一章 推しのライブにて
『ジュエラーのみんな、今日は来てくれてありがとう!』
ジュエラー。それはEDELSTEINのファンネーム。
ライブに来るためのお金をバイトをしてコツコツ貯めていた遙香にとって今日は今までの苦労が癒やされる日で、チケットが取れた一週間前から今日という日を楽しみに生きていたと言っても過言ではない。
今日のためにEDELSTEIN公式チャンネルにアップロードされているコール練習動画を見て恥ずかしくないようにしてきた。
そしてメイク動画を見て、一生懸命学び、推しに見られても恥ずかしくないような最低限の努力はしてきたつもりな遙香だが、初心者メイクなので周りのジュエラーには劣る。
遙香の推しはグループの中で一番人気の『高道大也』。澄んだ藍色の髪にメンバーカラーの青色のカラーコンタクトをしていて、同じ次元に生きているとは思えない程の美しい容姿をしている。
遙香は元々大手事務所のアイドルグループのファンだったが、六人いたメンバーが一気に三人に減ってしまい、その大手事務所への不安と不満から担降り。そして当時好きだったアニメの2・5次元舞台で好きなキャラを演じていた高道大也の容姿に惹かれ、そのままEDELSTEINの高道大也のファンになった。
今日のためにペンライトも買った。
『聞いてください、EDELSTEINで、純愛の1カラット』
いきなり一番好きな曲が来た遙香はペンライトを握りしめたまま昇天しかける。
その後は必死で推しを見続けるも興奮しすぎて覚えていないところが多々。遙香はライブ後の物販でグッズを大量購入したので特典会にも参加することとなる。
特典会とはアイドルとツーショット撮影ができ、そして少しの時間交流できる会。推しを間近で見れて、しかも喋ることもできる。大手事務所のアイドルグループのファンだった時には体験したことのない、推しと触れ合えるまたとない機会。
すると、会場のスタッフが大きな声で告げはじめた。
「本日、公式SNSにて告知した通りですが会場の都合により特典会のループは無しとさせていただいております」
会場中は仕方ないという声と、ループしたかったなという声が交じり合う。
そうこうしているうちに、遙香の推しである大也の順番待ちの待機列ができていた。特典会初参加な遙香は慣れずに待機列最後尾になってしまう。
とてもドキドキしながら待っていると、次が自分というところまで来ていた。持参して来ていた除菌ジェルで手を除菌して、万全の状態にしていたら。
「お待たせいたしました。たくさん待たせてごめんね」
遙香はその優しく甘い声に一瞬にして虜にされる。ずっとイヤホンからしか聞いてこなかった推しの肉声に感動し涙目になるもグッと堪えて推しに返答する。
「いえいえ! そんなことないです。チェキなんですが、ハートリクエストしてもいいですか?」
「いいよ。⋯⋯こっち、来て?」
ふいに推しに手を引かれた遙香の鼓動がとくん、と跳ねる。こんなことをされたら心臓がいくつあっても足りないと思うほどに。
「はい、撮りますよ! 三・二・一!」
パシャ――。
とうとう推しとツーショットできた遙香は一滴の涙が零れてしまう。
「大丈夫?」
「あ、大丈夫です!」
推しが気にかけてくれて、嬉しい気持ち半分申し訳ない気持ち半分になる遙香。
「大丈夫ならよかった。名前はなんていうの?」
「あ、はるか、って言います!」
遙香は気の緩みからつい本名を言ってしまったが、周りには推しとスタッフしかいなかったためセーフだと判断した。
「はるかちゃん、何か話したいこと、ある?」
突如推しに話を振られた遙香はびっくりするも、なんとか思いついた話をする。
「実は今日、初めてライブに来たんです! やっと会えて嬉しいです!」
「そうだったんだ。来てくれてありがとう。また来てくれたら嬉しい⋯⋯な」
大也は優しい微笑みで遙香の目を見つめ、手を振る。
そうして特典会は終了した。
会場を出るとジュエラーの集まりができていた。その中にから遙香に駆け寄る人がいた。
「もしかしてだけど新人さんよね? 初めまして。私SKYっていうの。あなた、大也くん推しだよね?」
遙香はこの人から若干の殺気を感じる。
「はい、そうですが⋯⋯。なんでしょうか?」
「私、大也くんの
お金も時間も全て推しに注ぎ込み、どこまでも追いかけていく人の中でも群を抜いてすごい人。
遙香は事前に情報を調べてはいたが、どういう人なのかは分からなかった。推しと同じで優しい人だといいなと思っていたら語気が強めな人で少し落ち込む。
「今から二週間後の大也くん誕生祭について居酒屋でミーティングしようと思ってるんだけど、新人さんもこない?」
誘われてしまった遙香だが、時間的に寮の門限ピンチなことに気が付く。
「ごめんなさい! 参加したいのはやまやまなのですが、門限が⋯⋯」
「ふーん。あっそ。じゃあみんな、行くよ」
そう言ってジュエラーの集まりは消えていった。
やってしまったかもしれないと思う遙香であったが、門限に間に合うように駅まで走っていく。
無事電車に乗れた遙香。スマホを鞄から取り出し、今日の感想をチャットツールのLEAFを使い親友に送る。
「どうしよう、愛梨⋯⋯。推しすごいかっこよかったよ⋯⋯。ちょっと泣いちゃった」
「ライブ参戦おつおつ〜。明日一限からだし私は寝るよ〜。明日の大学で話聞くね〜」
「愛梨おやすみ。わかった⋯⋯」
そうチャットを送り、スマホを鞄にしまう。推しと一緒に撮った写真を眺めては、はにかんでしまう遙香。
気付いたら最寄駅。急いで電車から降り、寮に歩いて帰る。
明日からはいつもの日常。そう遙香は思っていた。
推しのマネージャーになったけど、とても束縛されました。 花宮由里歌 @lazulimeria
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