第97話 母さん。どんなDジョブを取得したのだ?
加志摩さんが学校に帰るのを見送った俺は灯油の入ったポリタンクを手に自宅ダンジョンへと戻る。
その際。地下1階のモンスターゲートを全て確認して回るが。
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─暗黒門LV20 :黄金ダンジョン地下1階その1
─ローカル管理者 :(城)
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管理者として登録されているのは俺の名前だけ。侵入してきた暗黒魔導士を倒したことで、今後、他の者にワープ侵入される恐れはなくなった。
草原広場へ戻る俺を待ち構えるイモと母。その前には装備品の剥ぎ取りを終えた侵入者の遺体が5つ。
「お? おにいちゃん。お帰りー。聞いて聞いて! お母さん。Dジョブを取得したんだってー!」
「マジで? 母さん。どんなDジョブを取得したのだ?」
まさか探索者ライセンスより先にDジョブを取得するとは……
まあ、穏やかのんびりした母のこと。Nの市民か農民あたりが妥当といったところだが……そのようなジョブのレアリティに関係なく俺たちは家族である。雑魚ジョブだからといって見捨てることはないのだから安心して欲しいところである。
「それがねえ弾正。母さんのジョブ、良妻賢母ですって」
「……すまないが母さん。もう一度お願いできるだろうか?」
思いもかけない内容に思わず難聴系主人公の如く聞き返す俺であるが。
「それがねえ弾正。母さんのジョブ、良妻賢母ですって」
そんな俺のリクエストに応えて、一語一句同じジョブを口にする母の言葉。
今、俺の手元に「ダンジョン探索。100パーセント攻略読本」はない。だが、おそらくは攻略読本に記載のない未知のジョブ。つまりは……
「……母さん。その良妻賢母とやらのレアリティだが、もしかして……」
「えーと。脳裏に浮かぶこれかしら? URってなってるわねえ」
……マジかよ? URとはつまりはユニークレア。世界に1つだけのジョブであり、Dジョブにおける最高レアリティ。
「あれー? URってことはお母さん。イモと同じだー!」
「あらー! そうなの? それじゃ弾正もそうなのかしら?」
「……SSRです」
「え? 弾正。何て言ったの? もう1度教えてもらえる?」
「……俺のジョブは暗黒魔導士。SSRにして総合評価9.5点。敵の弱体を得意とする後衛ジョブとなります。よろしくお願いします……」
「? 弾正、何で元気ないのかしら? 反抗期?」
「うーん? 溜まっているとかかも?」
別に反抗期でもなければ溜まっているわけでもない。母とイモがURジョブの中、何故に俺だけSSRジョブなのか? 自己PRを詠唱するにも元気がなくなるのは仕方のないことである。
だが、URジョブの特徴は世界に1つのユニークという希少性。URジョブだからといって必ずしも強いというわけではなく、俺の暗黒魔導士は自己評価100点の最強ジョブ。冷静に考えれば俺が嫉妬する要素はどこにもないのであった。
「それで母さんのDジョブ良妻賢母。どのようなことが出来るのだ?」
「うーん……良い子良い子かしら?」
「は?」
「いえ。だからね。良い子良い子」
「はあ……」
そう言って俺の前。イモの頭を撫でる母の姿だが……大丈夫だろうか?
「ん? おお! おおお! 凄い。何だがイモの身体。力が溢れてくるぞー?!」
「……マジで?」
つまりは撫でた相手を強化する。ジョブとしては只野さんの強化魔導士と似たタイプということだろうか?
