473

 強大な力を持つ主が倒され、魔物どもには戦意などもはや無かった。ほとんどの魔物は逃げ去り、僅かに残った物は君を見ると震えて逃げてゆく。

 邪魔も抵抗も受けず、君は王の待つ小屋へ戻った。


 君が帰り着いた時、王はもう寝床から立つ事もできなかった。

 戦勝報告を受け、穏やかな顔で頷く。

「我が国で最も気高い騎士よ。死地から戻った貴公に、私はまた頼み事をする‥‥」

 そう言って金と銀で造られた、中央に小さな宝石の一つだけ備わったサークレットを取り出す。

「我が国の王に継承される冠、正当な王の証だ。これを持って王城に戻ってくれ。そして我が血族から、貴公が相応しいと思った者にこれを与えてくれ。三年はあそこに残っていたというなら、相応しい者の一人や二人は見いだせる筈‥‥」


 主君は次の王の選択を君に委ねたのだ。

 そして王は力尽きて眠りに落ちた。それはじきに永遠の眠りへと続く、最後の安息だ。

 彼はとうに限界だったのである。


 魔女メディアが君に訴えた。

「私も宮廷魔術師に戻ります。一緒に帰りましょう、勇者よ。王に化けていた傀儡人形も、妖術師の亡き今、正体を現して滅んでいるはず。私達は敵を倒しました。しかしそれはあくまで必要な準備でしかなく――平和を取り戻し、未来へ繋げてゆくのはこれからなのです」

 そして君の手をとった。


 君は最大の敵を打ち倒した。

 だがそれでも――だからこそ、と言うべきか――君の力はこれからも必要とされるのだ。

 この小屋で休息をとり、主君の最期を見届け、都へ戻って新生した時代を支える。その新たな道程が明日から始まる。


 英雄の戦いは続くのだ。


【fin】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔王の要塞城 松友健 @matutomoken

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