敬語の使い方
第6話 取り違えと二重敬語
尊敬語と謙譲語の取り違えには注意
敬語の誤用においては、尊敬語を自分側に使ったり、謙譲語を相手側に使ったりするものがよく見られます。これらは初歩的なミスですが、上級者でもつい口にしがちです。
「先生は数々の研究成果を発表しておられますが……」は、「いる」の謙譲語II「おる」に尊敬語の一般形「〜られる」を使っています。つまり先生を謙譲しています。尊敬語は「発表していらっしゃる」です。
「次の時間の会合ですが、部長も出席いたしますか」は「する」の謙譲語II「いたす」を使っています。つまり部長を謙譲しています。尊敬語は「出席なさいます」です。
謙譲語IIの「おります」「いたします」を尊敬するべき相手側として使わないよう注意しましょう。
二重敬語
よくある誤用パターンが二重敬語です。
二重敬語とは、ひとつの語について、同じ種類の敬語を二重に使ったものを指します。
尊敬語の一般形「お〜になる」に「〜られる」を付けてしまうと二重敬語です。
「待つ」であれば「お待ちになる」「待たれる」はひとつですが、「お待ちになられる」は尊敬語の一般形がふたつ重ねて用いられているため「二重敬語」とみなされます。
▲「ひとつの語に対して」でないため適切な表現
「待つ」を「お待ちになる」にするのは「尊敬語」ですが、これをさらに「お待ちになられる」とするのが二重敬語でしたよね。
では「待っている」の尊敬語はどうでしょうか。
「待つ」は「お待ちになる」が正しいですよね。では「いる」を尊敬表現にして「いらっしゃる」にするのはどうでしょうか。「ひとつの語に対して」でないため適切な尊敬語となります。
「待っている」⇒「待つ」+「て」+「いる」⇒「お待ちになる」+「て」+「いらっしゃる」⇒「お待ちになっていらっしゃる」
となり、「お待ちになっていらっしゃる」は適切な尊敬語となります。
▲「同じ種類の敬語」でないため適切な表現
「いらっしゃいます」は「行く」の尊敬表現「いらっしゃる」をさらに丁寧語「ます」にしているため敬語化は二度ですが、尊敬語と丁寧語という別の種類の敬語を複合させているのであり、「同じ種類の敬語を複数」ではないので適切です。
また謙譲語Iと謙譲語IIは機能が異なるため「同じ種類の敬語」とみなさなくてよいことになっています。
「案内する」⇒(謙譲語I)「ご案内する」⇒(謙譲語II)「ご案内いたす」⇒(丁寧語)「ご案内いたします」
敬語化は三度ですが、丁寧語が別のものであることは簡単にわかります。
謙譲語I「お(ご)〜する」と、「する」の謙譲語II「いたす」が大きく分けると「謙譲語」ですが、機能としては謙譲語Iと謙譲語IIは別なので適切とされています。
▲例外的に許容される二重敬語
「ひとつの語に対し」「同じ種類の敬語化を複数行なう」ことが二重敬語です。
しかしすべてが不適切というわけでなく、次に挙げるようなものは「習慣として定着している」として例外的に許容されています。
尊敬語「お召し上がりになる」「お見えになる」
謙譲語I「お伺いする」「お伺いいたす」「お伺い申し上げる」
このように例外として許容される二重敬語も多くあります。
最後に
今回は敬語を使ううえでやってしまいがちな間違いパターンについて述べました。
現代の傾向としての二重敬語は「尊敬語化したものに「〜られる」「〜れる」を付加して再度尊敬語化したもの」が基本的に許容されないと考えればよいとされます。
そう考えると、それほど難しいわけでもありません。
おそらく「お待ちになれる」との混同で「お待ちになられる」としたほうが敬意が高いと誤解したのでしょう。
「お待ちになれる」は「お待ちになる」の可能形です。
敬意を高めたくて「ら」を入れてしまったがために二重敬語になってしまうのです。
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