「ちょっとイモ。モンスターを相手に試してくる!」
そう言うと猛ダッシュで草原広場を後に駆け出していった。
「それと後はねえ。プリンボディとゴムボディ。鋭利歯と牛パワー。それと超音波っていうのも母さん使えるみたいねえ」
他にも自分のスキルを読み上げる母だが、それらは俺とイモと全く同じ。黄金肉を食べて得られるEXスキルではないか。
そうか。これまで母と3等分して食べた黄金肉。Dジョブを持たない母にもその効能はしっかり反映されていたというわけで。
後は筆記試験に合格、探索者ライセンスを取得するなら母は即戦力。自宅ダンジョンの管理責任者3名のうち、俺とあわせて2名が誕生する。
となると残るは後1人。イモの探索者ライセンス取得というわけだ。
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品川ダンジョン モニター監視室
「いったいどうなっているのよ?! ヴィクトロビチたち。もう戻る時間はとっくに過ぎてるっていうのに! しかもスマホまで連絡がつかないなんて……」
いらいらと手元のスマホとモニター画面を交互に見つめる元受付チーフ宇喜多。
プルルという着信に素早くスマホを耳に当てるが。
「ちょっと聞いてくれるー? 城っち。授業をサボって学校を早退したんですけどー? しかも引き止めようとするあーしを吹き飛ばして。おかげであーし足を捻挫したんだから」
「はあ!? 貴方の役割は城を校内に引き止めること。それが何で逃がしてるのよ?!」
「だから、あーしは引き止めようとしたって言ったじゃん? あーしは何も悪くないって感じでー?」
「悪いに決まってるでしょうが! とにかく。城の自宅へ行きなさい。チャイムを連打して家の様子を調べて来るのよ。いいわね!」
「だから、あーし。足を捻挫して……」
ガチャリ。電話を切った宇喜多であったが。
「あのー。受付さん。いつまでここにいるんすか? そろそろ受付へ戻った方が……」
タバコ休憩から戻った警備員から邪魔そうな目で見られていた。
「うるさいわね。ヤニカスはヤニカスらしく黙ってタバコを吸って税収に貢献してれば良いのよ」
「はあ。でもっすね……もうこれ以上、待ってもヴィクトロビチたち工作員が帰って来ることはないんじゃないっすかね?」
「な!? ……何を? お前、いったい何を言っているの!?」
タバコの煙で輪っかを作るくらいしか取り柄のないと思われた警備員。その口からいきなりヴィクトロビチの名前が出ることに驚く宇喜多であったが。
「あのっすね? エ連から金銭を受け取りスパイしてるのは受付さんだけじゃないんすよ?」
考えてみれば日本のダンジョンを手に入れようと画策するエンパイア連邦。他にも金銭をばら撒かないはずがなく、セキュリティを司る警備員。買収してスパイとするには格好の相手である。
「俺の役目はモニタ監視中、何か不審なことがあればエ連に報告すること。それで今もっとも不審なのがあんたっすからね……電話。出て貰って良いっすか?」
そう言って警備員が差し出すスマホ。宇喜多は受け取り耳に当てる。
「俺だ。エ連の大使だ。警備員から聞いたが、ヴィクトロビチがモンスターゲートから自宅ダンジョンへ侵入したと。そして、お前がそれに協力しているそうだな?」
「エ連大使!? あ。はい。ええ、ですがそれは自宅ダンジョンをもう1度オークションに出すためでして……」
「モンスターゲートを使ったワープ移動はダンジョン協会すら知らない機密事項。もしも米国に知られたらどうする! 我が祖国の計画が台無しとなるぞ!」
いきなりの怒声に首をすくめる宇喜多。
「その……ですが、これはヴィクトロビチからの提案でして……私は協力しているだけ。私は悪くありませんよね?」
「悪いに決まっているだろうが! にしてもヴィクトロビチめ……怪我した私怨で勝手な真似を。だいたい俺がお前に言ったのは書類を偽造するなりしろだ。これ以上の勝手は許さん。警備員。宇喜多を拘束しろ」
「うっす」
「そんな! 私は悪くありません。それにヴィクトロビチは単に手間取っているだけ。計画が失敗したとは決まっておらず、間もなく戻るはずですから……」
「すでに買収した住民から報告があった。城の自宅、窓が1枚割れてはいたが屋外にはモンスターもヴィクトロビチたちの姿もない。警察への通報も不要ということだ」
「そんな……ヴィクトロビチをはじめ侵入した5名全員が高LVの精鋭探索者。それが……」
「城がオリジン国大使と親しい仲なのはお前も知っているだろう? その上、ダンジョン推進派の議員とも急速に仲を深めている。おそらくは城 弾正。URジョブの持ち主だ」
だが、宇喜多の鑑定スキルによれば城はRの傭兵。
「……私の鑑定結果が間違いだったと?」
「URジョブなら鑑定を誤魔化す能力があっても不思議はない。そして、相手がURなら今は近づかない方が良いということだ。何せ実力行使しようにも……っと。これも世間的には秘密事項か」
「?」
「ま、いずれURだろうが関係なくなる。それまで城は刺激しない方が良いだろう。そのためにも……お前と佐迫には退場してもらう」
ガシリ。スマホを手にする宇喜多の口元に突如押し当てられる白い布。薬品嗅のする匂いを嗅いだ宇喜多はスマホを取り落とし、意識を失うのであった。
「しかし、ヴィクトロビチの暴走のおかげで貴重なSSR工作員が5名も失われるとはな……まあ、聖騎士ジョブの予備は2つ手に入ったことだし、他にもSSRのターゲットが見つかれば受付スパイから連絡がある。またアンジェラに集めてもらうとしよう」
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