第六章

登場人物


主人公 千(せん)

背中に5の数字が入っている王子の一人として選ばれた男の子。化け狐一族で、妖力は水。周囲の湿度や酸素に含まれた水や周囲の水を操って攻撃が出来る。ただ、この能力をあまり使っていないからどんな技を使えるのかについて本人は分かっていない。

身長は178㎝の高身長だが心は少年で感じた事や思った事を顔にも態度にも出してしまう。

操られていた翼に銃で撃たれて死亡。


主人公 春(はる)

背中の腰辺りに5の数字を持つ女の子。王子として初めての女性に周りは戸惑うが性格はどの王子よりも男前で決断力も早い。千は純粋な性格だったが千の記憶も持つからか精神年齢が高く皆を引っ張る強さを持っている。

毎日妖怪の村の丘で眠る四葉さんに花束を持って行くのが日課。


化け狐 サクラ

198㎝弱の背丈を持つ人型の化け狐。千とは魂の繋がりの儀式で千を自分の器として認めた。魂の繋がりであり相棒である千と常に一緒に行動をしている。千を背中に乗せる時は獣化になり、大人二人は乗れるくらいの大きさになれるが本人曰く気安く乗られるのは好きでは無くプライドが高い。昔は暴れて沢山の国や村を崩壊しては恐れられる事に喜びを感じていたが3番の数字を持つ王子に封印されて洞窟の中で暮らしていた。千が器になってから千の行動に振り回されるが魂の契約があるからか千の事は一番信用していていつまでも幼い子供のような性格でいる千の世話をするのが最近は少し楽しかったりするが振り回される度に器にして良かったのかと考えさせられる。夢はサクラの名前で世の中に恐怖で震え上がらせる事。


龍神 好実四葉(このみ よつは)

千の家に繋がる道の門の所にある桜の木に惹かれ桜の花を見ていた所を千に見つかり、四葉が住む村の代表として王子達に挨拶をした。昼は村の妖怪達に評判の薬屋さんをして、夜は龍の姿になり迷える子供達の魂を天に返す仕事をしている。

見た目は174㎝の身長でで年齢は千よりは年上の男性。髪は白く千曰くとてもサラサラの風になびく姿は静かなせせらぎの川のようで美しいらしい。

千が目の前で撃たれそして死ぬ姿を見て発狂し自ら自分自身を封印してしまう。

眠りから覚める方法は分かっていないが毎日花束を持って来る春によって身体の周りは一面花だらけで村の人からも花畑に眠る龍神として拝まれている。


村の一族

千の両親

千が生まれた時に数字がある事に気が付いていたが数字がある者は化け狐に必ず殺されるという昔からの言い伝えがあった為本人には内緒にしていた。

村の中では爺様と実の兄の亜廉(あれん)は千が生まれた時から知っていたが王子として正式になった日には他の村人も知り、今まで我が子の死ぬかもしれない儀式までよく耐えたと慰められて今も村で普通の暮らしをしている。


実の兄 亜廉(あれん)

千の実の兄。6個違いで亜廉にとっては千は可愛くて仕方が無い存在。しかし王子としての数字を持っている事とその数字がある者は化け狐に殺される言い伝えを聞いて千が器の儀式の時までは気が気じゃ無かった。千が死んだ後悲しみに暮れていたが村の子供達の説得もあり村の丘にある青空学校の先生をしている。歴史担当である。


爺様

千の村に住む一番偉い爺様。そして化け狐のサクラの師匠でもある。千が生まれた時に数字がある事を千の両親から相談されて言い伝えを教えたのは爺様だった。両親が我が子の未来を知って嘆き悲しむ姿に心を傷め少しでも化け狐が千を殺さないようにと千が洞窟の中に入って居る時に爺様の化け狐と共にお祈りをしていた。ただ、その事については誰も知らない。爺様は自分の事をあまり話さないので村人の間では年齢は幾つなのかという話を良く耳にする。


兄弟の盃を交わした王子達

1番 新一(しんいち)

鎖骨に1番の数字を持つ1番上の王子。能力は炎で弱点は水と炎を操るには力が必要なので疲れてなかなか能力の力を維持する事が出来ない。また性格上やる気がある人物では無く、なるようになれという性格なので戦の時も基本は「なるようになるさ」というスタイルで戦う。最近の悩みは盃を交わした兄弟達が冷たいこと。一人っ子なので兄弟が出来る事に1番楽しみにしていたのも新一だった。最近は長男の王子として弟達を引っ張って行く事に必死になりすぎてしまっている所がある。


2番 龍次(りゅうじ)

腕に2番の数字を持つ王子。能力は風使いだが力のコントロールが出来ず戦場となった場所を壊滅したり味方にも被害が出るので国の中では厄介者にされているが本人は気が付いていない。他者にヒソヒソと悪口を言われていても「俺が格好いいから噂をしているんだな!子猫ちゃん~」と言って近づくので皆からウザがられている。根っからの女好きだが女が好きというよりもチヤホヤされるのが好きなだけで本気でその人に恋をしている訳では無い。因みに千の事を馬鹿にしていたが龍次も初恋はまだである。


3番 鏡夜(きょうや)

舌に3番の数字を持つ王子。能力は千里眼である程度の距離であれば何が起きているのかを見ることが出来る。眼鏡はその距離を伸ばそうとしてわざと視力を上げているがそれで見える距離が伸びる事は無い。逆に千里眼を使う時は目を瞑ってしか出来ないので意味が無いことを本人は気が付いていない。鏡夜にも実の兄弟が居るが特に仲が良い訳でも無く会えば話すくらいのあっさりした関係の10個離れた兄が居る。

ただ、兄の影響を受けて和風な家を好むようになったが本人は「兄は関係ない、自分の好みだ。」と言い張っている。

最近は血が繋がらないが盃を交わした弟達を大事にしたくて新一兄さんと意見が度々ぶつかる。


4番 楓(かえで)

左足のふくらはぎに4番の数字を持つ王子。見た目は前髪が目を隠す程伸ばし背中を丸くしてのそのそと歩いている。能力が闇使いというのもあるからか常に闇のオーラを発しているが本人はその方が居心地が良いと思っているので気にしない。ただ新一と同じ能力は使い手で楓の場合も体力の消耗が大きく体力が新一より無いので疲れやすく戦ではあまり派手な活躍はしない。出来れば戦も帰りたいと思って影で終わるのを待ったりする事もある。姉が二人居るので良くおもちゃにされて扱き使われていたので弟が二人出来て兄という立場を手に入れて嬉しいからか弟達の事はとても大切な存在になって来ている。

ただ、恥ずかしいので本人達には絶対に言わない。

兄弟の中では龍次と性格が合わないので嫌い。よく率先して龍次を虐めるのも楓である。

そして極度の人見知りなので女性達を囲んで飲む時は千と一緒に端でお酒を飲むのが好き。女性が近づこう者ならシャーと威嚇する程苦手。(原因は姉達のせいで女性に対して夢を持っていない。)

弟達の事を大事に思っており、体力が消耗しようとも弟達の為ならと能力で助けてくれる優しい一面もある。


6番 希生(きなり)

耳裏に6番の数字を持つ王子。いつも派手なメイクをしていて美容が大好きな男子。千よりは少し下の男の子でよく千の背後にくっ付いて隠れたりする。新一と龍次と違って女性が根っから好きというよりも女性達とメイクや最近流行なファッション、美容について話をするのが好きなだけでこの人が好きという感情は特にない。

国に仲の良い幼なじみ(男)が居てよく遊んだり毎日文通をする程の仲良しである。能力は氷使いの冬。その場がどんなに熱い環境でも冬の環境にする事が出来る。体力はそれなりにある為ある一定の距離であれば基本はそこまで体力を消耗せずとも冬にする事が出来る。

ただ戦いの時は相手を凍らせる事に夢中になって他に目を向けていないと自分の身体も一緒に氷になってしまう為不意打ちで攻撃された場合身体を傷つけられるというよりも壊されてしまい死に至る事がある。

1番年下で甘えん坊だが本当は結構腹黒くて計算高くどんな頼み方をすれば面倒な仕事をしなくても済むかを常に考え、兄達に仕事を押し付けてはマッサージに通ったりするのが好き。


千の部隊

1番隊隊長 はじめ

見た目はスキンヘッドの男で見た目は厳つく感じるが意外とお茶目でクマの人形が無いと眠れないという可愛いギャップを持つがそれを知っているのは同じ部隊の人達か千賀しか知らない。千に言われてから敬語無しで意見を言えるようになり、最近では千と千賀とはじめで意見交換をするのが好き。因みによくこの3人が固まって訓練するが部下からは筋肉バカの集まりだと影で言われている事に気付いていない。


2番隊隊長 千賀(ちか)

ボブヘアーの千賀は村1番美男子と言われている。美容が好きなのか顔に傷が付かないような戦い方をする為はじめと千に泥を付けられたりよく虐められる。

それでも3人の相性は良く、千賀も千に対して意見をハッキリ言えるので困った事は無いが、爺様にはバレないようにはじめよりは周囲の目を気にしている。


花の都

王子達が住む場所。それぞれ王子達の家に続く道の入り口に門がありそこには個性溢れる様々な飾りがされている。その門の入り口にある中心部には城がありその建物の中に入っていくと通行証を持った商人や王子達に商品を渡して使用して貰うまたはそれにお墨付きをして貰う事で売り上げを伸ばそうとしている人達が出入りしている。中にはその人々の群れを利用して物乞いをする人達も居る。王子の間は基本は王子以外は立ち入り禁止されている。中には2階建ての部屋が広がっていて寝転がることが出来るソファとキッチン(料理が出来るのは新一、龍次、鏡夜、楓だけ)があり良く材料を買ってきては料理を自分達で作り兄弟達でご飯を食べる。またそれぞれに部屋が与えられているので一人になりたい時はその部屋に籠もる事も出来る。1階は兄達の部屋があり、2階に弟達の部屋がある。

