第4話 悪魔との邂逅 ④
俺たちの寝泊まりする部屋は、地下10階の1番奥の105号室だ。
そこに、かつて共に過ごしてきた仲間のベットがあるが、とうとう俺と山田の2人だけとなった。
「お前、どうして、このゲームを始めたんだ?」
俺は、漠然と山田に事の経緯を尋ねた。
「この会社の本当の仕事は、知ってますか?」
山田は、丸くなりベットの上で体育座りをしていた。
「え…いや…分からんな…」
俺は、大の字に仰向けになり天井を見つめた。どっと疲れ
「借金の取立ての代行です。私なんか、1000万もの借金があります…このゲームは、命を担保にして遊びます。ゲームをクリアしたら、借金がチャラになるんです。」
山田は、辛うじて聞き取れりくらいのボソボソした声で早口で話した。彼は、身長185センチほどの長身だか、それに反して気が弱く臆病である。
「ま、待て…このゲームで、借金チャラか?どういうシステムだ?」
「このアドベンチャーワールドは、富裕層の見せ物であり、娯楽、ギャンブルなんですよ。」
「え…何?じゃあ、さっきまでのプレイは、俺たち全て見られてたと、言うのか…?」
「ええ、そうなんです。富裕層が誰が生き残るのかかけてるんです。その掛け金を、僕たちの借金の返済に回すというシステムなんですよ。」
「ふ、富裕層が肩代わりしてるのか?」
「ええ。賭けは倫理的にどうかとは思いますが、彼らは僕らの借金の返済を担っているので、何も文句は言えません。」
「で、でも、命だぞ?さっきまで、何10人の犠牲者が出てきたんだと思ってるんだ?」
「僕らには、一か八かのチャンスなんです。借金に苦しみ続けられるか、危険なギャンブルに身を投じ生き残る事に掛けるか…」
「…」
俺は、開いた口がしばらく塞がらなかった。
このプレイヤーは、全員頭がおかしい。
自分
「あなたは、ゲーム監視官の人間ですよね?」
「え、何、言ってんだ?」
「妙に状況把握がうまかったもので…今まで、沢山見てきましたから…因みに、あのケット・シーの正体は、我々と同様、生身の人間ですよ。他に何体もの案内人が居ますが、皆、人間です。」
「そうか…じゃあ、俺の勘は、当たっていたのか…?」
「ええ。彼らは中身は人間なので、同時に複数のステージにログインは、出来ません。あなたの、予想通りです。複数の案内人が、それぞれのステージの管轄してると考えられます。」
「そうか…まずは、この案内人とやらの正体を暴かなくては…」
「な、何言ってるんですか?このゲームは、借金をチャラにしてくれるんですよ?このゲームが無くなれば、僕らの生活が無くなってしまいます…」
「お前らの借金についてら調べさせてもらった。大半が違法だ…」
「…なっ…?」
山田は、きょとんとし背筋をピンと伸ばした。
「違法業者は、お前ら、庶民から金を毟り取る。利子は莫大に増える。お前らは。奴らに、騙されてるんだ。そして、奴らはアドベンチャーワールドというゲームとグルになっている可能性が高い。人の生命を使い捨ての物としか思ってない。」
「そ、そんな…そんなこと…」
「だから、俺は、ゲームを全てクリアして、案内人諸共、このゲームの黒幕を全員ぶった斬る!」
俺は眼光を光らせ、気の狂いやがったケット・シー諸共全員闇に葬ると、強く決心したのだ。
その翌朝、俺と山田は、7時半に起き、体育館位の広さの指定の部屋まで行くと、仮面の男達からプレイヤー機器を渡された。
「月元さん、次のゲームは頭を使うゲームです。多分ですけど…」
「やったことあるのか…?」
「いえ、ただ、こんなに大勢集まったということは…ふるいに掛けることです。ここで、四分の一位落とされます。」
「…なるほどな。ゲームを止めることは出来ないのか?」
「無理です。ほんの少しでも変な行動しようものなら、殺されされてしまいます…」
「山田、生きて帰って、暴くんだ…」
「え…」
山田は、不安そうに俺を見た。
俺と山田は、装備を装着しログインした。
そこには、ベルサイユさながらの舞踏会のような豪勢な空間が広がっていた。
中には、100人あまりのプレイヤーが待機しており、しおれた花のようにぐったりしていた。
みんな、やつれていた。
それもそうだろう。彼らは、もう何体もの人の死体を目の当たりにしてきた。
まともな精神を保つのは、難しい事だろう。
いきなり、右手手前のドアが、勢いよく開き、白いタキシードにシルクハットを被った奴が姿を現した。
「皆さん、お久しぶりです!ご無事で何よりです!私は、凄く光栄です!」
