951.敬語篇:謙譲語・尊敬語と可能活用
今回は「謙譲語」の間違いと、「可能活用と尊敬・受け身活用」の違いについてです。
ともに間違えやすいので、再確認していきましょう。
謙譲語・尊敬語と可能活用
謙譲語はとても間違いやすい。
とくに尊敬語と謙譲語は取り違いやすく、相手に失礼な誤用も多々あります。
そこで尊敬語のつもりで謙譲語を使ってしまう状況を見ていきましょう。
また尊敬活用と受け身活用、そして可能活用で同じものがあることも見ていきます。
この混同があるため、現在では尊敬活用として「-aれる」を用いないケースが多くなりました。
謙譲語で間違えやすいパターン
尊敬語のつもりで謙譲語を使ってしまうパターンもあります。
×謙譲語「稟議書を拝見してくださいましたか」⇒○尊敬語「稟議書をご覧になりましたか」
×謙譲語「受付でうかがってください」⇒○尊敬語「受付でお聞きください」
×謙譲語「どうぞいただいてください」⇒○尊敬語「どうぞ召し上がってください。」
また謙譲語に尊敬活用「-aれる」を付けて、さも「尊敬語」を使いましたとするパターンもあります。
×尊敬語もどき謙譲語「会長が申されました」⇒○尊敬語「会長がおっしゃいました」
×尊敬語もどき謙譲語「いかが致されますか」⇒○尊敬語「いかがなさいますか」
×尊敬語もどき謙譲語「食事に参られませんか」⇒○尊敬語「食事にいらっしゃいませんか」
さらに尊敬語「御〜ください」のつもりで謙譲語「御〜してください」を使ってしまうパターンもあります。
×尊敬語のつもり謙譲語「ご利用してください」⇒○尊敬語「ご利用ください」
×尊敬語のつもり謙譲語「ご乗車してください」⇒○尊敬語「ご乗車ください」
×尊敬語のつもり謙譲語「ご記入していただけますか」⇒○尊敬語「ご記入いただけますか」
前にお話したとおり、「御〜してください」は謙譲語「御〜する」を「そうして欲しい」状況のときに用いる謙譲語の丁寧表現です。
純粋に「尊敬語」にする場合は、謙譲語の丁寧表現である「御〜してください」ではなく、尊敬語「御〜ください」と「して」をとりましょう。
謙譲語Iには、行為の関係する先方を高める働きがあります。
したがって外部の人の前で、身内に関係する行為を謙譲語Iで表現するのは誤りです。
謙譲語IIを用いて聞き手への敬意を表現しましょう。
×謙譲語Iの誤用「母からうかがっております」⇒謙譲語II「母から聞いております」
×謙譲語Iの誤用「明日は実家へ伺います」⇒謙譲語II「明日は実家へ参ります」
×謙譲語Iの誤用「弊社の有野には申し上げました」⇒謙譲語II「弊社の有野には申しました」
「御〜される」は「御〜してください」と同じ
「御〜される」は謙譲語「御〜する」を尊敬活用「-aれる」にしたものです。
元が謙譲語ですから、尊敬活用しても「尊敬語にはなりません」。
×謙譲語の尊敬活用「お答えされる」⇒尊敬語「お答えになる」
×謙譲語の尊敬活用「ご利用される」⇒尊敬語「利用なさる」「ご利用になる」
×謙譲語の尊敬活用「ご卒業される」⇒尊敬語「卒業なさる」「ご卒業になる」
よく見ると「利用なさる」「卒業なさる」は謙譲語「御〜する」に見えますよね。
しかし「御」を省きつつ「する」の尊敬語「なさる」とすることで、謙譲語にならないようになっているのです。「御」を付けると「ご利用なさる」「ご卒業なさる」となり、謙譲語「御〜する」の尊敬語という禁止要件に該当します。
尊敬語で難しいのが「可能活用」です。
一見「御〜できる」を使えば尊敬語の可能活用のように思えますが、よく見ると謙譲語「御〜する」の可能活用ですから、尊敬語ではありません。
×謙譲語の可能活用「お求めできます」⇒尊敬語の可能活用「お求めになれます」
×謙譲語の可能活用「ご利用できます」⇒尊敬語の可能活用「ご利用になれます」
×謙譲語の可能活用「ご試着できます」⇒尊敬語の可能活用「ご試着になれます」
尊敬語「御〜になる」の正しい可能活用は「御〜になれます」です。
尊敬語の尊敬活用「御〜になられます」と一字違いです。この一字がひじょうに重い。
尊敬語の尊敬活用は「二重敬語」の禁則に触れてしまうのです。たった一字ですが、注意して書くことで混同は確実に回避できます。
接客用語では、取り違いを起こしにくい尊敬語の可能活用「御〜いただける」という表現を用いることが多い。
