現実逃避がしたいお年頃なのです

「いや、いやいやいや、な訳ないだろ?」

何考えてんだ俺、夢だろう。そうに決まってる。

昨日のやり取りのせいで疲れてたんだろう。

らうに寝る直前まで話しかけられたし、今日もねえちゃんは忘れ物するし…

なんか本当に疲れてきた…

にしても夢か…最近は見てないな。そもそもあんまり寝てないし。

昨日、ほんとに久しぶりにベッドで寝た。というレベルでちゃんと寝てない。悪い癖だ。

夢を見ているってことは眠りが浅いって事。どうせ寝るならちゃんと寝たいな、もったいなく感じてしまう。

まぁ、滅多に見れない夢だ、楽しんじゃおう。

まずは周りを見てみたい。とにかく今は情報が欲しい…

っていうのは建前で、現実から離れすぎる景色と状況のせいで逆に冷静になって来たのだ。

いや…めっちゃ面白そうじゃん。異世界とか空想上の空間が目の前にあるってだけで興奮するのに目に映る全ての植物らしきものに生気があって美しいと感じる。それにやけに体が軽い…

試しににジャンプをしてみたりちょっと走ってみたりしたが、全然疲れないしびっくりするほど足が軽い、らうを超えてるんじゃないか?

化け物を超えるほどの身体能力は要らない気がするけど。

にしてもやっぱり夢だとは思えない…思い付きで頬をつねってみるが、痛い

普通に痛い。現実より痛くない気がするけど、痛い。

やっぱりここは夢なんかじゃない気がする。だからなんだって話だけど。

もしここが異世界なら敵とかいるのかな。

ドラゴンとか巨大なハチとか、会ってみたいような見たくないような…

人とかもいるのだろうか?異世界の王国とかも見てみたい。異世界物の王国ってだいたいヨーロッパ風だよね…一回この目で見てみたいものだ。

ふと、後ろの方に気配を感じた。奥の草むらになんかいるな…?

「おい、そこにいるやつ、出てきな?」

日本語が伝わるかわかんないけど声をかけてみる。が、なんもアクションはない

英語で話しかけるべきか…?

「ヘイ!わっちゅゆー…って、なんかこっちに突っ込んで…いやあれ絶対言語通じないタイプじゃん?!」

英語で話しかけた瞬間、奥の方にいた生物…牛みたいな生物はこっちに車みたいなスピードで突っ込んできた。

発音が悪すぎたのか…って違う今はそれどころじゃない、なんか明らかにやばいオーラをまき散らしながら突っ込んできている。足がすくんで動かない、明らかな殺意を真に受けて体が動くのを拒んでいるのだ。いや、こんな夢あってたまるか。

俺はこれは夢ではない、ということを全身で感じながらどうするかを考える。

闘牛のように一直線に突っ込んでくるな…さすがにこのままだとまずい、

さっき良くも悪くも痛みがあることを確かめたから、あれが当たったらと思うと…恐ろしいな。

あの牛…角が生えてる、イッカクみたいな角、うっすらと血がついているように見える。それを確認したとき、より一層体が強張る。

まさに剣道だ、あの角の先から殺気がこちらに一直線に向かってくるのが見える。

剣道は、齧ったことならあるなぁ…まぁ今は竹刀も持っていなければ試合ではなく死合いの真っ最中なんだけど。

そんなことを考えている時でも時間は進む、現実逃避すらさせてくれないらしい。

数秒後にはあれは俺にあたるだろう。

だが、動けない。さっきは夢のように軽かった足が今では現実を感じて重く、動かないでいる。

まったくの皮肉だ…冷静に考えてみれば、あれが当たったら間違いなく致命傷は負うだろうな。それほどのスピードだ。死ぬかもしれない。

死んだら、どうなる?

この世界は夢ではない、なら死んだらどうなるのだろうか。

そう思うと目の前に差し迫った角が人を殺す刃に見えてきた、血がついているから、何かしら殺した後なのかもしれない。

初めて死を実感する。俺が今まで感じてきたものよりも恐ろしいものが今俺の腹を抉ろうとしている。

嫌だ。

足が動いたような気がした。あんなに重かった足が動いた。

嫌。

何とか必死に足を動かす。悪あがきなのはわかってる。

でも、悪あがきにすら縋りたくなる。

嫌。

結局、悪あがきは悪あがきにしかならなかった。


あぁ、さっきまでの余裕はどこに行ったんだろう。

その刃は俺を突き刺し、貫いた。


感じたことのない不快感、きもちわるい。


硬くて鋭い何かが俺の腹の中に入ってきて、すべてを貫いてすぅっとさせる。

ブチっと何かが切れる音、液体や固体がかき混ぜられる。

もう、それ以外考えられない。


温かいような、冷たいような。

ただ、一つだけ感じるのは。

角は ありえないほど冷たかった。


まもなく、黒い塊は俺を勢いよく突き飛ば




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修学旅行、行先は異世界~異世界では最強「班」でした~ お書記様 @osyokisama

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