epilogue. 白百合を添えて

 寂寥な荒野の中に、異質に存在する美しい白百合の花園があった。


 そしてそこに佇む、一組の夫婦。


 男は身長が二メートルを超える長躯で、焦茶の肌に筋骨隆々の手足、切れ長の目に、ギザギザの歯が特徴的だった。


 女は至って平凡で、それは紛れもない人間であった。


 彼らは定期的にこの花園に訪れては、花々の世話をしている。


 そんないつも通りの彼らの日常に、ある一つの変化が起きていた。


「あなた、これは?」

「どうやら、墓のようだな」


 彼らの眼前に、小さな石碑のようなものが立てられている。明らかに、故意に置かれたものだった。


 男は訝しむようにその石碑を触ってみる。ひんやりとして、けれど何の変哲もない。


 彼がそれから手を離そうとした時、いつの間にか、そこに一本の白百合が添えられていた。

 

「あれ、その白百合最初からあったかしら?」


 女の方はピンとこないように、首を傾げている。


 対照的に、男の方は勘づいたようにニヤリと口元を緩めた。


「いや、これは


 在りし日の、親友と結んだ約束を思い出す。

 

「これからは、忙しくなるぞ」


 そして男は、白百合の花園へと視線を移した。


 満開に咲き乱れる純白の世界。


 初夏の涼しい微風が、彼らの間を通り抜けていった。

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『赤い糸』に白百合を添えて pine卿 @pine101

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