「お求めいただけます」「ご利用いただけます」「ご試着いただけます」ならわかりやすいですよね。
以前にお話し致しましたが「二重敬語」を作りやすいのも「尊敬語」の特徴です。
「おっしゃる」「ご覧になる」だけでじゅうぶん敬語なのですが、どうにも敬意が足りないのではと不安に駆られてさらに尊敬活用「-aれる」を用いる場合が多くなります。
「おっしゃられる」「ご覧になられる」は「二重敬語」であり、文法上の誤りです。
安心してください。「おっしゃる」「ご覧になる」だけで敬意はじゅうぶんに伝わります。
不安があるようでしたら、勇気を持って「二重敬語」を拒みましょう。慣れてくれば、「おっしゃる」「ご覧になる」だけでじゅうぶん敬意が伝わっていることが理解できるはずです。
可能活用と尊敬活用・受け身活用の違い
現在の文法上、可能活用は「-eる」、尊敬活用・受け身活用は「-aれる」です。
本来は可能活用がなく、可能表現も「-aれる」を用いていました。
現在では五段活用「言う」なら可能活用が「言える」、尊敬活用・受け身活用が「言われる」になります。
五段活用「泳ぐ」なら可能活用が「泳げる」、尊敬活用・受け身活用が「泳がれる」です。
カ行変格活用「来る」なら可能活用が「来れる」、尊敬活用・受け身活用が「来られる」になります。
サ行変格活用「する」なら可能活用は「できる」、尊敬活用・受け身活用が「される」です。
しかし注意したいのが上一段活用と下一段活用です。
上一段活用「いる」は可能活用が「いられる」、尊敬活用・受け身活用も「いられる」になります。
下一段活用「食べる」は可能動詞が「食べられる」、尊敬活用・受け身活用も「食べられる」です。
つまり上一段活用と下一段活用は、可能活用と尊敬活用・受け身活用の形がまったく同じなのです。
そのため、区別したいと思う方が現れても不思議ではありません。
そこで生まれたのが「ら抜き言葉」なのです。
「いる」の可能活用を「いられる」ではなく「いれる」、「食べる」の可能活用を「食べられる」ではなく「食べれる」と書いてしまう方が今では大勢います。
もちろん文法上の誤りですので、賞レースでは減点の対象です。
さらに困ったことに、「いれる」「食べれる」が一般化してしまい、尊敬活用・受け身活用も「いれる」「食べれる」と書いてしまう方がかなりの数にのぼります。
これが「ら抜き言葉」が広まった原因です。
そのうち「ら抜き言葉」が一般化して文法上でも間違いではなくなる日もやってくるでしょう。
しかし現時点では「ら抜き言葉」は減点の対象です。
「小説賞・新人賞」への応募作では「ら抜き言葉」は用いないようにしましょう。
だからといって五段活用「走る」の可能活用を「走られる」とは書かないでください。「走る」の可能活用は「-eる」ですから「走れる」です。尊敬活用・受け身活用が「走られる」となります。この場合は「ら抜き言葉」とは言いません。ラ行五段活用動詞の可能活用はルール上「ら」をとらないからです。
前記したように本来は可能活用がなく、可能表現も「-aれる」を用いていました。だから可能活用として「走られる」を用いても間違いではないのです。ただし、他の五段活用でたとえば「泳げる」と可能活用「-eる」を書いているのに「走る」などのラ行五段活用の可能活用で「走られる」「通られる」と書くのは、活用の混同ですので、ルール違反となります。
可能活用を本来の「-aれる」に含めて表記するか、「-eる」として尊敬活用・受け身活用と区別するかをマイルールとして決めておいてください。
基準が明確であれば、すべての可能活用を「-aれる」にしてもかまわないのです。
最後に
今回は「謙譲語・尊敬語と可能活用」について述べました。
敬語にはさまざまな取り違えがあります。
中でも尊敬活用と可能活用は取り違えやすいのです。
上一段活用動詞、下一段活用動詞は区別できないのですが、他はすべて区別できます。
現在では可能活用は尊敬活用・受け身活用と切り離されているのです。
ですが尊敬活用と受け身活用は依然として区別されていません。
通常尊敬語に受け身活用をすることはありませんので、その点を留意してください。
尊敬語の受け身は謙譲語になるからです。
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