第8話 正直な話
夏休みの終盤。
俺は部活のため学校へときていた。
部活自体は問題なかった。
だが、問題は月島と江島だった。
なぜか月島が俺の登校時と放課後にべったりとくっついてきて、江島にちょっかいをかけるというか、文句を言うというか。
いつも俺に付きまとうという感じだ。
なぜそんなふうになったのかは俺には理解できなかった。
俺の心はいつしか摩耗し、擦り切れていった。
江島も俺に負けず劣らず最近は口うるさくなり、月島に取られまいと俺にいろいろと話しかけてくるが、どれも心が落ち着かない。
俺はため息を吐く。
唯一の楽しみと言えば新妻さんのパン屋によることだが、休業中のためそれもかなわない。
人間関係のもつれというのは実に人間にとって諸悪の根源と言ってもいい。
まぁ別に二人とも悪意があるというよりかは俺のことを想っているというのはなんとなく理解できる。
だが、常に二人の理想である「俺」であるということは俺には負担なのだ。
いつもべったりされてモブの男子学生共からはうらやましがられるが冗談ではない。
俺は息抜きをしようと、東京都のとあるイベントに来ていた。
電車に乗る。
なんてことはない普通の日常だ。
俺はコミケと欲しい漫画があったから買いに来たのだった。
視線の先には珍しいことに新妻さんがいた。
おしゃれをして綺麗な新妻さんに俺は癒された。
だが、その後ろにいる男が新妻さんにちょっかいを出していた。
持っている携帯電話の様子もおかしい。
まさか―――――。
「おい!」
俺は叫んでその男の腕を抑えこみ、見事痴漢と盗撮の現行犯を逮捕に追い込んだのだった。
次の駅でちょうど降りる予定だった俺は、駅員に犯人を渡し、無事に目的地へと向かう。
「あの―———」
俺に呼びかける新妻さんの声に俺の足が止まる。
「あの、ありがとうございました。助かりました。お礼にお茶でも」
俺は喜んで近くの喫茶店へと向かった。
パン屋の休業中の理由を聞くと俺の予想通りの返答だった。
「パン屋さんなんて夏は儲からないし、夏祭りに行きたかったんです。私」
「そうなんですか」
それから俺と新妻さんはいろいろなことを話した。
好きなアニメの事、漫画の事、今日のイベントの事もなんと彼女は参加の予定らしかった。
なんという偶然。
そして意外にも俺と趣味の合う彼女に俺の好感度は一方的に上昇したのだった。
江島より露出は少ないもののスタイルの良さは彼女以上だ。
そんなことよりも何よりうれしかったのは、部活や日頃の不満を黙って聞いてくれるその懐の深さだった。
彼女といればどんなに幸せなのだろう。
俺は時間も忘れて話し込みイベントを一緒に過ごした。
楽しかった。
俺は彼女と離れ離れになった後でもその多幸感が抜けることはなかった。
※ ※ ※
俺は新妻さんが来るという夏祭りに江島と月島ときていた。
俺は二人の浴衣に似合っていると無難な感想を言って、しばらく屋台を回った。
金魚すくいに、射的、たこやきやりんご飴などのおいしい屋台。
独特な盛り上がりを見せる祭りにはしゃぐ二人に俺は頬を緩ませるのだった。
そうして迎えた花火の時間。
俺は江島と月島を引き離す。
視線の先にいたのは新妻さんだった。
「あら、来たんですね」
浴衣の新妻さんは綺麗だった。
俺の心臓が高鳴る。
二人にはあり得ないものだった。
そして俺は最後の花火が鳴る瞬間口を開く。
「新妻さん」
俺はあなたのことが――――――。
そして俺は恋をする。
一度俺を振った彼女が俺と幼馴染の関係に嫉妬して面倒なので俺は年上彼女と恋をする。
これはそんな正直な話だ。
FIN.
一度俺を振った彼女が俺と幼馴染の関係に嫉妬して面倒なので俺は年上彼女と恋をする。 ビートルズキン @beatleskin
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