼ばれ食卓へと向かうのでした。




 そこには衝撃の光景が広がっていました。


 机の上には高カロリーな食べ物がたくさん並んでいました。からあげに豚カツにミートボールにハンバーグ……どれもこれも茶色い食べ物ばかりです。

 コレを食べた次の日のは血糖値がとんでもないことになりそうです。


「うわぁー♡美味しそー♡」


「今日はペリーが大好きなものを沢山作ったからね。どんどんお食べ。」


「わーーい!!」


 ペリーさんはどしんという音を立て、ざぶとんへと座りました。


「はい。ペリーの大好きなマヨネーズ。」


「ありがとー♡やっぱりこれだよね〜」


「えっ……えーっ!?」


 私は驚きのあまり声が出ました。ペリーさんは元の食べ物は何なのかわからないぐらいたっぷりとマヨネーズをかけています。そしてもはやマヨネーズの塊と化したからあげを箸でつかみ、美味しそうに頬張りました。


「美味しい〜〜〜♡」


「ちょ、ちょっとかけすぎでは!?」


「良いのよ。こんな贅沢おばあちゃんの家でした出来ないんだから。」 


「うふふ、そうよ。こんな贅沢なことおばあちゃん家でしかできないわ。だからいつでも遊びに来て良いんだからね。いつでも待ってるから。」


「うん!もちろんだよおばあちゃん。」


 私は再びからあげを見ます。そこにはやはりマヨネーズの塊がありました。


 うちの家はとても健康志向で、お母さんが毎日栄養バランスの良い食事を作ってくれていました。なのでこんなに高カロリーで健康に悪そうな食べ物が並んでいるのを前にするのは生まれてはじめてです。

 お腹は空いていましたが、私はどうしても目の前の料理を食べる気にはなれませんでした。


「どうしたのくー。食べなよ。」


「いや、ちょっと……」


「もったいないよ。ホラ、口開けて。」


「やめ……むぐぅ」


 私は必死に抵抗しましたが、その抵抗も虚しく私の口に大量のマヨネーズの塊と化したからあげが押し込まれました。


 口内に脂っこいマヨネーズの風味が広がります。今まで味わったことのない濃厚すぎる味に、私の体が拒絶反応を示します。


「うぐっ……うぅぅ……」

 

 私は涙目になりながらもがきました。しかし私よりガタイの良いペリーさんはそんな私を強引に押さえ、からあげを喉の奥へと押し込みました。


 私は苦しみながらやっとの思いでからあげを飲み込みました。


「おえぇぇ」


「はい。しっかり好き嫌いせず食べないとダメだよ。」


「まあ。食べさせてあげるなんて、ペリーはやっぱり良い子ね〜。」


 私は麦茶を口の中へ流し込んで、今にも胃に到達しようとしているからあげを薄めようとしました。体中にとてつもない倦怠感を感じます。まるで体が私になにかを警告しているかのようです。


 私は今にも吐きそうになりました。


「ほら、もっと食べて!」


「も、もうやめてくださ……うぅ」


 ペリーさんは再びからあげを私の口の中へ押し込もうとします。私はくちびるを使って必死に抗いました。嫌と訴えようとも思いましたが、嫌というのは口を開けなければならないのでそれも叶いません。


 私の抵抗も虚しく、今にも2つ目のからあげが口の中へ押し込まれそうになったその時です。


  バンっ!!


 何者かが食卓の引き戸を勢いよく開けました。


「やっぱり!あんた達ココにいたのね!!」


「ゲッ……お母さん。」


 食卓にもの凄い剣幕で現れたのは、ペリーのお母さんでした。


「ちょっと…何よコレ!!母さん!いつも言ってるでしょ!子供たちを甘やかしすぎないでって。何よこの料理……。こんなの子供に食べさせたら健康に悪いって分からないの?!」


「でも私は孫たちの喜ぶ顔が見たくって……」


「そんなの勝手なエゴでしかないって何度言ったら分かんのよ!!母さんが甘やかしすぎたせいで、ペリーがこんなにデブになったのよ!どう責任取ってくれるのよ!ねえ!!!」


「やめてよお母さん。おばあちゃんは悪くないよ……」


「アンタは黙ってなさい!!!」


 お母さんは若干ヒステリックになりながらおばあちゃんに詰め寄ります。おばあちゃんは「孫のために」と言い続けていましたが、その言葉は彼女に届くことはありません。


「私は私なりに子育てを頑張ってるのに……母さんは邪魔ばっかり!!何のためにアンタを実家に追い返したのか分かってんの?!アンタはペリーにとって害なのよ!!もう二度とペリーに近付かないで!!」


