第5話 悪魔との邂逅 ⑤

チームは6人編成で、俺たちは、Aグループとなった。


俺と山田に加え、華奢で色白の女や、褐色肌のゴツいヤクザ風の男、金髪のヤンキー、サラリーマン風と、メンバーは多種多様だった。


ドアを開くと、そこには不思議の国のアリスを連想させるかのような世界が広がっていた。


巨大な葉っぱに、奇妙な形の蝶、巨大なムカデに芋虫…


俺達は、まるで、小人になったかのような感覚を覚えた。


小鳥の囁き声がこだまする。木々や奇妙な草花花に覆われた薄暗い空間に、陽の光が差し込む。




「まず…自己紹介からいきましょう…」

杖を携えた華奢で色白の女が、沈黙を破った。


「私の名前は、美月といいます。とある事業に失敗し、借金が750万に膨れて…スキルは、第六感です。敵の気配を感じる事が出来ます。因みに闇属性で、死者蘇生がつかえます。」


「俺の名前は、月元だ…色々訳あって、ここに来た。スキルは、体力低下でパワーを増強させることが出来る。」


「私は、山田です…借金は、1000万円程します…スキルは、一時的に敵の動きを止める事が出来ます。私は光属性の魔法が使え、治癒能力があります。」


「俺は、茨城だ。借金は、550万。剣さばきは、得意なんだ。スキルは、打たれ強いだ。体力がこの中で一番強い。」


「俺は、沢城だ。借金は、800万。チッ…なんで弓矢なんだよ…で…超遠距離攻撃に特化してるだとよ…」


「僕は、日野といいます。借金は、750万。銃で良かった…射撃は、得意なんですよ…スキルは、あ、僕も超遠距離攻撃ですね…」


「皆さん、宜しくお願いしますね。力を合わせて、クリアしていきましょう。」


美月が笑顔で締めくくり、メンバーは、再び森の中を歩き始めた。



「な、なぁ、寒くないか…?」


「ああ…確かにな、」


しばらく歩くと、茨城と沢城は、武器を構えながらも身震いしていた。


確かに、クソ寒い…


じめじめとした強い湿り気と寒さが両方押し寄せてきて、寒冷地でもない何処と無く日本のホラー番組で感じるような、得体の知れない気持ち悪さと不気味さも襲ってきた。


こういう、五感を強く刺激したステージは初めてかも知れないー。


俺達は、武器を構えると、全神経を集中させ、赤い矢印に沿って茂みの向こうの塔をめざして突き進む。



「ま、待って…何か、来ましたよ…」

美月は、顔を強ばらせ辺りをキョロキョロさせた。


「え…?何処にも居ないぜ…なぁ…」


茨城は、武器を構えながらも首を傾げ辺りを凝視する。


「ひ…っ…茨城さん、後ろ、後ろ、後ろ…!」

美月が青ざめ、茨城の後ろをしきりに指差す。


「何だよ?さっきから、居ないだろ…」



ーと、茨城が振り向かず油断したその時だった。


彼の全身が、スライスチーズが避けたかのように、いきなり真っ二つに避けたのだ。


茨城は、全身から血が吹き出し真っ二つに割れ、その場でうつ向けに倒れた。


俺たち全員、青ざめ戦慄した。



すると、いきなり茨城の遺体の真後ろの空間がぐにゃりと歪み、そこから翼を広げた全長三メートルはあるかのような巨大な鳥が、一瞬姿を現し、また、消えた。


「いっ…」


沢城の肩に血が迸る。


彼は、弓矢を身構え、四方八方に矢を放ち続けた。


ーしかし、奇妙な鳴き声は一向に消えない。


そして、その鳴き声は益々強くなっていった。



阿鼻叫喚だった。


通常のゲームは、棄権が効くし、この世界で死んだとしてもリアルでは死ぬ事は無い。


だが、このゲームは、一度やり始めるとリタイアは効かない。ゲームオーバーイコール本当の死…若しくは、相応の罰が待っている。




「チッ…体力に一番自信があるやつがよりによって……」


沢城は、ため息ついて弓矢を引き続ける。


しかし、見えない敵は、あらゆる方角から俺たちの急所を狙って襲いかかってくる。


俺達は、それぞれの装備で応戦する。


しかし、敵には一向に効かず、俺たちは、奴に軽いかすり傷程度のダメージしか与えることが出来ないでいた。



「三分だけ…三分だけ、時間を止めることが出来ます。」


山田は、勘で微妙に空間が歪んでいる所に向かって、杖を振るった。


すると、ぐにゃぐにゃ揺れている空間が動きを止めた。


因みに、敵から逃げられるのは、三回までとというルールがある。


この先、もっと手強い敵が現れるかも知れないから、その時に取っておこうと、俺たちは考えた。


「おう、助かったぜ…」

沢城は、傷口を抑えながら安堵のため息をついた。


「沢城さん、三回だけ治癒の力を発動出来ます。」


山田は、沢城の近くに寄ると本をペラペラめくり「ルーモス…」と、ブツブツ呪文を唱えながら、彼の一番深い傷口に杖を振るった。


レモン色の眩い光が、辺りを覆い尽くすー。


すると、沢城の傷は逆再生されたかのようにみるみる無くなっていったのだった?




「皆さん、下がって下さい!」

美月は、うつ伏せに倒れている茨城の側まで来た。ペラペラ本のページを開きながら「ええと…エロイム・エッサレム・ソワカ…」と、奇妙な呪文を唱え杖を振るった。


ボン!と、黒紫色の煙が出現し、茨城を包み込んだ。


煙が徐々に強くなっていき、その中から黒い人影が起き上がり、ゆらゆら歩いてきた。


その影は、ゆっくり近づいていき茨城が姿を現した。


「あれ…?俺、一体、どうなって…」


「美月が、死者蘇生を使ったんだ。この能力は、残り二回だ。無駄にするなよ。」


「ああ…みんな、すまんな。」

茨城は、わけも分からず未だに首を傾げキョトンとしている。


「すげーな!魔法の力って…俺、さっきまで、激痛が走っていたのに…」


沢城は、上機嫌で肩を鳴らしていた。


「あと、40秒です!40秒で、魔法が切れます!」


山田の警告に、俺たちはギョッとする。


俺たちは、息を飲んで各装備を構えた…


心臓が激しく滝のようにバクバク波打つー。


今までのゲームで、味わったことの無い恐怖が差し迫っているのだった。

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人をなぶり弄ぶ、悪魔のVRMMOゲームで危機一髪。果たして、俺は生きて帰れるかー?。 RYU @sky099

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