花の都にある王子達の家に続く道の門の所は王子の家で働いている者や王子達以外は固く禁じられていて他の王子の所で働いている者が違う王子の家に行く事も固く禁じられている。これに反した者は死刑、または流刑されてしまう。


王子の掟と村の掟

王子と村の掟は厳しく守らないと王子であっても反逆者として死刑になることがある。

例えば王子が国や国民に対して殺しをした場合や王子の力を使って国中を混乱させた場合は特別な許可の元死刑にされる。実際に過去の王子達の中で王子の権力を使って好き放題にした事により同じ兄弟の盃を交わした兄弟に殺されるという事はあった。

また、王子の身の危険を守る為に厳重に警備を強化しており村人と深い関係を持つことや自分達の城に招き一緒に食事をする事は禁じられていて王子の家で働く者達との交流も控えめで無いといけない。

また王子は常に戦では先頭に立たなくてはいけなく、それぞれの出身の国、村の軍隊の指揮を取るのも王子達の仕事である。

また戦での王様はそれぞれの出身の1番偉い人が戦の中心部に座らないといけない。

(例:千の村の1番偉い人は爺様なので爺様が戦の時は中心部に他の王様と一緒に戦が終わるまでは座って待機しておかないといけない。)

王子達は偉い人達(王様)を守りそして領土を拡大していく為に尽力しなくてはいけない。

千の死後第一王子を中心に掟の改正を求める声が上がり、王子と民との関わりがフレンドリーになった。また王子だからという理由で女性との結婚も強制ではなくなり想い人であれば認めれるようになった。


「ちょっと!新一兄さんその話じゃ私は前線で戦えないじゃない!」

と怒った声で言うと、第一番目の王子の新一兄さんが

「まだ春は子供だから戦には連れて行けても後ろじゃないとまだ駄目だ!」

「でも今回は模擬練習でしょ?じゃあ死ぬことはないじゃない。」

「お兄ちゃんはもうあんな千を失った時のような思いをしたくないの!春が生まれ変わってきてくれて嬉しいけど、もし打ち所が悪くて死んだら大変でしょ!お兄ちゃんの言うことを聞いて!!お兄ちゃんあまりワガママ言われたら泣いちゃう。グスン」

と泣き真似をする新一兄さんに私はムフンと怒った仕草をしながらソファの背もたれに背中を預けた。

この花の都に来てから数ヶ月が経過した。

家はもちろん前世で使っていた家をそのまま使っている。

皆が千の事を思って頻繁に掃除をしてくれていたお陰で家は綺麗なままだった。

前世以来の家に最初は緊張したがただ背が低くなったというだけで、触り心地も昔と変わらなかった。

ここに来るまでは前世の大まかの記憶しか残っていなかったが、毎日生活していくうちに細かい所まで思い出すようになった。

ただ、私が六歳で幼い事、また女という理由から練習も優しい物しかやらせてくれなかった。

私はそれが不満で怒っているのである。

相変わらず王子の会議は新一兄さんが主導権を握っているので新一兄さんが良いと言わないと許可が下りない。

今回の模擬戦で生まれ変わって初めてはじめと千賀に会う。

それも楽しみにしているので出来れば戦の練習を通して仲良くなりたいのに兄さん達が許可してくれないのだ。練習もずっと部隊から離れて行って居たので皆にまた会える日を楽しみにしていたのに、まだ活躍が出来ないなんて変だ!と言わんばかりに私は抗議をしている。

「しょうがないよ、春になってからまだ六年だろ?」

と第三番目の王子の鏡夜兄さんが私を慰めるようにして頭を撫でてきた。

千で居た時は頭を撫でられた事が無かったが春になってからは皆が何かと言って私の頭を撫でてくる。私はそれが最初は嫌だったがもう毎日触られていると諦めがついてやられ放題にしている。

「それでも、千が死んで春として戻ってきたって皆に知って貰いたいの。千だって事を知っているのは兄さん達だけでしょ?きっと女が部隊を指揮するのは甘く見られて言う事を聞いてくれないと思うの。だから本当の戦の前に私の指揮を見て貰いたかったの。」

「その気持ちは良く分かる。でもな、まだ武器を持てない春に大人が襲ってきたら怪我だけじゃなくて死んでしまう事を兄さん達は怖いんだよ。」

「でも、最初の戦の時に兄さん達だって幼い頃にしたじゃない。」

「それは部の人達に支えて貰ったのと俺達は元々攻める戦を経験していたから、それに言ったろ?新一兄さんも龍次兄さんも弟達が後ろにいるから守る為に戦えたって。春は部隊の人達に認めて貰いたいなら焦らずにゆっくりと認めて貰えたら良いじゃ無いか。」

と説得される。私は焦らなくてもと言われてそれ以上は言えなくなってしまった。

これ以上ごねてもただの幼い子がワガママに泣きわめいているだけになる。

ここは大人にならなきゃと思って我慢し嫌々ながらも頷いた。

「流石鏡夜!!いや~お兄ちゃん感動した、春がお兄ちゃん達の事を分かってくれて本当に良かった!!お兄ちゃんは春の事大好きだからな、それを・・・・」

と目をウルウルさせながら言う新一兄さんに

「そんな演技はどうでも良いから私の隊のはじめと千賀には先に会わせて欲しい。」

と言った。

「お兄ちゃんの話を聞いてよ!」

と新一兄さんは叫んだが隣に座っていた第六番目の王子の希生が

「姉さん、はじめさんと千賀さんの事も覚えているの?」

「うん、もちろん覚えているよ。出来れば模擬の時に会うんじゃ無くてあの二人には先に挨拶がしたいの。」

「うへ~、千兄さんの時にはそんな事きっちりしてなかったのに春姉さんは凄くそういうのをきっちりしているから小さいのに頼りがいがあって俺より年下の子に姉さんって言うの変だと思っていたけれど性格は完全に姉さんだ。」

「あら、希生は私が幼いだけの子だと思ってたの?」

「最初はそう思ってたの!だって兄弟の絆になる時だって泣いてたし。」

「あれは痛かったのよ、千の時はあまり気にしなかったのに春になると痛みに敏感なのか前回よりも痛かったの。」

「痛みが敏感になるのは戦に出る身としてちょっと心配だな。」

「それもきっと成長すれば鈍感になるわよ。」

「そうかな~。」

と希生が言うので、私は自分に(きっと大丈夫)と言い聞かせた。

「それでいつ会いたいんだ?マイシスター」

と昔と変わらない言い方をするのは二番目の王子の龍次兄さん。

「その言い方止めて、イラッとするから。・・・私の意見を言って良いなら今日会えたら良いなと思ってる。」

「早く会いたいんだな。」

とボソッと言うのが第四番目の王子の楓兄さん。

「うん、皆千が居なくなってはじめと千賀だけで部を引っ張ってくれたでしょ?だからありがとうと辛い思いをさせてごめんねが早く言いたいの。」

「春は優しいね。」

と微笑む楓兄さんに私は驚いて

「楓兄さんがそんな微笑み方をするなんて初めて見たかも。」

と言うと

「俺は笑う時は笑う。」

と返された。

「じゃあ、春は王様達の付近で護衛に回って今日この後練習場から戻ってくるはじめと千賀に挨拶な。」

と言って新一兄さんが王子の会議をしめた。


私は皆がそれぞれ帰った後サクラと二人で王子の間ではじめと千賀を待った。

あれから大分時が経っているが二人はどんな姿になっているのだろう。兄さん達でも大人になったなと言うくらい成長していたがはじめと千賀に会えると思うと心臓がドキドキして緊張してくる。

サクラは無表情で扉付近で立っているし、私は手持ち無沙汰になってソファに座りながら床につかない足をブラブラ揺らしながら待っていると、

コンコンコン

と扉を叩く音が聞こえた。

「はーい!どうぞ!」

と私は緊張して口が渇いて上手く回らなくなった舌で大きな声で返事をする。

「「失礼します。」」

と言ってはじめと千賀が入ってきた。

はじめはスキンヘッドのままだが目つきは以前より鋭くなっていて千賀は前髪に一束ピンクの髪色に染めていた。

「はじめまして、はじめに千賀。」

「初めまして、私の名前は・・・」

「はじめ、固い挨拶は要らないよ。それにしても目つき悪くなったね、どうしたの?」

と聞くとポカンと口を開いたまま挨拶が止まるはじめ。

「千賀も前髪染めたんだね、ファッションは最近はどんなのが好きなの?」

と聞くと千賀もまたはじめと同じく口をポカンと開けたまま呆然としていた。

「まあ、二人共同じ顔して面白い!扉でジッとしていないで中に入って来なよ、ソファに座ってお話をしよう。」

「いえ、私達は」

とはじめは言うが、私は立ち上がって扉付近まで歩き二人の手を取ると

「ここで立ち話をしても良いけど、私は千が居なくなってからの話を聞きたいの。はじめは昔はそんなに目つき悪く無かったじゃない、筋トレしすぎて目つきが悪くなったのなら仕方ないけれどはじめの事だから第一部隊として引っ張って行くのに必死になりすぎて重圧でそうなったのかなと思うよ。それに千賀ちゃんは久しぶりに会ったらスレンダーになってて驚いた!昔は私とはじめと一緒に筋トレしてたのに。」

