5章。オリジン国ダンジョン。

第98話 挨拶する生徒の中、久しぶりに登校する生徒の姿があった。

公立究明高校 2年教室


自宅ダンジョンでの騒動の翌日。登校する学校。教室内。


「みんな……おはよう」


挨拶する生徒の中、久しぶりに登校する生徒の姿があった。


助田すけたさん! 久しぶりっす!」

「ずっと学校を休んでどうしたんすか?」

「病気でもしたんすか?」


助田。以前に一緒にダンジョンに潜ったことのあるクラスメイトで、SSRジョブ聖騎士を取得した男だが……


「あの……すみません。長らく学校をお休みしたことでご迷惑をおかけしまして……」


「……え? どうしたんすか助田さん?」

「いつもの傍若無人な態度はどこへ?」

「すっかりしおらしくなってるんすけど?」


取り巻き3人に囲まれる助田の姿。以前に見たよりやつれて見える。


「傍若無人だなんて……みんなには色々と偉そうなことを言ってすみません。反省してますのでこれからも仲良くしていただけると……」


「なんすか? そんなの当然っすよ!」

「何せ助田さんのジョブはSSRの聖騎士」

「将来の出世頭なんすから俺ら一生付いて行くっす」


助田を持ち上げ盛り上がる取り巻き3人だったが。


「それで助田さん。何があったんすか?」

「俺らずっと心配して……」

「俺らで良ければ力になるっすよ?」


「ありがとう。実は僕……何でかジョブが消えてなくなってしまって……」


「え? ジョブが消えてなくなるって……」

「それどういうことっすか?」

「もしかして助田さん。聖騎士じゃなくなったってことっすか?」


「……うん」


助田の返答に取り巻き3人の顔から笑みが消えていた。


「んだよそれ……聖騎士じゃないってただの雑魚やん」

「寄生するつもりでへーこらごま擦ったのが台無しなんやけど」

「どーすんの? これ?」


「あの。みんな……ジョブのなくなった僕だけど、これからも友達として仲良くしてくれると……」


そんな3人の変化に気づかず声をかける助田だったが。


「は? 聖騎士でもないおめーと仲良くする意味あんの?」


学生生活は弱肉強食のサバイバル。サバンナにも匹敵する過酷な環境で王者として君臨していたライオンが、その牙を失ったとなればどうなるだろう? それは火を見るよりも明らかで。