「うぅ……うぅぅ」


 おばあちゃんは泣き出してしまいました。


 お母さんはそんな彼女のことをお構いなしに、ペリーさんと私の手を引いて強引に連れ帰ろうとします。


「うわぁぁあん。おばあちゃん!!」


「ペリー!返して!ペリーは私の孫よ!!」


 土砂降りの雨の中、おばあちゃんは泥だらけになりながらお母さんの足にしがみつきます。しかしお母さんはそんな彼女のことを振り払い、私達を車に乗せて走り出しました。

 バックミラーには水たまりの中でこちらに手を伸ばすおばあちゃんの姿が映っていました。


 おばあちゃんは一人ぼっちで山の奥にある一軒家に残されました。


 孫の喜ぶ顔を想像しながら作った、豪華な料理もそのままに……



   ○


「もしもし、アナタ。やっぱりアイツの家に行ってた。…うん。うん。大丈夫。今連れて帰ってるから。…分かった。じゃあ、また後で。」


 帰り道は相変わらずの大雨でした。母はスピードを出しながら雨の夜道を車で走ります。私の隣ではペリーさんが泣きじゃくっていました。一方の私はどうやってこの状況から脱しようか考えていました。

 このままだと何の関係のない私まで叱られてしまう羽目になってしまいます。


「アンタ達、帰ったらお仕置きだからね。」


 鏡越しに向けられた鋭い視線に、私は戦慄しました。さっきまで泣きじゃくっていたペリーさんが母と目があった瞬間怖気づいているのを見て、私はこの状況のヤバさを節々に感じます。彼女のお母さんは怒るときっと、鬼のように怖いのでしょう。マズいですね、コレは。


 私は托卵の帽子をそっと脱ぎます。


 知らない人が車に乗っているのを見られたら、きっと私は車の外へ放り出されるでしょう。もう背に腹は変えられません。この状況から脱することが出来るなら、多少濡れても仕方がありません。


 そして帽子を脱いで一時間後、私は計画通り土砂降りの中放り出されるのでした。





 道路に等間隔に並ぶライトをたよりに、私は大雨の中をひたすら歩きます。


 右手には崖と海が広がっています。私は落ちないように極力左側へ寄ります。振り続ける雨はまるで慟哭かのようにどんどん勢いを増して降り注ぎました。



 私は、昔お母さんとおばあちゃんが話していたとある会話を思い出していました。



「お母さん、あんまりククースに厳しくしすぎないで。」


「いーや。私はアンタのために厳しくしてるのよ、カナコ。」


「私のために?」


「アンタは優しすぎるから、ククースが危ないことをしようとしても厳しく叱らないじゃない?それじゃあククースに万が一のことがあった時、きっと後悔することになるわよ。」


「……そう、だね。」


「アンタもククースにもっと厳しくしなさい。ククースはカナコの子供なんだから。優しくすることだけが、本当に良い子育てとは言えないわよ。」  


「……うん。」



 私はこの会話を聞いた当時は余計なお世話だと思っていました。

 しかし今思うとおばあちゃんのこの言葉は、自分の娘であるお母さんとその娘である私のための言葉だったことに気付きます。


 おばあちゃんは甘やかすことが良い子育てではないことを当時のお母さんに教えてあげていたのです。


 適度な厳しさが、子供の成長には必要。

 おばあちゃんは理不尽に叱ってばかりではなく、ちゃんと私とお母さんのことを思ってくれていたのだと、私は今頃になって気付きました。


 雨の中、私は立ち止まり天を仰ぎ見ます。

 雨は未だにザーザーと降り注いでいます。


 お母さんはおばあちゃんが亡くなった時、誰よりも泣いていました。涙を一滴も流せなかった私とお父さんはそんなお母さんのことを遠目に見ていました。


 お母さんはおばあちゃんのことが大好きだったのです。

 それはおばあちゃんがお母さんの大切な母親だったから。私がお母さんのことを大好きだったのと同じように、お母さんも優しいお母さんのことが大好きだったのです。


「……何で、好きになってあげられなかったのかな。」


 私の頬を雨か涙か分からない液体がつたいます。それから私は後悔と深い悲しみに浸りました。

 そして雨が止み、私の頬をつたう液体が涙だと気付きます。雲と雲の間から、明るい月明かりが差し込んでいました。

 

 おばあちゃんは本当は私のことを思ってくれていました。なのに私はそんなおばあちゃんのことを大嫌いだと思い、最期まで好きになってあげられませんでした。もし私がもっと早い段階でこのことに気付いていれば、もしかすると私はおばあちゃんのことを好きになってあげれたのかもしれません。


 私はいつも自分の家族のことを嫌ってばかりです。


 一体何がいけなかったのでしょうね?


 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

托卵の旅々〜家出少女ククースの旅物語〜 ash*ash @ashashireina

作家にギフトを贈る

カクヨムサポーターズパスポートに登録すると、作家にギフトを贈れるようになります。

ギフトを贈って最初のサポーターになりませんか?

ギフトを贈ると限定コンテンツを閲覧できます。作家の創作活動を支援しましょう。

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