と言うと

「どういう事でしょうか、何でそんな話を知って・・・」

と千賀が青ざめた顔をして言うので

「もう!分からないの?私は千の生まれ変わりなの。千の時の記憶を持ったまま生まれ変わったのよ。だから数字も5のままなの。」

「え?そんな事あるんですか?」

「さあ、爺様はそんな事は今までに無いし女が数字を持つのも初めてだって言ってたよ。まあ亜廉先生が言うには四葉さんに会いにまた生まれ変わったのだろうって言ってた。」

「あー、千なら有り得るかも。」

「でしょ?私も四葉さんの事大好きだからね。だから会いに来たのに四葉さん自分の事を責めて千を追って自分を封印しちゃうんだもん、それが解けるまで私は何が何でも成長して立派にならないといけないの。だからはじめと千賀にも協力して欲しいのよ。」

「やっと今千と春が重なって見えた。」

とはじめが私と手を繋いだまま納得するように頷く。千賀も同じらしく

「うん、四葉さんの為なら周りを巻き込む姿は変わってないね。」

と言った。

「当たり前でしょ?大好きな恋人だもん、その人の笑顔が見れるなら何でもするわ!」

と私は胸を張って言った。

模擬戦の時私ははじめと千賀以外の隊の人達にも挨拶をした。

「それでね、今日は模擬やっと終わって解放されたの。千の時には無かったのに足が疲れて大変だったわ!それで皆が驚くのよ、千が帰って来たって。皆私の挨拶には普通の反応だったのに四葉さんの話をしたら皆驚いた顔をするの。四葉さんを好きな所は変わっていないってね、私は生まれ変わって女になったけれども四葉さんを想う心は変わってないわ。それとね、明日紫月の村に行くつもりよ。紫月はあれから兄弟でも会えないくらいに塞ぎ込んでいるらしいの。紫月も翼君も悪くないのに思い詰めていなきゃ良いのだけれど。」

私は妖怪の村にある丘で眠る大きな龍神様に一人で話をしていた。

サクラは気を使ってか少し離れた所に居る。

別に聞かれて恥ずかしい事は言っていないから傍に居てくれて良いのだけれど、サクラは頑なに離れた場所から見守ると言って動かなかった。

私は花屋さんで買った花束を龍神の姿で眠る四葉さんの傍にソッと置いた。

「そろそろ夕陽が沈んじゃう。まだここに居て話をしたいけれどもまた明日来るから、そうしたらまた話を聞いてね。」

と言って私は泣く泣く四葉さんと

「またね。」

と言ってさよならをした。

サクラが

「もう良いのですか?」

と聞いて来たので寂しさから涙が出たが

「うん、明日また来るの。沢山お花を持って来て四葉さんにあげるの。」

「そうですか、それは言い考えですね。きっと沢山お花を差し上げることによって花の香りで目が覚めるかもしれません。」

「そうかな!!きっと目を覚ますよね!」

と言って私は獣化したサクラの背中に乗って妖怪村を後にした。


「おはようございます、起きて下さい。」

とカーテンを思いっきり開けて太陽の光で私の顔を照らさせたのはサクラだ。

私は布団に包まって抵抗するが思いっきり布団を剥がされてダンゴムシのような格好をする私に

「さあ!丸まって居ないでしっかり起きなさい!」

と言った。

「まだ眠い。」

と抵抗する私の身体をサクラは揺さぶって

「今日紫月さんに会いに行くのでしょう。しっかりなさい。」

と言った。

私はその言葉で目が覚めて

「そうだ!紫月に会いに行くの!寝ていられない!準備しなくちゃ!」

と言って飛び起きた。

「急に起き上がるのは駄目ですよ!心臓に負担が掛かります、せめてゆっくり起き上がって下さい。」

とサクラは怒る。

サクラは最近は健康について学ぶのが好きらしく、昔は歴史の本ばかり読んでいたが今は何かとこれは健康に良いから飲めだの健康に悪いから食べるなと小言が前より多くなった。

「分かった、分かった。それで洋服はどうしよう。」

と悩む私にこの服はどうですか?と色々勧めてくる。

このクローゼットはここに来た時は千の服で溢れていたが今はその服を全部サクラが勿体ないからという理由で作り替えてワンピースにしてくれた。

千の時の身長を考えるととても大きいがその生地で作ってくれたワンピース達は可愛く一点物だから私も気に入っている。

「今日は黄色にしましょう!だって化け狐の色だもの、きっと紫月も分かってくれるわ。」

と言うと黄色の花が沢山描かれたワンピースに着替えた。

「紫月に会えるかな。」

と不安になってサクラに聞くと

「さあ、どうでしょう。紫月さんは千が居なくなってから王子達が顔を見に行っても追い返されるばかりでこの長年お会いしていないと聞いています。」

「でも旅館では働いているんでしょ?」

「ええ、赤鬼夫婦の旅館は今も歴史ある旅館として王様も泊まられる程人気だとか。」

「へえー、今度赤鬼夫婦にも会いたいね。昨日は四葉さんに会いに行く事しか出来なかったし。」

「そうですね、きっと喜ばれると思いますよ。」

「よし!今日は紫月の所に行って驚かせよう!」

「ええ、きっと春が来た事で少しは前向きに気持ちが変わると良いのですが。」

「きっと変わるよね?大丈夫だよね?サクラが不安になると私も不安になるよ。」

「あらあら、いつからそんなに繊細になられたのですか?」

「春になってからだと思うよ、千の時はこんな気持ちになった事無いもの。」

「きっと千の時は思ったらこうだと行動してしまった所が春になってからは少し考えながら行動するに性格が変わってしまったのでしょうね。でもそういう性格の方が私は楽で良いですけどね。また目の前で自害されたら困りますから。」

「あの時はごめんって、サクラを解放したい一心で首を切ったの。」

「もうあんな事はしないで下さいね、一人残された気持ちも考えて貰いたいものです。」

「分かったよ。その話何回もするから耳にたこが出来たよ。」

「そうですか、もっと話して耳がもう一つ出来るまで頭に叩き込んで下さいな。」

と朝から言い合いしているのをなかなか起きて来ない事を心配して見に来てくれたメイドさん達にクスクスと笑われて二人して我に返った。

「そろそろご飯を食べて出かけないと紫月が今日旅館の仕事だったら間に合わなくなっちゃう!」

と言い私は急いでメイドさん達と一緒にご飯を食べにリビングに向かった。

食卓は豪華で皆、私が来るのを椅子に座って待っている。

ここに戻ってきてメイドや執事を雇うのは応募が殺到して大変だった。

それほど千の人気が村では大きかったのだ。しかし、私は千という王子をよく知る昔一緒に暮らしていた人達をもう一度サクラ一緒に頼み込んで通いで働いて貰うことにした。

皆家庭をそれぞれ持っているため住み込みは出来なかったが、それでも昔のように一緒に過ごせる時間はとても嬉しかった。

「今日は紫月さんの所に行かれるんですよね?」

と一人のメイドさんが私に話かける。

私はご飯を食べながら、うんと頷くと

「それならばお弁当を作りましたのでお持ち下さい。」

「良いの?」

「ええ、勿論です!昔は四葉さんと一緒にご飯を食べてらしたでしょう?きっと紫月さんもご飯を食べれば心を開いてお話してくれると思います。」

「そうかな~。紫月がどれだけ今思い詰めているのか分からないから何とも言えないよね。」

「そうですね、他の王子が何度も会いに行ったとは聞きましたが、誰一人お会いした事は無いとか。」

「私には会ってくれるかな?」

「ええ、千だと分かればきっと分かってくれますよ。」

「そうだよね!自信持たなくちゃ!」

と言って私は目玉焼きを食べると黄身が口の端にベッタリ付いてしまって皆がその姿を見て笑った。


「ここだよね。」

私は紫月の村に来ると昔とは違って栄えた村になっていた。

痛み止めになる雑草は相変わらず生い茂っていて、あの万能の薬は四葉さんが居なくなってから作れる人が居なくなって紫月も作る手伝いをしていたけれども王子が何度も作って貰えるように頼んだが拒否されてしまったと希生が言っていた。