ケット・シーは、感嘆と声を高ぶらせ如何にも会いたかったとばかりに、大袈裟に両手を広げ、頭の上でパチパチ手を叩いていた。
奴の心の中は空っぽなのは、俺はとっくに見抜いていた。
こうやって、油断させるさんだんなのか、根っからのサイコパスなのだろう…
「えー、今回のゲームは、敵を倒して、ルビーを集めるのが目的です。指定された矢印に沿って進み、全てのルビーを集め目的の棟までたどり着いたら、クリアです。ね?シンプルなゲームでしょう?」
ドアが再び開き、奥から
仮面の男が20人くらい、ゾクゾクと台車を押して入ってきた。
「この台車の中には、剣や弓矢、杖、盾、銃、槍などの武器があります。」
仮面の男らは、無言で荷車を押しながら各奇妙なドアの前まで歩く。
「これから、一人一人に武器を振り分けスキルを与えます。そして、各グループを割り振ります。では、呼ばれた者は、各ドアの前に集まって頂きます。では、Aグループは、こちらのドアへ…メンバーは、…」
ケット・シーは、続けて説明し、プレイヤー一人一人の名前を呼びあげた。
プレイヤーは、指示されたドアの前に集まり、仮面の男から武器を支給された。
プレイヤー全員の名前を呼び上げると、ケット・シーは、近くの椅子に腰掛け頬杖ついている。
「いいなあ…走り回れて…」
「は…?」
俺は、怒りが沸点に達した。
如何にも他人事だ。ふざけてるのか?コイツは…
「私…あんまり得意では無いっていうか…走るの苦手なんですよ。身体の自由が効かないもんでね…」
「なら、お前も、やってみるか?一回だけでも地獄を味わえ。」
「いえ、遠慮させていただきます。何せ、昔からずっとこういうのしてきませんでしたから…それに、私は、案内人ですから。」
ケット・シーは、そう言うと涼しげな顔で悠長にリンゴを齧る。
コイツ、相変わらず飄々としてやがる。
「良いか?日本は、法治国家だ。お前らのやってることは、紛れもなく犯罪だ。俺は、これからそれをあぶり出していく。」
「ははは、面白い事言うんですね…」
ケット・シーは、お腹を抱えて笑った。
「は?」
「法律に従うってことは、要は、自分で考えたり行動出来ないって事でしょう…枠に当てはめて、これはダメだ、あれは、ダメだ、こうするべきだ、って、自分で考え行動出来ないってことなんですよね。ホント、君たちは、従順でお利口さんですね…法律は、誰も守っても助けてもくれないですよー。」
「おい、ふざけてるのか?」
「大体、日本って生ぬる過ぎるんですよねー。懲役とか、執行猶予とか生ぬるい判決があったりするじゃないですかー?それに、死刑は、判決が出てから執行されるまで長ーい年月を要するでしょう?その間に、何かするかも知れないじゃないですか?執行猶予が出た者の中には、再犯したり、はたまた脱獄したりする人が出てくるかも知れないでしょう?捕まえたその場で犯罪者を瞬殺するとか、はたまたじわりじわりとなぶり殺さないと、何も改善されませんよー。」
ケット・シーは、アハハと、脚をばたつかせ笑った。
コイツには、罪の意識が無いようだ…
明らかに、頭のネジが抜けててバクってる感じがするが、鋭い盲点を的確に突いてくる。
コイツは、捕まっても逃げ切れる自信があると言うのだろうかー?
俺は、奇妙なゾクゾク感を覚えた。
「契約書に、皆さんサインしたでしょう?」
ケット・シーのその言葉に、俺はハッとした。
確かに、長々と細かい注意事項が記された紙に、俺はサインした。
他の皆も、サインした筈なのだ。
だが、幾らサインしたからと言って、こんなゲームは違法だ。紛れもなく犯罪だ。
「大丈夫ですよ。今回からは、なるべく死者を出さないようにしていく予定ですから。リアルを追求する余り、人の命が次々と犠牲になるなんて…私共もびっくりしてるんですよ…想定外過ぎました。まぁ、敗者にはそれなりの罰を用意はしてますけどね…借金は、返していかないといけませんからね…」
ケット・シーは、飄々と笑いながらリンゴを齧る。
こいつの言ってる事を、信じて良いのだろうかー?
ホントに、これから、死者はなるべく出ないようにしていくのだろうかー?
「では、皆さん、武器もスキルももらったことだし…各ドアの中へと行ってらっしゃいませ。ご武運をお祈りしてます。」
ケット・シーは、馬鹿丁寧なお辞儀をし俺たちを見送った。
俺たちは、目の前のドアを開けその中の世界へと入っていった。
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