選ぶなら「しない」より「する」後悔を
「報告を」
「王都にて複数の家屋や商店が倒壊しており、未だ被害は拡大中。騎士団を派遣しましたが原因の解明には至っていません」
最初こそ
なお、俺の中では彼女こそが容疑者だったのだが本人はこれを否定。「いや一芸感覚で王都の一角を吹き飛ばしたりしませんよ!私のこと悪の帝王か何かとでも思ってるんですか?!確にタイミングが完璧すぎて、正直な話ちょっぴり自分を疑いましたけども!」などと供述しており、証拠が不十分である事から判決は保留中だ。
「一応聞くけど、こういう事ってよくあるの?」
「いいえ。確に世界各地で災害が増えているのは事実ですが、こんなに突然に建物が崩壊するなんて事例は聞いたことがありません」
「ですよねー」
だとすると建物自体の欠陥か、あるいは人為的なテロ行為なんかも考えられるけど、どちらにせよ違和感を感じる。
前者の場合ならば建物が崩壊する度に、まるで爆発でもしてるんじゃ無いか?!って程の轟音は響かないだろうし、後者の場合にせよ動機がわからない。この国はおろか、この世界の文化もよく知らない身だが攻撃の意図がまるで読めないのだ。この国を標的としているならば城や、その周辺を狙わずに市街地を攻撃するのは不自然だし、城下の特定の個人や組織を狙うにしても不審な点が多い。
あくまで素人の所感だが、昼間見た印象からすると大型の建造物は城周辺に集中しており、都市の外壁に近づくにつれて建物の規模が小さくなっていくように見えた。今現在被害が出ているのは外壁周辺の、比較的建物の規模が小さい区域だ。標的が個人ならば被害規模が広すぎるし、大掛かりな組織が標的ならば城の周辺を狙わないというチグハグさが、俺の不安感を一層強く煽った。
「……何にせよ、早く事態が収束するといいけどな。こんな状況じゃ不安で寝れやしない」
「……全くです」
「失礼します。姫様、ただいま戻りました」
2人で話していると、席を外していたメイドさんが戻ってきた。リディアが現状把握のために、事態の対策本部的なところの状況を聞きに行かせていたらしい。
「レナ、どうでした?」
「簡潔に申せば、なにもできていないと言うのが現状です。あの辺りは道幅が狭いので騎乗での行動が制限される上、周辺の開けた場所に陣を築こうにも逃げ惑う民に囲まれて、前進も後退も、加えて連絡もままなら無いので、身動きが取れずに騎士達が現場で孤立してしまい、司令部との連携が取れていません」
「……もどかしいですね」
「まぁ、そりゃ急にこんなことになれば住民がパニックになるのも無理は……ん?」
あれ、気のせいか?
対処に当たった騎士達もプロのはず。パニックに陥ってる現場に、無策で突撃なんてする訳が無いハズだ。にも関わらずだ、なんで周囲を住民に取り囲まれるなんて事になって…………
「なぁ……騎士がこのザマで魔族とかが城下に攻め入った時とかどうしてたんだ?」
「敵国との間に交わされた条約で、戦闘行動が許される地域を制限しているので王都まで攻め入られるなんてことは無かったですね……」
嘘でしょ?いや言ってることわかるけど、その理性があって何で軍事行動で解決しようとしてるん?てかそのせいで平和ボケした結果がコレ?いやいやまっさかぁ……
「……この都市で何らかの災害って、過去に発生しなかったのか?そういう時どうしてたのさ」
「……少なくとも私が生まれてから、ここまでの災害は無かったですね」
OK、終わった。嘘だとは思いたいが、この都市が出来てから起こったた災害が片手で数えられる程で、その発生ごとの間隔が世代に渡るほど開いていた結果、国の中でノウハウが伝わっていない事が判明しましたとさ。
……真面目にどうすんだコレ。ここでは戦闘が行われていないとはいえ、今は戦時中だろ?日本人の俺に平和ボケしすぎとか思われたら、本格的におしまいだよマジで。
「……住民達の避難状況ってどうなってるんだ?」
「……正確には把握出来ていませんが、現場の報告を聞く限り芳しくないと予想されます」
「マジかぁ……」
外れて欲しいと願った予想も、メイド……レナさんだったか?の返答によって無慈悲にも肯定されてしまった。その事実から、これから起こるであろう凄惨な事態の数々を連想してしまい、自分でもわかる程に焦りが思考を乱す。