薬として作れないからか雑草は以前よりも生い茂っていたが村は雑貨売りの商店が出来る程栄え、妖怪の村の人達もお椀とかを買いに来ている程だった。

「何も無かった村がこんなに繁栄していたんだね。」

「ええ、どうも王子達があれから千の友だからという理由で援助をしてくれたようで赤鬼夫婦の旅館で働きながら商いをする人が増えたようですよ。」

「え?皆商いしながら旅館でも働いているの?」

「ええ、何でも商いだけだと村の経済は回らないようで旅館で働いたお金で食べ物は妖怪の村で買っていると先程メイドが言っておりました。」

「そうか、この村の土地は薬草は生えても食べ物を作るには適さない土をしているんだね。」

「ええ、薬草さえ作ればきっとこの村はもっと繁栄すると思うのですが。」

と言っているうちに紫月の家まで着いてしまった。

紫月の家は門の入り口にあるのだが、妖怪の村から行くと真反対にあるので獣化したサクラの背中に乗りながら村を見て回っていた。

紫月の家は他の家と違って静かで誰も居ないようだったが私はサクラの背中から降りると、ドアをトントントンと三回叩いた。

「はい。」

と声が聞こえドアが開く

そこに立っていたのは髪の毛をボサボサに生やした無精髭の男だった。

「あの」

と言いかけて私はその男に話しかけると

「なに?子供が何でここに来るわけ?何か用?」

と不機嫌そうな声で私を睨み付ける。

「あの、紫月さんはいますか?」

「紫月は俺だけど、あんた誰。」

「私は春です。」

「そう、春。それで春は何しに来たの。化け狐が一緒って事は化け狐の一族の子でしょ?」

「うん、実は紫月に用があるの。」

「何の用?」

「お話がしたいの。」

「何で化け狐の一族の子が話したいわけ?」

と入り口を通してくれなさそうな態度で質問を繰り返されるので私は摘まみ出されるかもしれないと思いながらも紫月とドアの隙間を通って無理矢理部屋の中に入った。

紫月は案の定私を摘まみ出そうとしたがサクラがお弁当を持って獣化したまま家に入ってきたので紫月は少し諦めた顔で私を無理矢理追い出すのは止めた。

「それで、何しに来たの?」

「だからお話をしに来たの。」

「もしかして薬草のこと?あれなら作る気は無いよ。」

「薬草の事じゃ無いよ。紫月と話がしたくて来たの。」

「さっきから紫月紫月って初対面にさん付けが出来ないのはどんな教育受けてるんだよ。」

「だって友達にさん付けしたら変でしょ?」

「いつから友達なんだよ。」

「昔から。」

「おい、化け狐この変な子早く連れて帰れよ。」

「変なとは失礼な!紫月の事なら知っているよ。そうね、実は妖怪が怖くて特に目玉おやじは怖くて話す時に首元を見ながら話す事とか。」

「・・・・・なんでそんなの知っているんだよ。それにそんなの皆同じだろ?」

「ううん、私はちゃんと目を見て話せるもん。後はねニンジンが嫌い。」

「それは昔のな、今は食べられる。」

「そうなの?よく四葉さんとサクラに小言言われてたのに。」

「そう、四葉さんとサクラに・・・・なんで四葉さんとサクラに怒られていたの知ってるんだ?」

「他にもあるよ、血を見るのが昔から苦手で戦から帰ってきて傷だらけになった時に四葉さんより泣いてたよね。」

「・・・・・・・」

「それに最初ここに来た時に石を何個も投げてきて、あれ痛かったな~。」

とチラッと紫月を見ると紫月の顔色が真っ青になって涙が目に溜まっている。

「紫月が好きな色は白と黄色。紫月が好きな花はひまわり。紫月の事なら何でも知っているよ、もちろんあの時の千に対して言った想いもちゃんと覚えているよ。」

「・・・・・千なのか?」

と涙が溢れ零れるのを拭かずに小さい声で呟く紫月に

「ただいま」

と言った。

紫月はガバッと私を強く抱きしめた。

「千、千。帰ってきたのか!!!」

「帰ってきたというよりも生まれ変わった。」

「本当に千なんだよな?」

「もっと証拠ならあるよ。」

と言って私はワンピースの裾を持ち上げて背中の腰辺りにある数字を見せた。

「ほら。」

と言うと数字が見えたのかパンツが丸出しだからなのワンピースの裾を元に勢いよく戻すと

「王子が数字を軽々しく見せるなと何度言ったら分かるんだ!」

と怒られた。

暫く紫月は私を抱きしめるように大泣きした。

耳元で泣く紫月を私は優しく撫でてあげた。

「それで、どうしてここに来たんだよ。」

と泣き疲れたのか掠れた声で私に再び同じ質問をしてきた。

「だから紫月に会いに来たの。紫月がどうしているのか知りたくて。」

「俺は相変わらず赤鬼夫婦の旅館で働いているよ。」

「翼君は?」

「・・・・・翼なら死んだ。」

「え?」

「あの時、翼が千の事を銃で撃っただろう。あの銃は猟をする為の銃で普段は隠して置いたのを翼が見つけてそれを持って四葉さんを襲いに行ったみたいだった。

俺は翼が居ない事に気が付いて妖怪の村に行ったんだ。

そうしたら妖怪の村では人々が四葉さんの家を壊そうとしてごった返していた。

俺はその異常な光景を見てすぐに四葉さんを探しに行ったんだ。そうしたら翼が・・・・翼が千を銃で撃っていた。」

「あの時は翼君を止められなくてごめん。四葉さんの事で頭がいっぱいになっていて翼君の気配に気付かなかった。」

「いや、千が謝る事じゃ無い。翼がどうしてあんな風になったのか俺には分からないんだ。」

「翼君、私等が封印したブレスレットを持っていたの。あの日新一兄さんと龍次兄さんが封印したブレスレットを壊しに来たんだけれど瓶の中にはもう何も無くて誰かが持ち出したのではと騒ぎになったんだよ。

それで四葉さんを守る為に丘に向かってたら撃たれただけ。」

「そうだったのか、今更だけど翼が千にした事は本当に許される事では無い。本当に済まなかった。」

「良いよ、翼君は操られていただけみたいだったし。それに紫月は勘違いしているみたいだけど私は翼君に殺された訳じゃ無いよ。」

「だってあんな深い傷!」

「確かに深い傷だった。でも私が死んだのは私が死を望んだから。このまま生きるか分からない時にサクラを巻き込んで死ぬわけにはいかないと思ったから自分で死んだの。」

「なんで、そんな事をしたんだよ。俺お前が死んだ時の事を今でも何回も思い出すんだ。

俺があのブレスレットに願いなんてかけなければ良かったのに。」

「そんな事無いよ、紫月が私を好きで想いを込めてくれた事は嬉しかったし、それを否定したいとは思わないよ。それにその想いを利用した悪い奴、紫妃が悪いのであって紫月は悪くないよ。」

「あの声紫妃って言うの?」

「うん、紫月も声を聞いたんだね。私は直接亡霊と会ったよ。」

「亡霊?」

「そう、なんでも昔に処刑された人らしいよ。」

「そんな事知らなかった。」

「それを伝えようと思ったけれどなかなかそこまで出来なくて雷夏には文でそれを伝えたんだよ。」

「雷夏!懐かしい名前だな。」

「フフッそうだよね、今私も言ってて懐かしいなと思った。」

「それで雷夏は何か見つけたのか?」

「それが雷夏は紫妃については分からなかったみたい。紫妃が何を目的で亡霊として蘇ったのかは私もまだ分からないの。」

「四葉さんの心臓を刺せとは言ってたけどな。」

「うん、私の時も四葉さんの血を飲めとか言っていた気がする。」

「ああ、四葉さんの事をなんで知っていたんだろうな。というか血を浴びたり飲んで紫妃は何がしたかったのか分からないよな。」

「うん、それが不思議だよね。」

「でもアイツのせいで翼が死んだんだ。」

「翼君がどうして死んだのか聞いても良いの?」

「ああ、あれから翼は毎日苦しんでた。あの時の事は朧気だけど記憶にはあったみたいで自分が王子を殺したと何度も泣いてた。だけど俺は翼を育てる為にも旅館で働かないといけなかったから翼の事をちゃんと見てやれなかった。ある日仕事から帰ると翼が村の近くにある川に溺れて死んでいたのを村人が発見してくれて俺はもっと早く帰っていれば見つけられたのに、俺はそれが出来なかった。」

「それで今もその時の事を一人で背負っているんだね。」

「ああ、千を死なせただけじゃなくて翼も死なせてしまった。この罪は俺が背負わないといけないと思って。四葉さんも千が死んだのを遠くから見て大声をあげながら泣いてすぐに龍神の姿になったと思ったら眠りについてしまったんだ。」

「そうか。自分の事しか考えていなかった。」

「いや、あの状況だったら冷静に物事なんて考えられないだろう。それは仕方ないさ。」

「ごめん。それに全て翼君と紫月に背負わせたね。」

「いや翼も俺も自分の罪を背負っただけだ。気にするな」

「うん。」

と私は言葉を失ってしまった。ここに来るまで紫月と話せたらという考えしか無かった。紫月がどんなに苦しんでいるのかを考えていなかったのだ、兄さん達にも紫月は誰とも話していないと聞いて昔のように話せると思っていただけだった。

私が落ち込んでいるのが分かったのか紫月が

「そういや化け狐が持っている物はなんだ?」

と聞いて来た。

「サクラのこと?お弁当を持って来たの。」

「サクラ??」

と聞くとサクラが獣化から人型になった。

「お久しぶりです、紫月さん。」

「サクラだ!!久しぶりっていうか今度は春を器にしたのか~」

「ええ、最初は千だと気付かなかったのですが、自由にしてくれると約束して下さったので魂の絆を結んだのです。春は千とは違って意地悪なので千の時の記憶を持っている事を教えてくれなくて・・・・」

と泣き真似をするサクラに私は

「よく言うよ、兄さん達に会いに行く時もギリギリまで千の記憶があることを内緒にしましょうねって言ってたじゃない。」

と軽くサクラを小突く

「それは兄王子達がどんな反応をするのか知りたかったのです。」

「王子達もサクラだって事は知っているの?」

と紫月は私達の事を交互に見ながら聞いて来た。

「ええ、王子達の前で私は人型になりましたので。相当驚かれていましたよ。」

「だろうね、俺も今まだ信じられないくらいだよ。でも千しか知らない事ばかりだったし。」

「紫月の事なら千の時の記憶だけど知っている事沢山あるからいつでも聞いて。」

「・・・・・・俺が千の事を好きなのも知っているのか?」

「もちろん、だって想いを伝えてくれたじゃない。」

「あー!!忘れてくれよ。もう昔の事だし。」

「それは無理だよ~記憶に残っているからね~」

とニヤニヤ笑うと紫月は

「確かに千の時と比べたら意地悪だな。」

と顔を真っ赤にして不貞腐れるような言い方で返して来た。

「それじゃあ、お弁当食べようよ!メイドさん達が紫月と食べるならって作ってくれたんだよ。」

「お!お腹空いてたし、頂こうかな。」

「うん!!」

千の時は紫月は小さい青年のように思っていたけれども、今じゃ大きな体格をした立派な大人に見えた。

それでも、あの時のように話せているのはとても幸せな事だろう。


私達はお腹が空いていたからかお弁当が思っていたよりも早く無くなってしまった。

「じゃあ、そろそろ帰ろうかな。」

と私とサクラは紫月がもう旅館で働きに行かないといけない時間になってきたのでお暇する事にした。

「ああ、またいつでも来いよ。」

「うん、あのさもし嫌じゃなかったら翼君のお墓に手を合わさせて欲しいんだけど良いかな。」

「良いのか?」

「もちろん、でも翼君は私に会うのは嫌だったりするかな?」

「そんな事は無いよ。多分許して欲しいと思っていると思うんだ。だから翼の墓に話掛けてやってくれないか?」

「分かった。」

と言って私達は紫月の家を出る村の外に繋がる門の近くに紫月は向かう。私とサクラも一緒に向かうと紫月のお母さんとお父さん、そしてもう一つお墓があった。

「ここに翼君は眠っているんだね。」

と言い私は手を合わせた。

「翼君、千だよ。見た目は女の子になっているから困っちゃうよね。でもね千の時の記憶を持ったまま生まれ変わったの。あの日の事を紫月から翼君が思い詰めて居た事を聞いたよ、でもね翼君は何もしていないよ。大丈夫、千に向けた銃は紫妃という悪い奴が持たせた武器で翼君は操られていただけだよ。

