幻の白い鳥

青いひつじ

第1話


少年Kと少年Hがいた。


2人の暮らす村には、昔から伝わる白い鳥の伝説がある。

その鳥は世界でたった一羽しかおらず、近くで見たことがある者はいまだいない。



数ヶ月前のことだ。

となり村の漁師の男が、寒茜の空に白く光りながら浮かぶ物体を見つけ、未確認飛行物体かと思ったが、よく見ると鳥の形をしていたという。


そして、これを見た次の日から漁師の周りでは不思議なことが起こった。

漁に出れば鯛が山のように獲れ、漁師の娘が隣村の金持ちの男に見初められ声をかけられたのだ。

しかし、その男が好みではなかったため、娘は誘いを断った。

漁師の男はえらく落ち込んだという。


見ただけで幸運が訪れるのであれば、捕まえた日には大富豪になれること間違いないと噂が広まり、近頃、村の人々は白い鳥を探し続けている。



少年Kと少年Hは高校生である。

少年Kは誰かからその噂を聞いたようで、クラス中の生徒に自慢げにその話を披露していた。


少年Hといえば、温厚、真面目が取り柄の勤勉な学生であった。少年Kの話には目もくれず、彼は本を読み続けた。


すると突然、少年Kは話すのをやめた。

なんだと思い、少年Hは横目で見た。



「俺、その白い鳥を捕まえようと思う。おい、お前もついてこないか」

思い立ったように少年Kは立ち上がり、少年Hにそう問いかけた。



「いや、僕はいいよ」



「どうしてだ。その鳥を捕まえれば、俺たちは大金持ちになれるかもしれない。お前が好きな本だって、きっと山のように買えるぞ」



「答えは簡単だよ。幻の白い鳥なんていないと思うから。たくさんの本を買いたいとしても、僕は別の方法を考えるよ」



「嫌なやつだな」


少年Kは鼻をフンッと鳴らした。


クラス中が白い鳥に夢中だった。

しかし、少年Hは変わらなかった。

授業中は黒板に集中し、休み時間には読書をした。放課後は部活動に励み、家に帰れば今日の復習をした。

月日が経っても、人々の関心が薄れることはなく、卒業式でも生徒たちは白い鳥の話をしていた。


少年Hはコツコツと努力を積み上げ、村の外にある難関大学の推薦枠を勝ち取った。

生徒たちに、なぜそんなに勉強ができるのか訊ねられた時には少年Hは決まってこう答えた。



「普通のことをしているだけだよ」




少年Kは、卒業後も白い鳥を探していた。

きっとどこかにいるはずだと信じて疑わなかった。

3年経っても、5年経っても、1少年Kは探し続けた。

しかし、白い鳥が見つかることはなかった。



10年後、少年Hは自身の研究が認められ、世界人となった。

彼の家は、彼の大好きな数えきれないほどの本で溢れかえっているという。










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