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強大な力を持つ主が倒され、魔物どもには戦意などもはや無かった。ほとんどの魔物は逃げ去り、僅かに残った物は君を見ると震えて逃げてゆく。
邪魔も抵抗も受けず、君は王の待つ小屋へ戻った。
君が帰り着いた時、王はもう寝床から立つ事もできなかった。
戦勝報告を受け、穏やかな顔で頷く。
「我が国で最も気高い騎士よ。死地から戻った貴公に、私はまた頼み事をする‥‥」
そう言って金と銀で造られた、中央に小さな宝石の一つだけ備わったサークレットを取り出す。
「我が国の王に継承される冠、正当な王の証だ。これを持って王城に戻ってくれ。そして我が血族から、貴公が相応しいと思った者にこれを与えてくれ。三年はあそこに残っていたというなら、相応しい者の一人や二人は見いだせる筈‥‥」
主君は次の王の選択を君に委ねたのだ。
そして王は力尽きて眠りに落ちた。それはじきに永遠の眠りへと続く、最後の安息だ。
彼はとうに限界だったのである。
魔女メディアが君に訴えた。
「私も宮廷魔術師に戻ります。一緒に帰りましょう、勇者よ。王に化けていた傀儡人形も、妖術師の亡き今、正体を現して滅んでいるはず。私達は敵を倒しました。しかしそれはあくまで必要な準備でしかなく――平和を取り戻し、未来へ繋げてゆくのはこれからなのです」
そして君の手をとった。
君は最大の敵を打ち倒した。
だがそれでも――だからこそ、と言うべきか――君の力はこれからも必要とされるのだ。
この小屋で休息をとり、主君の最期を見届け、都へ戻って新生した時代を支える。その新たな道程が明日から始まる。
英雄の戦いは続くのだ。
【fin】
魔王の要塞城 松友健 @matutomoken
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