千も私もそれは分かっているから安心して?それにね、千が死んだのは自分で首を切ったから。辛い現場を目撃させてしまってごめんね。あの時はそれしか方法が無かったの、だかた翼君が傷つけた傷が原因で死んだ訳じゃないんだよ。翼君が生まれ変わったらまたお話ししたいな。またおにぎり一緒に食べようよ。きっとまた会えるって信じているから。」

紫月は私の言葉を聞いて泣いている。

翼君が亡くなった時の事をきっと思い出したのだろう。

「ありがとうな。」

と言って涙を拭く。

「紫月の事も私とサクラが居るから大丈夫だよ。」

と言うと紫月が地面に座り込んで泣き出した。

「紫月、一人で抱え込ませてごめんね。でももう一人で抱え込まないで、私は戻ってきたからサクラも居るしいつでも会いに来るから。だから一人で抱え込まないで。」

私は手を合わせていたのを解き紫月の背中を撫でようと紫月の方を見ると紫月の背後に翼君が立っていた。

サクラを見るとサクラも見えて居るのか私の顔を見てきた。

「紫月、紫月。翼君が・・・」

と言うと紫月は大粒の涙を流しながら顔を上げたので背後を指さすと紫月は目を大きく見開かせて

「つばさ?」

と聞いた。

「兄ちゃん、ごめんね。」

と半透明の翼君が言う。

「俺、ずっと兄ちゃんに謝りたかった。兄ちゃんに辛い思いばかりさせてごめんね。」

「翼、兄ちゃんはお前さえ生きていればと何度も思ったよ。翼がした事は決して許される事じゃ無くてもそれでも翼が本心で誰かを傷つける子じゃない事は誰よりも兄ちゃんが知って居るんだ。なのに・・・・翼が苦しんでいる事に気付いてやれなくてごめんな。もっと傍に居てあげたら翼を失う事は無かったのに。」

「そんな事無いよ。兄ちゃん俺はずっと兄ちゃんの心の中に居るから。・・・・・それと千兄ちゃん、お腹痛くない?」

と私の方を見てきた。

「・・・・・痛くないよ。翼君、怖い思いさせてごめんね。本当にごめんね。」

「千兄ちゃんは悪くないよ。僕があの時龍神様が暖かいオレンジ魂を運ぶのを見て良いなってもっと近くで見たいなって思ったの。それをね兄ちゃんが付けてたブレスレットが叶えてあげるって言うか俺ブレスレットを付けて龍神様に会いに行ったの。そうしたら身体が上手く動かなくて。あのね俺が今日ここに来れたのも千兄ちゃんが呼びかけてくれたから。俺あの日からずっと兄ちゃんの傍に居てたけど見てもらえなくて。そうしたら何処に行ったら良いのか分からなかったの。」

「そうか・・・・もう迷わない方法が一つだけある。でも、紫月・・・」

と紫月の方を見た。紫月は瞬きもしないでジッと翼君を見ている。きっと私が知っている事を話せば翼君は成仏出来る。でもそれは同時に翼君の魂と会えなくなるという事だ。紫月が本当に一人になってしまう。私はそれが分かったから、寂しい気持ちも分かるから言葉が詰まった。しかし紫月は

「良いんだ、翼がここに居てては良くない。寂しいけれども翼はちゃんと父さんと母さんの所に行かなくちゃならない。兄ちゃんは平気だから、一人じゃ無いから。翼心配するな。」

と言って触れられない翼君の頭を撫でる。

触れられないのを見ると余計に今目の前に見える翼君はもうこの世には存在出来ない魂なのだと実感させられる。

「分かった。翼君妖怪の村の丘に眠る龍神様って分かるよね、その龍神様の所に行って龍神様の顔が向いている天に向かって真っ直ぐに飛ぶの。そうすると迎え入れてくれるからきっとお父さんとお母さんに会えるよ。」

「本当?」

「うん、私は何度も迷える魂がそうやって昇る所を見たよ。」

「ありがとう千兄ちゃん。後一つだけ伝えたい事があるの。」

「なあに?」

「紫妃は、俺の事を操っていた紫妃はまだ生きているよ。」

「え?」

「俺紫妃という男がブレスレットを通じて話しかけてきたから、死んだ後探したらまだ生きてた。前に戦で攻めた場所があったでしょう?千兄ちゃんが死ぬ前に戦った戦の近くにそいつのお城があるよ。そこを潰して。もう二度と俺のような人を出さないで。」

「分かった。約束する。」

「ありがとう。じゃあ、兄ちゃん、俺そろそろ逝くね。」

「ああ、父さんと母さんにちゃんと会うんだぞ。良いな。」

「うん!天から兄ちゃんの事を見守っているからね。」

「ああ、ありがとう。さよならは言わないからな、また会えるのを待っているからな。」

「うん、兄ちゃん行ってきます。」

「行ってらっしゃい。」

その言葉を最後に翼君は見えなくなった。

「今日は凄い経験をしてる。千は戻ってきたし、翼とまた会えた。」

と涙を流しながら暫く翼君の方を見て紫月が言う。

「そうだね、翼君ずっと心配だったんだね。」

「ああ、兄ちゃんとして失格だよな。」

「そんな事は無いよ、それだけ翼君の事が大事だって事だもん。」

「ありがとうな。」

「それと翼君が言っていた紫妃についても知れて良かった。」

「ああ、紫妃が生きているなんて事は翼にしか分からない事だったもんな。」

「うん。翼君が迷える魂になりながらも探し続けてくれていたんだね。」

「あいつは諦めて居なかったんだな。俺もこうしちゃいられねーな!翼の為にも生きなくちゃいけない!」

「そうだね、私も翼君が教えてくれた事を兄さん達に協力して貰って探してみるよ。」

「ああ!俺も協力する!」

「ありがとう。そうしたら私は一旦四葉さんに家に寄ってみるよ。」

「何でそこに四葉さんの家に寄る必要があるんだよ。」

「それは紫月が兄さん達から頼まれても作らなかった痛み止めを作る為だよ。もう薬草が無いかもしれないけれどもそれがあれば紫妃との戦いも出来るでしょ?」

「ウッ、兄王子達俺が無視しているの怒ってたか?」

「怒っていないけれど、希生だけが俺がわざわざ暑い中会いに行ったのに出て来ないなんてどうかしていると文句は言ってたけれどね。」

「やっぱり怒っているんじゃないか~」

と項垂れる紫月に私は肩をポンポンと軽く叩いて慰めた。

「そんな哀れな目で俺を見るなー!!!」

と紫月は騒いだ。

「・・・・という訳で私は紫妃を倒しに行きたいと思います。」

と私は王子の会議で発言した。

「何を言っているんだ?紫妃が何だって?」

と鏡夜兄さんが私に聞いてくる。

「だから、翼君によると紫妃がまだ生きているんだって。」

「それでまだ六歳の春がどうしてそんな奴を倒しに行くのさ。」

「だって、紫妃を倒さないとまた翼君や操られた奴隷民みたいに誰かが誰かを傷つける事になるかもしれないでしょ?」

「確かにその気持ちは分かるが、今の春では無理なんじゃ無いのか?」

「分かっているよ、だから兄さん達に頼んでいるんじゃない。」

「どういう事だ?」

「協力してって事。鏡夜兄さん分かってないな~。」

と私はソファに座りながら腕組みをする。

鏡夜兄さんはまだ分かっていないのかキョトンとした顔だったが新一兄さんは

「なるほどね~春がしたい事は分かるけれど、それで紫妃が倒されて何か利益が無いと攻められなく無い?」

と聞いて来た。

「きっとそう言うだろうと思った。紫妃が居る場所が私達が以前戦が勝った領地に居るという事は理由にならないの?」

「それだと話合いになるかな~。」

「それなら隊の皆を連れて行かないで王子達だけで行ったら駄目なの?私の付き添いとして」

「うーん、俺達全員は難しいかもよ~。」

と悩む新一兄さんに私はしがみついて

「ねえ、兄さんどうにかしてよ!翼君と約束しちゃったんだもん。」

と泣きつく。するとさっきまで黙って聞いていた龍次兄さんが

「それなら新一兄さんと俺と希生で行ったらどうだろうか?」

と言ってきた。

「どういう事?」

と新一兄さんが聞くと

「だって鏡夜と楓は遠距離でも攻撃が可能だろう?場所的には遠くても鏡夜の今の力なら言っている場所までの範囲は見れるはず。それに楓のお守りがあれば遠くでも闇使いの能力は発揮されるだろう?」

