第99話 イモの探索者ライセンスは日本国内で取得出来ない。

授業も終わり放課後。俺は鞄を手にそそくさ学校を後にする。


俺が向かうのはイモの通う中学校。


自宅ダンジョン運営に必要となる3人のダンジョン管理責任者だが、年齢制限からイモの探索者ライセンスは日本国内で取得出来ない。


そのため海外。オリジン国へ向かうべく今日はイモと2人。パスポートセンターへ向かうわけだが……


正直、海外へ行くことに一抹の不安がある。


伝え聞くところによれば海外は市民の誰もが銃を持ち歩き、何かあれば即ぶっ放すという危険地帯。


俺のようなイケメンスレンダー美少年が1人うろつこうものなら即座に暗がりに連れ込まれ、口には銃を。ケツには巨棒を突っ込まれるのが落ちである。


男である俺ですらこれなのだから美少女天使であるイモが出歩こうものなら、その末路がどうなるかは火を見るより明らかというもの。


であれば、わざわざそのような危険を冒さずとも加志摩さんに名義貸しを頼めば良い。俺と母と加志摩さん。これでダンジョン管理責任者3名を満たすことが可能となる。


だが家族の中、自分1人だけが仲間外れとなることをイモは嫌がるだろう上に、家族以外の人間を介入させては将来的に権利関係で揉める恐れもある。


それを考えるとやはりイモを管理責任者とするのが一番なのだが……


「お兄様。こちらです」


そうこうするうち前方。校門前で片手を上げるイモの姿が見えてきた。


「イモ。待ったか?」


「いいえ。時間通りです。お兄様」


「この方がイモちゃんのお兄さん!?」

「イモちゃんの話のとおり素敵なお方……」

「ふひー。あ、あく、握手してください」

「まあ、イモの言うお兄様って当然こいつのことよね」


場所が場所だけに当然だが、イモの周囲にはクラスメイトだろう女生徒が付き添っていた。


「イモのお友達かな? イモがいつもお世話になっています」


せっかくなので俺は手を差し出し順番に握手する。


「は、はひー。柔らかくて綺麗な手。これが噂のイモ様のお兄様……」

「ひ、ひひー。逞しくて頼れる手。さすが探索者ランキング上位……」

「ふ、ふひー。お兄様になら私……抱いて……」


いったいイモは俺をどのように紹介しているのか? 俺はお兄様と呼ばれるような良家の人間ではなく探索者ランキングもたいした順位ではない。それがまるでアイドルか何かを見るような彼女たちの眼差しだが……


「何よ? 鼻の下伸ばしてキモイわね。アンタ、ロリコンだったの?」


残念ながら1人口の悪い女生徒がいるようで、最後に握手したその女生徒の髪色は金色。まさかイモの友達にとんでもないヤンキーがいたものであるが……


「お兄様。こちらの女性はオリジン国からの留学生で……」


「大丈夫。紹介は結構よ。アンタもいつまでアタシのこと知らんぷりしてるのよ?」


「え? お兄様とはなさん。お知り合いでしたか?」


「まあ……品川ダンジョンで少しな」


誰あろうオリジン国大使の娘である華さん。だが、日檻にちおりダンジョン同盟のなった今。


「てっきりオリジン国に帰ったものだと思っていたが……まさかイモと同じ中学に留学していたとは驚きだ」


「パパは駐日大使よ? 日本在住なんだから娘の私が帰国してどうするのよ」


別に親子だからといって同居する必要はなく、慣れない海外。親父を単身赴任させても良いと思うが。


「それより、なんでアンタが中学の校門前にいるのよ? やっぱりロリコンなの?」


失礼にも程がある。


「この後イモとパスポートの取得に行く。その待ち合わせというだけだ」


わざわざ中学校で待ち合わせる必要はないと言われればそうなのだが、最近の中学生は発育が良いのだから仕方がない。


「ふーん。てことはアンタたち。イモのライセンス取得にオリジン国へ行くってことよね?」


「その通りだが……華さん。何故にそれを知っているのだ?」


「だって留学の自己紹介。アタシが探索者ライセンス持ってるって言ったら、イモから色々聞かれたもの」


そういえば今回、探索者ライセンス取得にオリジン国へ向かおうというのはイモからの提案。どこでオリジン国のライセンス事情を知ったかと思えば、華さんから聞き出していたというわけだ。