「カザマ様?どうされましたか?」
「……この国がどういう規則の元で騎士を運用してるか知らないけど、
「そうなのですか?ですが今も被害が拡大してる以上は、まず元を絶たねば事態が悪化するばかりなのでは……」
「その元を絶つためにも住民の避難が必要なんだよ。現にパニックになった住民達が現場を混乱させて、対処のために行動できてないんだからな」
「それは……確かにそうですね」
「おそらく司令部も姫様と同じ風に考えたんだ。だから今、こうして膠着状態に陥るとかいう大ボケかましてる」
最悪だ。いやまぁ、
俺の言葉に納得がいったのか、レナさんと話し込んでいる姫様を横目に思案する。
どうする?口を出すにしろ俺の知識なんて付け焼き刃もいいとこだし、万が一があった場合も責任取れないし、取る覚悟もない。そもそも前提として15年と少ししか生きてないガキの言葉になんの説得力が…………
(大丈夫ですよ。立場的な話をするなら、王族よりも御使さまの方が上ですから)
…………はぁー、やだなぁ。こんなのどっち選んでも結局後悔しそうじゃん。しかも気がつかなきゃいいのにやらない理由こそあれ、できない理由は無いんだもんなぁ。
本当に、ほんとぉぉぉぉに気が進まないけども…………
『やらない善よりやる偽善……だったかな』
「えっ?」
わざわざ日本語で呟いた俺へ、聞き返すように視線が向けられる。意を決して彼女と目を合わせた俺は告げた。
「なぁ姫様……神託が下ったって言えば、どんだけ人動かせる?」
「……本気ですか?その言葉がどのような意味を持つか本当にわかっていますか?」
「もちろん。言ったら最後、もう哀れな被害者では居られないのは重々承知だとも」
神の名を使って自発的に首を突っ込む以上は、異世界召喚に巻き込まれた哀れな被害者ではない。今朝言われた御使い様という名の当事者になるのは避けられないだろう。そうなれば確実に平穏とは程遠い、厄介事の数々に巻き込まれるのは必定だ。
彼女もそれを案じて、真剣に意思確認をしてくれたのだろう。今尚彼女の真剣な眼差しは、俺の視線と交差している。
「……わかりませんね、なぜそこまでするのですか?ハッキリ言って、あなたはそこまで慈悲深い人間には見えません。場に酔って安易な選択をしていませんか?」
彼女の問いが、探るような物へと変わるのを感じながら、その言葉を噛み締める。彼女の言う通りだ。俺は決して万人を救おうだとか、あらゆる争いを無くしたいなどと本気で言う人間ではない。
そんなことはわかっている。
「たしかにこの世界には今日来たばかりだ、それも拉致みたいな形でね。当然この国や国民に愛着とかは微塵もないよ。すぐさま同情できるほどの優しさも、持ち合わせちゃいないしね」
「でしたらなぜです?あなたがそこまでする理由なんてないじゃないですか」
「……嫌な記憶、特に後悔なんてずっと頭に残る物だと思うんだよ。忘れようと強く意識すればするほど、強く記憶に定着するわけだからね。だから選べる時は躊躇わずに好きな事して過ごすんだよ、さっきそうするって決めたばっかだし」
「それが人助けだと?」
「いや別に。そんな好きじゃないよ面倒だし」
「はぁ?」
急に梯子を外されたと思ったのだろう。リディアが困惑したような声を出して、先程までのシリアスな顔つきが崩れ去った。ウケる。
「俺は人に優しい俺の事が好きなんだよ。人のために動いたって事実さえあれば後悔はほぼ無いし、なにより気分がいいからね」
「…………ふふっ、あはははは……なんですかそれ、ひねくれすぎじゃないですか?そんな動機初めて聞きましたよ」
「結局は自己満足だからな、納得さえできれば体裁は後回しでも十分間に合う」
それを聞いて何度かうなずいた後、リディアはイタズラでも思いついた様な顔をこちらに向けてきた。
「そこまでおっしゃるならば、もう止めません……ですが」
そこで言葉を切ったリディアは、イタズラでも思いついたような笑みを浮かべて提案してきた。
「それ、よければ私も混ぜてください」
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