と自信ありげに言う。

「俺の闇使いの能力凄い疲れるんだけど・・・・」

と楓兄さんはボソボソ言ったが、私は楓兄さんに

「楓兄さん駄目かな?」

と聞くと

「春が頼むなら良いよ。龍次兄さんが言うのが気に食わなかっただけだから。」

と言って承諾してくれた。

鏡夜兄さんを見ると地図を広げて城の位置を確認している。

「この辺かな。」

と机に地図を広げ皆に見えるようにする。城がある所は戦で勝った時の視察に行けていない部分だった。

「この場所らへんなら視察に行けなかったからあっても変じゃないよ。王様には視察の続きにして隊を出して貰うことも出来そうだけど新一兄さんはどうする?」

「なるほどね、視察に行った所なら誰かしら見つけて来るもんな~。よし、分かった。視察の続きとして部隊を出して春ははじめと千賀に守られながら見学という事で連れて行くことにしよう。一度視察に行っているから安全だと王様達も納得してくれるだろう。」

「ありがとう!兄さん達!」

と嬉しくて新一兄さんの足にギュウと抱きしめると

「俺今妹が出来て本当に良かったと心から思うわ。」

と泣き始めたので、新一兄さんが急に頼もしい兄から気持ち悪い兄に見えたのでソッと離れた。

新一兄さんは泣きながら

「何で離れるんだよ~。」

と叫ぶが私はすぐに希生の傍に行って背後に隠れた。

希生とは春になってからとても仲良くなった。千の時も仲が良かったがそれは兄として接していただけで今の春としては女の子の気持ちが分かる希生は最高の弟であり友達だった。

毎日私の髪の毛を結ってくれる希生は雑誌を見ながら今日はこの髪型にしようとかこの服可愛いから造ってくるねと言っては大量に服を造ってくれる。

サクラは最初は

「洋服はサクラ自身が買うので」

と遠慮していたが、希生がこれが楽しみの一つだからと言って聞いてくれなかったと嘆いていた。

私はクローゼットに入らない大量の服達を眺めながら希生が妹である歳の子を兄弟として迎え入れてくれることが嬉しかった。

希生は私が背後に隠れたのを見てヨシヨシと慰めながら

「新一兄さん何かと女の子がここに居るって言って煩いんだよ。春の教育の為にも良くないから今すぐその考え止めた方が良いよ。気持ち悪い。」

とハッキリと言ってくれる。

私も背後からウンウンと頷くと

「酷い!本当に酷い!お兄ちゃん傷ついた!春お願いだからお兄ちゃん大丈夫?って言って!」

と新一兄さんが喚くので

「新一兄さん、頭大丈夫?」

と聞くと

「もう良い!!俺これから父さんの所に行って許可取ってくるからここで皆待ってて!勝手に帰ったりしないでね!」

と言って王子の間を出て行った。

新一兄さんが居なくなると私達はそれぞれ帰る支度をした。

誰一人新一兄さんの帰りを待とうとは言わなかった。



「お兄ちゃん必死に許可を取りに行ったのに誰も待っててくれなかった。」

と朝から泣くのは新一兄さんである。

あの後無事に王様に許可を取ることが出来て、私と新一兄さんと龍次兄さん、希生とそれぞれの隊で視察に行くことになった。

村人達が相当の人数が出かけるのに驚いていたが私の初めての視察との事で派手にお見送りをしてくれた。

私は獣化したサクラの背中に乗って背中には武器の扇子を持った。

千の頃とは武器が違うが能力は全く同じである。

ただ、千の時は能力を使わずに戦に言っていた為能力はあまり分かっていなかったが、村で習った授業では私は扇子を使って能力が発揮することが分かった。

私が率いる隊には亜廉兄さん事歴史の先生も同行した。

亜廉兄さんと亜廉の両親には私が千の記憶を持って生まれた事を伝えてあった。

最初は何をバカな事をと言った顔をしていたが私が家族しか知らない事や王子として認められ千と同じ数字が入って居る事を伝えると信じてくれてお母さんは涙を流して抱きしめてくれた。

それから亜廉先生の保護が更に増して村の外に出る時や戦に行く時は必ず私に同行する事を爺様に許可を得たらしい。

私の今の両親も先生が一緒ならと言って先生の私への保護の暴走を止めてくれなかった。

「春、良いか。先生の言うことをちゃんと聞けよ。もう二度と千のようにあんな事をしては駄目だぞ?良いな。」

と何度も出発する時に約束をさせられた。

そしてはじめや千賀にも

「全力で春を守るように」

と言って約束をしていた。

「それでお守りは春が持っているんだっけ?」

と新一兄さんが歩きながら私の方を向いて言う。

「楓兄さんから貰ったお守りならここにあるよ。」

と私は首から提げた猫の形をしたお守りを見せると

「それは春が危ない時に使えよ。俺達の為には使うなよ、勿体ないから。」

「これで帰り一気に帰ろうと思ったのに~。」

「それは流石に楓に怒られるだろう~。」

と新一兄さんが言う。私はちぇっと心で思いながらお守りを閉まった。

「ここが城か。」

視察を開始してから三ヶ月が経過していた。

ここに来るまで私は久しぶりに跡地を見た。千の時にも思ったが跡地は何も残っておらずあの時は私は必死だったから気づかなかったが沢山の森達に囲まれていたのを今更になって知った。

そして森を抜け先にあったのが大きな城だった。

私達は遠くから城を見る。近づけられない理由があった。それは城の前に沢山土偶だと思われる兵士が居るからだ。近づきたいが近づけば動くかも知れないという理由で動けなかった。

「どうする?」

と龍次兄さんが新一兄さんに聞く。新一兄さんは何か必死に考えているが何も思い着かないのだろう。

城の反対側に行きたくても兵士達に見つかる可能性の方が高いのだ。

「あっちの川から攻められたら良いのだけど、そうすると森を抜けて崖を登り川の方に降らないといけない。崖は敵から丸見えだからな攻められたって分かれば攻撃してくるだろう。それに春の話では人を操れるらしいからな。そういう能力が物を使わずに出来るならあの兵士達をこっちに攻撃する事なんて簡単だろう。」

と悩んでいる。私は

「あの兵士達が居なくなれば良いの?」

「ああ、一斉に何か出来るなら良いんだが爆弾もこの距離だと出来ないしな~。」

「私があの兵士倒しても良いの?」

「何を言っているんだ!春はそんな事出来ないだろ?」

「分かんない、でもやってみるね~」

と言って私は一人森から抜け出し兵士達の近くまで降りると背中に背負った背丈ほどの扇子を広げて舞い上がらせた。

風がどこから吹くのか扇子の動きで確かめながら軌道を読む。

私は落ちてくる扇子を掴み地面に刺すと思いっきり風を起こした。

私は風を起こしながら空気中の水を針のような形に出来る。それを一気に空気で押し流す事で無数の針を一気に放出する事が出来るのだ。私の身体では一回や二回では全部を倒しきれなかったがサクラも協力して私の針を避けながら兵士達を鋭い爪で攻撃してくれたので兵士達が私達に攻撃してくるまでに全てを倒しきった。

「はあー疲れた。」

と私は扇子を地面に置いてしゃがむと後ろからはじめが近づいてきて

「大丈夫か?」

と聞いて来た。

「なんとか、やっぱりまだ小さい身体じゃ一気にあの数の兵士を倒せなかった。出来るかなと思ったけれどもまだ難しかった~。」

と言うとはじめの化け狐に私を乗せながらはじめは

「その年齢であの兵士をあそこまで倒せたなら十分だろ。」

と言ってきた。

「もっと成長すれば戦にも使えるかもしれないね。」

と言うと

「恐ろしい武器になりそうだな。」

と褒めてくれた。

私達は兵士の亡骸を踏みながら城に近づく。

兵士達は乾いた粘土のような土で出来ていた。その土を踏みながら城に近づくと黒くて錆びた建物が見える。

城というより黒い大きな建物が目の前に大きく建っていた。

「普通に訪ねても大丈夫なんだろうか?」

と龍次兄さんが言う。私達は土偶の兵士達が壊されたら何かしら紫妃が攻撃してくると思っていたのだ。

しかし何も起こらない。

「分からないけれども中に本当に紫妃が居るのかも分からない。全員が行くのでは無くてまずは一番上の俺が・・・・」

と新一兄さんが言いかけた時に隊の後ろの方で

「ギャアアアアアアアアア」

と叫び声が聞こえた。

私は必死にその声を見ようとしたが人型になったサクラに抱きかかえられた。

「皆!建物の中に入れ!」

と言う声が聞こえる。その声と共に皆が一斉に入ろうとするが入り口は狭く全員が一気には入れない。サクラもその声に従って建物の中に入ろうとするが全員がパニックになっている為なかなか思うように動けなくなっていた。