「オリジン国へ行く日程が決まったら教えなさいよ? アタシが案内してあげるわ」


「マジで?!」


「マジよ。アタシと一緒だといろいろ便宜を図れるわよ? ダンジョンも案内できるしね」


そんな俺たちの会話。


「すみません。華さん。オリジン国からの留学生としか聞いていなかったのですが……そのような権限があるのですか?」


イモは知らなかったのだろう。疑問を呈していた。


「ええ。騒ぎになっても嫌だから先生には黙ってて貰ってるけど……アタシ国内ではちょっとした立場にあるから」


確かに駐日大使の娘などというVIPが公立中学校へ留学するなら騒ぎとなりかねない。身分を隠すのは分かるが……それを言うなら何故に公立中学校へ留学するのか? 普通に考えれば設備もセキュリティも整う私立中学校の方が安全だと思うのだが……まあ、オリジン国の予算の都合だろう。多分。


「案内してくれるのは有難いが、大使を置いて華さんだけ帰国して大丈夫なのか?」


「2、3日なら平気よ」


そうであるなら海外。オリジン国の治安に不安のあった俺の不安もなくなった。


「華さんありがとう。今日はイモとパスポートの取得に行ってくる。旅行の日程など詳しい話はまた後ほど相談させて欲しい。イモ。行こうか?」


「はい。それではみなさん、ごきげんよう」


手を振るお友達を後に俺とイモは並んで歩き校門前を離れる。


「ひそひそ。見ろよ。妹子いもこさんだ」

「ふひひ。あ、相変わらず美しいって、男が一緒に?」

「俺ら学園のアイドル妹子さんが、お、お、男と……」

「隣の男だれやろ? えらいイケメンやけど」

「クソビッチが。やっぱイケメンがええのんか……」


仲良く歩く俺たちを見て、下校中の生徒がひそひそ話す声が聞こえる。


「うーむ……イモ。随分と学校で人気があるんだな」


「お兄様もイケメンですから人気があるんじゃないですか?」


確かに俺は自他共に認めるイケメン。母も妹も美人である上、クソ親父はナンバー1ホストだったというのだから遺伝子的にはそのはずであるが……


人気の有無は外見だけで決まるものではない。


学校では大学推薦を得るために勉強一筋。放課後、休日はアルバイトに精を出しクラスメイトの誰とも親密な交流のない俺の姿。陰キャムーブ全開なのだから校内で人気など出ようはずがない。


「しかし……学校でのイモはイメージが変わるな」


自宅でのイモは末っ子にふさわしく幼く甘えん坊のイメージだが、それが学校ではずいぶんと大人びて知的に見える。


「それはそうです。私、学校では猫を被っていますから」


いつまでも子供のままではいられない。社会に出れば、大人びて見せねばならない時もあるというわけで、実際、今のイモは俺よりよほどしっかりして見える。


「でも、今はおにいちゃんと2人だから被らなくて良いよねー」


途端。ふにゃあと俺にもたれかかるイモの姿。


「待て待て。まだ早い。これからパスポートセンターに行くのだぞ?」


「そっかー。それじゃ……お兄様、急ぎましょう。平日の窓口は閉じるのが早いと聞きます」


パッと身体を離すと俺の先を歩くイモ。コツコツと足音まで違って聞こえるのだから大したものである。


その後、俺とイモはパスポートセンターで申請書を受け取り帰宅した。

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驚愕の自宅ダンジョン。いきなりチート暗黒魔導士デバフ無双で貧乏兄妹もふもふ暮らし。 くろげぶた @kuroge2022

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