「馴れ馴れしく話かけやがってよお」

「まあ、どーしても仲良くしたいっつーならよお……」

「おら。購買で俺らのパン買ってこいや」


「え? あの。パンって何で僕が……それに、その、お金は……?」


「んなもんおめーの金で買うに決まってるやろがい」

「少しは頭を使えや? 頭をよお? おおん?」

「分かったらダッシュで行って来いや!」


3人の迫力に大慌てで教室を飛び出そうとする助田であったが。


「助田。ジョブが消えてなくなったとはどういうことだ?」


俺は助田を引き止め声をかける。


「え? あの城くん。ごめんだけど僕、パンを買ってこないと……」


「パンなど買いに行く必要はない。そうだよな?」


ジロリ。取り巻き3人を見つめる俺の視線。


「はあ? 城ごときが何を言ってやがる?」

「おめーのジョブはRの傭兵だろ? お呼びじゃねーんだよ」

「どうしてもって言うなら、おめーが代わりにパンを買ってこいや」


おのれ。せっかくの人の忠告。このままでは先生に告げ口するしかなくなるわけで、そうなっては3人は生徒指導室送り。内申書にも響くマイナス査定だというのに……


「確かにパンを買う必要ありませんわよ。わたくしも助田さんの話を聞きたいですから」


俺の背後から顔を出す加志摩さんの姿を見た途端。


「ひいい。加志摩議員の娘さん?!」

「そういうことでしたら、パンは結構っす」

「俺ら自分で買いに行くっすから退散っす」


そそくさと立ち去る3人組。困った時にものを言うのは親の権力。議員の影響力というわけで。


「それで助田さん。どういうことですわ? ジョブを失ったとは」


「あの。それが僕にもよく分からなくて……」


「分からない? 何の前兆もなしに突然、助田のジョブが消えたのか?」


俺の言葉に何か思い当たる節があるのか顔を赤くする助田。


「あの。実はちょっと心当たりが……でも、城くんってまだ童貞だよね?」


「は?」

「え?」


いきなりの質問に意味が分からず固まる俺と加志摩さん。


「いや、実は僕。つい先日に初めての経験を済ませたんだけど……その時から僕のジョブの力が失われてしまったみたいで……」


つまり何だ? 童貞を捨てると同時、Dジョブの力も捨ててしまったと?


「だから他の人はどうなのかなって……でも童貞の城くんじゃ分からないよね? ごめんなさい」


いや。まあ、確かに俺は童貞であるため、確かに分からないが……


「あのですわ? 助田さん。ジョブの力と、ど、ど、童貞かどうかは関係あるとは思えませんわ。だって探索者には結婚済みの方もたくさんいるのですわよ?」


加志摩さんの言うとおり。そもそもが取得したDジョブを失うなどといった症状。100パーセント攻略読本にも記載はなく、ネットでもニュースでも聞いたことがない。


「でも……実際に僕のDジョブ聖騎士の力はなくなってしまったから……僕。何かの病気なのかな……?」


「……ちなみにだが助田。お前の初体験の相手は誰なのだ?」


助田を相手にやらせてくれるような女性。土下座で頼むなら俺にも可能性があるのではないだろうか?


ではなくて……体験を済ませた男がかかる病気といえば当然、性病。その場合、相手女性も同様というわけで。


「もしも病気だとするなら相手女性の体調も気にかかる」


相手女性を思いやった善意の質問である。


「あ。うん。城くんも加志摩さんも会ったことあるよね? アンジェラさん。僕たち結婚を前提にした付き合いだから」


マジかよ? 金髪も麗しいエ連美人であるアンジェラさんが相手とは……2人はつい先日、知り合ったばかりだというのに……早すぎる上に羨ましすぎる。


「アンジェラさんは何も異常はないのですわ?」


「それが……あれからアンジェラさんと連絡がとれないんだ。もしも病気だとしたら大丈夫なのか心配だよ……」


「アンジェラさんの自宅は? 様子を見に行ったのですわ?」


「いや。行きたくても僕、アンジェラさんの住所を知らないから……」


結婚を前提にした付き合いだというのに相手との連絡が取れず、さらには相手の住所も知らないという。それって言いたくはないのだが……


「結婚詐欺なのではありませんわ?」


「そんな?! ありえないよ! だって結婚詐欺って相手の財産が目当てでやるものだよね? 僕なんてただの学生だし盗られるような財産なんて何も……」


「そう言われてみれば、そうですわね」


いや……盗られる財産はある。


助田自身が言っていたではないか。総合評価10点。SSR最強格のDジョブ聖騎士が消えてなくなったと。


相手のDジョブを盗むなどといった芸当。可能なのかどうかは分からないが……アンジェラさんとの体験以降、助田のDジョブが消えてなくなったのが本当ならそう考えるしかない。


何せ日本に移住したとはいえアンジェラさんは元エ連人。相手の国籍によってどうこう言いたくはないが、昨日の自宅ダンジョン騒ぎもあって、エ連が絡んでいるなら疑ってかからざるをえないのが今の俺である。


キーンコーンカーンコーン


助田と話すうち朝のHR開始のベルが鳴り、担任の先生が登壇する。


「おはよう。今日は佐迫さんからお休みと連絡がありました。みなさんも体調には気をつけてください。それと助田くんは久しぶりの登校ですね。休みの間のノートを見せてあげるなどフォローしてあげてください。」


佐迫さんがお休みか……まさか昨日、俺がタックルで吹き飛ばしたからではないと思うが……正直、佐迫さんとは顔を合わせづらい面があり、休んでくれる方がありがたいと言えるだろう。

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