「サクラ!待って落ちいて!何が起きているの?」

と聞くと

「後ろの隊が前に居る人を次々と攻撃しているのです!どうもあの時と感じが似ています。」

「あの時って?」

「貴方を千を殺そうとして来た村人達です!!!」

「じゃあ、やっぱりここに紫妃は居るんだね?」

「そうとしか考えられない!っくそ!中に入らなければ私達も操られる。」

「待って落ち着いてよ!サクラ!!」

私の声が聞こえないのかサクラは後ろからの流れに沿うように建物の中に入った。

サクラは私を抱えて建物の中を走る。

いつの間にか新一兄さんと龍次兄さん、希生とも離れしまった。

「サクラ!止まって!」

と叫ぶとサクラがピタッと、ある部屋に着いて止まった。

部屋に蝋燭の灯りが小さく灯されていて一人の男がそこに座っていた。

「お前が千か。」

とその男が私に言う。

「お前が来るのをずっと待っていた。」

「誰?」

「この顔に見覚えが無いか?」

と蝋燭の傍にその男は顔を照らす。その男はあの時村で会った小太りの男だった。

「お前は!!」

と言うと

「思い出したか。私が誰か分かるか?」

「お前紫妃だな。」

「ははっそうだ。よく分かったな。」

「何の恨みがあって私をここに呼んだ?」

「お前が化け狐の一族だからだ。」

「どういう事?」

「俺は化け狐の一族の王子として生まれた。しかし兄弟の盃を交わした兄達は俺よりも強く威張っていた。俺はそこで禁断書を目にしたんだ。

それが化け狐の妖力を喰うと力が強くなるって事を。俺はそれから俺を器にした化け狐から喰い殺し両親の化け狐も喰い殺した。

そんな事が続くと化け狐達が異様な形で遺体として発見されるのに疑問を持った長が俺に疑惑の目を持ち始めて疑われるようになった。

俺は暫くは化け狐を殺す事を止めていたが戦がある度に俺の力の限界を知った。そこで暇さえあれば村に帰り化け狐を殺し続けた。そんな行動を見たのがお前の先祖だった。お前の先祖は俺の行動を監視するように長に頼まれていたらしい、そんな事を知らない俺は堂々と化け狐を殺していた訳だ。そしてお前の先祖に取り押さえられ皆の前で処刑された。

ただ、俺は首を切られても死にはしなかった。

それは化け狐を喰っていたから一度殺されたくらいでは死にはしなかった。

ただ、俺の身体は今は墓土で出来ている。生きた身体では無い。

その身体を手に入れる為に龍神の血が欲しかったのだ。時代と共に生きている龍神の血が必要なのだ。なのにお前と来たら何だ?男のくせに同性を好きになって腑抜け、戦でも活躍するわけでもなく地味に戦い、挙げ句の果てに自ら死ぬとは。王子として情けないと思わないのか?」

「何が情けないの?私は私としての王子としての人生を歩んだだけ。貴方は王子という肩書きを使って私利私欲で化け狐を喰い殺して誰かの為に何かをしたわけじゃないじゃない。」

「誰かの為だって?」

「そうよ、王子として生まれたからには誰かの為に行動するのが当たり前でしょ?」

「そんな腑抜けた王子など誰も求めては居ない。」

「そうかな、今の国や村ではそういう王子を求めている気がするしもし紫妃みたいな強い王子が求められて居たのならどうして貴方は処刑されたの?」

「煩い!煩い!煩い!!」

「そうやって周りの声を聞かなくちゃ孤独になるだけだよ。」

と言うとサクラが私の首を急に持ち絞めてきた。

「黙れ!!この役立たずが!!お前の化け狐は俺の支配下だ。お前が泣き叫ぼうと聞きはしない。」

と紫妃が言う。私は嘘だと思いながらサクラを見るとサクラは何処か遠い所を見て私の首を絞めている。

「どうだ!お前が一番信頼している者に殺される気分は!!」

と紫妃が私に近づいてきた。

私は苦しさから顔を歪ませて一生懸命サクラの手から逃れようとするがサクラの力は強く逃げられることが出来ない。

「苦しいか?苦しいだろう。もっと苦しめ!!お前の血肉を喰えば俺はもっと力が手に入る!王子の数字を持つ者を喰えば魂が強くなる。そうすれば龍神を裂き血肉を手に入れる事も容易だ!こんな墓土で出来た身体なんぞ今日でおしまいだ!!」

と叫び声に近い声で私に向かって吠える。

私は苦しさから涙が出てきて

「サクラ・・・」

と名前を呼ぶとサクラは焦点が合わない目で私を見ていた。

「ほら!!化け狐こいつの首を捻り潰せ!!何をやっているんだ!早く殺せ!!」

と言ったがサクラは微動だにしない。

「何をやっているんだ!こいつを殺せ!!」

と紫妃がサクラに蹴りを入れる。サクラは小さく

「千・・・」

と言った。

「サクラ、目を覚ませ。」

と苦しみながらも私は力を振り絞って言う。サクラの目には涙が溜まり

「千・・・・・春・・・・・」

と言った。

「この根性無しが!!」

と紫妃はサクラを思いっきり蹴り飛ばし私は床に叩き付けられた。

サクラも同様に叩き付けられたのか床に横向けになって固まって居る。

「くそ!くそ!この根性無しが手間取らせやがって!!仕方ない、俺様が直々に千を殺してやろう。」

と腰に付けていた剣を抜く。私は呼吸が乱れただけでは無く恐怖で身体が動かなくなってしまっていた。

少しずつ剣を構えながら近づいてくる紫妃に私はただ後ずさりする事しか出来ない。

「死ねーーーーー!!!!!!!!!」

と叫び大きく振りかぶった剣が私の頭上めがけて振って来る。私は目を瞑って固まった。

「ザン!!!!」

と何かが刺さる音がする。

しかし痛みは無い。ボタボタと私の頭に温かい液体が降ってきた。

私は恐る恐る目を開けるとサクラが私の事を庇って攻撃を肩に受けていた。

サクラの肩は刃物でぱっくりと割れていて大量の血が流れてきている。

「サクラ!!!」

と涙声で叫ぶとサクラは傷を庇いながら横に倒れた。

「先程はすみません、苦しかったでしょう。」

と掠れる声で言う。

「サクラ!!死んじゃ嫌だよ!!サクラ!!」

とサクラの傷口を一生懸命手で押さえるが血が止まらずどんどん溢れてくる。

「どうしたら良いの?分からない!!」

と私は泣き叫ぶ。そんな私達が面白いのか紫妃が笑いながら近寄ってきた。

「化け狐を助けて欲しいか?ならばお前の身体を今すぐ俺に渡せ!!そして龍神を殺させろ!!」

と私の髪の毛を引っ張って持ち上げる。

私はブチブチと言わす髪の毛の痛みに耐えながらどうしたら良いのか必死に考えた。

私は胸元を強く握り絞めながら大きな声で

「紫妃の身体を壊せ!!」

と叫んだ。

すると首から提げていた楓兄さんのお守りが光って胸元から黒い猫が大量に現れて紫妃は私の髪の毛から手を離し私は尻餅をついた。

大量の猫は固まって人の形になりやがて楓兄さんになった。

「よくも、俺の妹に手を出したな!!」

と言って闇の力を目覚めさせ巨大な猫の爪の形にすると鋭い爪で紫妃の身体を裂いた。

紫妃は爪で攻撃されてもなお立ち上がろうとするが血も一滴も出ないその土偶はバランスを崩して土に帰り

「クソ・・・お前等のこと死んでも呪ってやるからな・・・」

という言葉を最期に家の隙間から入ってきた風に吹かれて消えた。


「春大丈夫か?」

と黒い影の楓兄さんが私に聞いて来た。

「大丈夫・・・サクラ、サクラは・・・」

と私は止まらない涙を零しながらサクラを探す。

サクラは血だらけになったまま横たわっている。

「楓兄さんどうしよう、サクラが・・・」

「おい、サクラ大丈夫か?」

楓兄さんはサクラの怪我の具合を見て

「春、何か布とかあるか?」

「この腰巻きの手拭いなら・・・・」

「それをくれ」

と言われて私は差し出す。

サクラの傍に行くとサクラは痛みで顔が歪み額には大量の汗が噴き出ていた。

「サクラ死んじゃうの嫌だよ。どうしよう。痛みでも取れたら・・・・そうだ!!楓兄さん!!止血の前にこの薬を塗りたい!!」

と言って胸ポケットに入っている紫月の村で採れる薬草で作った痛み止めを出した。

「お前、それどうしたんだよ!」

と楓兄さん聞くので

「ここに来る前に四葉さんの家に寄って薬草で薬を作ってきたの。いざという時に薬に立つかもって思って。」

「良い考えだったな。この薬を塗って、おいサクラ痛いと思うが痛み止めを塗るぞ。」

と言って楓兄さんがサクラを支えながら塗っていく。私は傷口に触れられて痛いのか痛みを堪えるサクラをただ見守るしか無かった。

楓兄さんの処置は早くサクラを手早く止血してくれた。

「そういえば新一兄さんと龍次兄さん、希生はどうした?」

「きっと下の入り口で部隊が乱れて内部争いになったのを止めている所だと思うよ。」

「何だ?それ、内部争いに何でなるんだ?」

とサクラを影の力で作った巨大の猫の背中に乗せながら楓兄さんと一緒に建物の出口に向かう。

「多分、紫妃の力だと思うんだ。操られた隊が急に仲間を襲ったの。」

「なるほどな、多分紫妃が死んでもう操られてはいないと思うが用心して行かないとな。」

「うん。」

と言って楓兄さんに連れられて行くと入り口の扉の所で人々が倒れ込んでいた。

「大丈夫?」

と聞くと

「その声は!!マイシスター!!」

と声が聞こえた。

「無事か!マイシスター!!」

とまた聞こえたので

「その声は龍次兄さん?」

と聞くと積み重なった隊の下から手が伸びて来て龍次兄さんが顔を覗かせた。

「いや~参った!暑いし!臭い!!」

と叫び声を上げるのは新一兄さんだった。

皆大きな怪我は無いようで

「操られた人はもう居ないの?」

と楓兄さんが新一兄さんに聞くと

「あれ?楓何でここに居るんだ?もう操られた奴は居ないと思う、暴れていたコイツらを押さえてたら急に倒れこんで来たんだよ。」

「なるほどね、後サクラが重傷負ったから先にサクラだけでも国に送るけど他に一緒に先に帰りたい奴居る?」

「えー!サクラだけずるいぞ!お兄ちゃん達も運んでくれよ!」

「それは無理。普通に疲れるから嫌だ。」

「「「えー!!」」」

と希生も起き上がって聞いていたのか新一兄さんと龍次兄さん、希生が駄々をこねた。

「春、良いか?緊急事態だからサクラを国に連れて帰るけれどもお前は皆と一緒に帰って来い。お前が一緒だとスピードも落ちるからな、一刻も早くサクラを助けたかったら我慢しろ。いいな?」

「分かった。新一兄さん達とゆっくり帰るよ。」

「よし!サクラ行くぞ!!」

と言って楓兄さんは建物からサクラを連れて行ってしまった。

「あの時は大変だったよね。サクラが大けがするし、私はその後高熱出すしで帰りはクタクタだったのを今でも覚えているわ。」

と私はあれから数年が経過しても眠り続ける四葉さんに向かって話す。

たまたま今日あの時の夢を思い出したのだ。

あの時私は帰ったら四葉さんが目を覚ましていると思っていた。でも現実は違って四葉さんは私が18歳になってもまだ眠り続けている。

今日はたまたま早起きをしてサクラの目を盗みここにやってきた。

「サクラはあれから大変だったの、傷がかなり深くまで行っててね。でも四葉さんが見つけてくれた薬が効果があって傷口がそこまで酷くなる前に縫い合わせる事が出来て命が救われたの。四葉さんが紫月の村の薬に気づかなかったら今頃サクラは死んでいたわ。サクラの命を救ってくれて有り難う。」

四葉さんの顔を見ると安らかな顔で眠っている龍が見える。

龍は相変わらず綺麗で薄水色をした鱗が太陽の光に照らされて白く見える。

まるで四葉さんの色白の手のように見えるその姿は益々四葉さんを恋しく思わせる。

「四葉さんはいつになったら目が覚めるのかな?このままだと私お祖母ちゃんになっちゃうよ。フフフきっとそうなったら四葉さん私の事分からないかもしれないね。でも私が四葉さんの事すぐに気が付くからね。きっと腰が曲がって白髪になって目が見えなくなっても耳が聞こえなくなっても四葉さんの事気が付くつと思うよ。だって生まれ変わっても大好きなんだもん。そう言えばね新一兄さんが新しく掟を作ったの。何だと思う?それはね毎年お祭りの時は気球を上げること。その光を頼りに迷える魂の子供も大人も天に昇らせて上げられるようにって。凄いでしょ?発案は私だよ、四葉さんが居なくなってから迷える子供の魂が増えてね中には悪さする子も出てきたからどうにか出来ないかなと思って考えたの。それでこの間の王子の会議で言ってみたら皆で死者を想って気球を毎年上げようってなったんだ。きっとこれで迷える魂は真っ直ぐに天を飛べるよね?

ねえ、また四葉さんと一緒に気球を上げたいな~。もしまたあの恋が叶うブレスレットがあったら多分また同じ事を思うと思うんだ、四葉さんと一緒に水色の天が見たいってまた思うと思う。」

四葉さんに何度話掛けてもあの微笑みが返ってくる事は無いし、返事も無い。

でもそれでも私は毎日語りかける。

四葉さんに私の想いが届くまで。



「春祖母ちゃん!!」

と私を呼ぶのは梅だ。

亜廉兄さんの孫に当たり私を本当のお祖母ちゃんのように接してくれる。

「梅~待ちなさいな。」

と歳を取って動きづらくなったヨボヨボの足を動かして追いかける。

梅はピンクの浴衣を着て

「早く行かないと気球が全部売られて上げられなくなっちゃう!」

と膨れっ面をする梅はとても愛らしく私は小走りする幼い梅を追いかけながら

「分かりましたよ~分かりました。ほら今行くから待ちなさいな。」

と言って財布を片手に梅を追いかける。

今日は毎年行われている祭りの日だ。新一兄さんが作った掟によってあれから毎年国中が同じ日にお祭りをする。

人々は様々な国にお出かけしちょっとした旅行をするのだ。

私達はあれから大きな戦はしなかった。理由は戦をしなくても協定を結んでくる国が多かったから。

戦が無い平和な土地で皆が笑顔で過ごせるのならと私達の国の王様達が話し合って戦をなるべく避けながら平和に領土拡大に成功したのだ。

「春お祖母ちゃん早くってば~!!」

と小さい紅葉のような手で引っ張ってくる梅に私は

「はいはい。」

と言いながら妖怪の村に来た。

妖怪の村は相変わらず人気でどの国寄りも妖怪の村のお祭りは賑やかだった。

私は四葉さんのお店を通る時にチラッと中を覗いた。

あれから四葉さんのお店は時々私が四葉さんの代わりに薬を作るようになった。

年老いて戦の練習が出来なくなった日からは頻繁に訪れては薬草の研究をしていた。

いつか四葉さんが帰ってきた時に薬草がもっと人々の為に役立っていると分かればきっと喜ぶだろうと思って私は毎日このお店に通っている。

「今日はお店休みでしょ~?」

と店の前から動かなくなった私を急かすようにして梅が私の身体を引っ張る。

私はまた思いにふけっていたのを振り払ってまた歩き出す。

歳を取ると耳が遠く感じるからか昔よりお祭りの騒がしさが静かに感じる。

目も見えづらくなって昔よりは出店が輝いて見えなくなっていた。

私は若い頃から比べたら動きづらくなった身体を無理矢理動かして梅の後を追う。

梅は気球売り場の前に行くと両手で持てるくらいの大きな気球を一つ手に取った。

その気球には色々文字が書かれていてこの文字は村の子供達がそれぞれ描いたのだと出店のおじさんが言う。

私はお金を払うと梅が

「今日はあの丘で気球を上げようよ!いつも村の所で上げるから春お祖母ちゃんが大好きな四葉さんに見せてあげようよ。きっと喜ぶよ。」

と言って私の手を引っ張る。

四葉さんの事は皆が知っている。私と四葉さんの話を雷夏が本にして売った事をきっかけに国中の人達がその本を手に取り毎日のように眠り続ける四葉さんに花束を持って行く人が増え私だけの時間が減った。

最初は雷夏に時間が減ったことを文句を言ったが雷夏は

「きっとそれだけの人が毎日来てくれて四葉さんも幸せよ。」

と言ったのでそれ以上文句が言えなくなった。四葉さんが幸せなら良いと思ったのだ。

私の幸せの基準には常に四葉さんが居た。

四葉さんが幸せなら、四葉さんが嬉しいと思うならと思うと私も幸せに、嬉しく思うのだ。

兄弟や爺様達から散々私に見合いを勧められたが全て断った。

私の想い人は今も昔も四葉さんだけだから。

あの日私が花の都で会った四葉さんの姿が私は忘れられないのだ。

桜の木の下で桜の花びらに舞って長い髪を揺らす姿はまるで桜の精霊のように思えた。

あの時の私はきっと一目惚れをしたのだろう。

当時の私は幼く恋を知らなかったから分からなかったが、今の私なら分かる。

あの日から私は四葉さんに恋をし続けているのだ。


「お祖母ちゃんこの辺で良いかな?」

と梅が気球を片手に振り返って聞いてくる。

梅の後ろには今日も静かに眠る四葉さんが居た。

「ええ、ここなら気球が綺麗に上がるでしょう。」

「よーし!じゃあお祖母ちゃん火を付けて!ほら!もう気球を上げている人達多いよ~!早くしないと遅れちゃうよ!」

と急かす梅に私は

「はいはい。」

と言いながら気球を梅に支えて貰いながらマッチの火を付ける。

「もう少し左かな?」

と梅が聞くので

「そうね、もう少し左の方が良いわね。そうそこだと綺麗に上がるわ、今手を離して。」

と言うと同時に梅が手を離す。

その気球は優しい風に吹かれながら夜空に向かって舞い上がる。

私はその気球をずっと見ていた。

気球の光の周りは白く水色に見える。

視力が悪くなってもその色だけは分かる。

きっとこの気球は他の気球と共に天高く飛びそして天に居る翼君達に会うのだ。

きっと翼君は喜んでくれるだろう。

「今年も沢山の気球が来た!」

と喜んでくれるだろう。

あの可愛い笑顔が夜空に浮かんだその時に強い風が吹いた。

私達が上げた気球が起動を乱しながら飛ばされていく。

「やだ~!気球が変な方向に飛ばされちゃう!!」

と梅が泣きそうになる。私が大丈夫だと言おうとしたとき

「大丈夫ですよ。」

と透き通る声が聞こえた。

「え?」

と梅がその声がした方を見るとそこに水色の着物を着た人が立っていた。

「大丈夫です。きっと天高く飛んでいきますよ。」

とその人が言う。

私はその声に時が止まったように思えた。

「貴方だーれ?」

と梅が聞く。私は思いも立っても居られずに

「四葉さん!!」

と叫んだ。

いつもゆっくりな行動しか出来ないのに私は走ってその人に駆け寄った。

その人は私がよろけながら近づいて来るのをしっかりと抱きしめた。

「四葉さん!四葉さん!!会いたかった。ずっと会いたかった。」

と涙を流す私を四葉さんが優しく抱きしめ頭を撫でる。

「なかなか戻って来れず、すみませんでした。」

と困った顔をする四葉さんは私が知っているずっと待ち焦がれていた四葉さんだ。

「ずっと聞いていましたよ。千の声ちゃんと届いてましたよ。」

と微笑む四葉さんの顔が涙で歪む。

やっと会えた。

あの日からずっと会いたかった人にやっと会えたのだ。

私はずっと言いたかった事を口にした

「四葉さん、ずっとお慕いしております。」

四葉さんは微笑んで

「私も千を、春をずっとお慕いしております。」

と言った。

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貴方を今でも私はお慕いしております 第二章 凛道桜嵐 @rindouourann

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